AIが消防士の異常な心臓リズムを特定、心疾患発見に期待――NISTが研究成果を報告将来的に一般市民に恩恵をもたらす可能性も

NIST(米国国立標準技術研究所)は、機械学習を用いて消防士の異常な心臓リズムを正確に特定する取り組みを公式ブログで紹介した。

» 2023年08月10日 08時00分 公開
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 NIST(米国国立標準技術研究所)は、機械学習を用いて、消防士の異常な心臓リズムを正確に特定する取り組みを2023年7月11日(米国時間)に公式ブログで紹介した。この研究が最終的には、手遅れになる前に医師の診察を受けるよう促すことができるようになることをNISTの研究者たちは期待しているという。

消防士が勤務中に死亡する割合は救急隊員の4倍

 全米防火協会によると、2022年には米国で36人の消防士が勤務中に心臓突然死で命を落とした。心臓突然死は、不整脈によって心臓が血液を送り出さなくなることなどで起こる。米国で心臓突然死によって勤務中の消防士が死亡する割合は警察官の2倍、救急隊員の4倍だという。

 NISTの研究者であるクリス・ブラウン氏は「毎年、突然の心臓発作は、消防士の命を奪う一番の原因となっている。心臓疾患はまた、キャリアを絶つけがや長期的な障害を引き起こす」と述べる。

異常心電図を約97%の精度で正確に識別

 消防士は階段を上ったり、冷房の効かない極端な気温に耐えたりと、厳しい環境下で働いている。そして、彼らはしばしば、自分が心臓突然死の危険にさらされているかもしれないことに気付かずにこのような状況を乗り切ろうとする。

 この問題に対応するため、NISTの研究者たちはロチェスター大学とコンタクトを取った。連絡を受けたロチェスター大学の研究者であるメアリー・キャリー氏と同僚たちは、電極を消防士112人の胸に付けて24時間分の心電図(ECG)データを収集。心電図データは16時間の当直勤務と8時間の非番勤務の間に収集され、その間に消防士たちは、火災や医療要請への対応、運動、食事、休息、睡眠などの日常活動に従事した。

 研究者たちは次に、ロチェスター大学のデータセットと機械学習を用いて、彼らがHeart Health Monitoring(H2M)と呼ぶモデルを構築した。研究チームはECGデータの大部分を12秒間に分けてH2Mを訓練した。ECGの個々の心拍は、正常拍動か、心房細動や心室頻拍などの不整脈を示す異常拍動に分類された。

 「このモデルは、正常な心拍と異常な心拍の両方から心電図パターンを効果的に学習するように設計されている」とNISTの客員研究員であるジアジア・リー氏は語る。

 H2Mを訓練して検証した後、ロチェスターのデータセットから、消防士の心電図データを分析した。約6000件の異常な心電図サンプルが提示されたとき、H2Mは約97%の精度で異常心電図を正しく識別した。確認のため、H2Mは消防士以外の心電図データセットも用いてトレーニングされた。この消防士以外のデータを使用した場合、H2Mは消防士のデータで心臓の事象を識別する際のエラー率は約40%だった。

H2Mモデルは一般市民にも恩恵をもたらす可能性も

 NISTの研究者であるワイ・チョン・タム氏は「AIモデルの訓練に適切なデータセットを使用することが重要だった」と述べる。

 研究者たちは将来、このモデルを勤務中に消防士が装着する携帯型心臓モニターに組み込み、心臓の異常を瞬時に警告できることを想定している。このようなAIのアシスタントは、消火活動に同行する心臓外科医に次ぐ存在になるかもしれない。

 「この技術は命を救う。適切な心電図データセットでAIが訓練されれば、このアプローチは他のグループを助けるために拡大される可能性がある。消防士だけでなく、他の救急隊員や一般市民にも恩恵をもたらす可能性がある」(タム氏)

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