筆者の机の引き出し奥には、何年も電源を入れていないモバイルPCが放置されています。15年以上前に購入した骨董(こっとう)品で、もう使い物にならないのですが、サイズが小さい(重さ555グラム)ということもあって、同じく数台の3.5インチIDE HDDに積み重なった状態になっています。“○年使っていないものは一生使わない”とも言いますし、正しい手順で断捨離を決行します。
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今回、PCの廃棄を思い立ったきっかけは、2年後の2025年10月の「Windows 10」製品サポート終了があります。わが家にも現役で2台、Windows 10のノートPCが存在しますが、2年後には破棄することになるでしょう。机の奥に放置されていた今回の1台も、Windows 10のモバイルPCです。もう使い物にならないので、2年後に実施することの練習として、PCを安全に破棄するための一連の作業手順をレポートします。
今回破棄するのは、15年以上前に購入した富士通の「FMV-BIBLO LOOX U50X/V」という超小型のコンバーティブル型モバイルPCです。超小型、軽量というだけでなく、ワンセグ放送を受信できるモデルでした。
プリインストールOSは、「Windows Vista」のHomeエディションでした。Windows Vistaから「Windows 7」、最小解像度1024×768ピクセルを要求する「Windows 8/8.1」は飛ばして、Windows 10とアップグレードを繰り返しました。
Windows 10 Fall Creators Update(バージョン1709)までいったんはアップグレードしたものの、おそらくハードウェアスペックの問題でWindows 10 April 2018 Update(バージョン1803)にアップグレードできず、Windows 10 Enterprise LTSB(Long-Term Servicing Branch)2016(バージョン1607)評価版を入れてしばらく使った後、何年も放置していたモバイルPCです。Windows 7まではそこそこ使えていたと記憶していますが、Windows 10になってからは動作が遅くてほとんど使い物になっていませんでした。
さて、PCを破棄する場合、必ずしなければならないのが「HDD内のデータを完全に消去すること」です。ディスクの初期化やフォーマットでは不十分であり、復元不能な方法で完全に消去する必要があります。
筆者はこれまで複数台のデスクトップPC、サーバ、ノートPCを破棄してきましたが、内蔵HDDは取り出して、将来の再利用のために保管してきました。そのHDDが今回のPCと同じ場所に積み重なっていたのです。今回のPCは、HDDを取り外して再利用するにも、特殊なインタフェースですし、サイズも小さい(カタログスペックで約40GB)なので、正しい方法で完全に消去するしかありません。
「データ消去ソフトウェア」と呼ばれるものは多々ありますが、筆者はMicrosoftが無料でダウンロード提供しているWindows Sysinternalsの「SDelete」ユーティリティーを使うことにします。
以下、データの完全消去手順を詳しく紹介していきます。
PCの電源を入れて起動したら、上記のいずれかのURLからSDeleteユーティリティーをダウンロードし、PCのローカルディスク(「ダウンロード」《C:\Users\ユーザー名\Downloads》フォルダなど)に「sdelete.exe」を保存しておきます。64bit OS(x64)を使用している場合は、「sdelete64.exe」も保存しておいてください。
[Shift]キーを押しながらPCを再起動します。「トラブルシューティング」メニューを開いて、「詳細オプション|コマンドプロンプト」を選択し、「Windows回復環境(WinRE)」のコマンドプロンプトにローカルアカウントでログインします(写真1)。
コマンドプロンプトが開いたら、ローカルにインストールされているOSの「ブートボリューム」(「\Windows」ディレクトリのある、オンライン時にC:ドライブだったドライブ)のドライブ文字を確認し、「sdelete.exe」をダウンロードしたパスに移動し、次のコマンドを実行します(写真2)。64bit OS(x64)を使用している場合は、「sdelete64.exe」もコピーしておいてください。
copy sdelete.exe x:
X:ドライブはWinREのイメージを含むRAMディスク(メモリ上に展開されたWinREのイメージ)であり、この操作でコマンドプロンプトで動作している間は「X:\Windows\System\Sdelete.exe」を利用できるようになります。
X:ドライブに戻り、OSのブートボリューム(オンライン時にCドライブだったドライブ、以下の例では現在のD:)をクイックフォーマットします。その後、フォーマットしたドライブに対してsdelete.exeを実行します(写真3)。「このバージョンのsdelete.exeは、実行中の Windows のバージョンと互換性がありません」と表示された場合は、「sdelete」の部分を「sdelete64」に置き換えて実行します。
X: FORMAT D: /FS:NTFS /Q sdelete -p 2 -c D:
「-p」オプションはディスクに上書きする回数の指定です。「-c」オプションは全ての空き領域にランダムなデータを上書きしてから消去します(-cオプションは、米国国防総省《DoD》準拠の消去方法です)。
なお、Windows標準の「chiper /w」コマンドでも同じレベルでデータを消去することが可能ですが、MFT(マスターファイルテーブル)内のレコードは対象外のようです。SDeleteユーティリティーは空き領域の上書き消去(Cleaning free space on ……)に続いて、MFT内のファイルの上書き消去(Purging MFT files ……)を行い、全てを完全に消去してくれます。ディスク容量にもよりますが、5〜6時間はかかることを覚悟してください。
このPCのディスクには、OEMパーティションとシステムパーティション(ブートローダーを含むボリューム)も存在します。これらのパーティションに個人情報につながるようなデータがあるとは思いませんが、念のため、これらのパーティションのボリュームもフォーマットした上でSDeleteユーティリティーを実行すると完全です。
「DISKPART」コマンドを実行し、全てのパーティションを削除してから、WinREをシャットダウンします。以下は、パーティション1がOEM、パーティション2がシステム、パーティション3がブートパーティションの場合の例です。
DISKPART DISKPART> LIST DISK DISKPART> SELECT DISK 0 DISKPART> LIST PARTITION DISKPART> SELECT PARTITION 3 DISKPART> DELETE PARTITON DISKPART> SELECT PARTITION 2 DISKPART> DELETE PARTITON OVERRIDE DISKPART> SELECT PARTITION 1 DISKPART> DELETE PARTITON OVERRIDE DISKPART> EXIT WPEUTIL SHUTDOWN
念のため、電源を入れ、BIOSセットアップメニューを開いて、工場出荷時の設定にリセットします(写真4)。
これでデータ消去作業は完了です。電源を入れても、内蔵HDDにはもう何もないので、エラーが表示されるだけです(写真5)。
これでPCを廃棄する準備はできましたが、これからどうすればよいでしょうか。インターネットを検索すると、さまざまなPC回収サービスが見つかります。今回、筆者は多くの自治体が提携しているという、リネットジャパンリサイクルの「パソコン無料宅配回収サービス」を利用しました(画面1)。
段ボールに詰めておけば、PCだけでなく、周辺機器や携帯電話なども無料で指定日に配送業者が来て回収してくれるそうです。なので、同じく無駄に机の引き出しを占有していたHDDの一部もデータを完全に消去し、破棄することにしました。
近ごろは高性能なSSDの方が大容量、それも安価に手に入るので、SATAディスクはまだ残し、もう10年以上放置してある4台のIDE HDDを破棄することにしました。
筆者はたまたま、2.5インチ、3.5インチ、IDE、SATAの全ての組み合わせに対応可能なUSB接続アダプターを持っていたので(さらにSAS《Sirial Attached SCSI》−SATA変換アダプターもあるのでSASディスクにも対応可能)、それを使ってHDDをPCにUSB接続し、フォーマットした上で、SDeleteユーティリティーでデータを完全に消去しました。4台全てを消去するのに、数日かかってしまいました。
2年後には2台、同じような作業をする予定です。放置している比較的容量の大きいSATA HDDが数台あるので、そのときに一緒に破棄できるように、暇を見てデータ消去しておこうと思います。
なお、SDeleteユーティリティーやMFTについて詳しく知りたい方は、『Windows Sysinternals徹底解説 改訂新版』(日経BP社刊、2017年)や『インサイド Windows 第7版 下』(日経BP社刊、2022年)をお薦めします。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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