ファイアウォールの設定を、すり抜け放題にしました☆「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(109)(3/3 ページ)

» 2023年09月25日 05時00分 公開
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契約書だけが全てではない

 本連載の読者の中には、この判決を当然のことと思われた方もいるかもしれない。たとえ契約書や要件定義書に記載のない事項であっても、専門家から見れば必要と思われる機能や性能などは具備しなければならないとする判決を、これまでに何度も取り上げてきたからだ。

 今の時代、インターネットからの全ての通信がシステム内部のサーバに届いてしまうようなファイアウォールの設定は、不注意を通り越して非常識である。ITの専門家であるベンダーなら、そこは何もしなくてもいいのではなく、自分たちに任されたのだという認識を持つのが当然である。契約書に何も書いていないからといって、何の設定もしないというベンダーの態度は、正にプロとしての矜持(きょうじ)を疑うといってもよかろう。

 だからといって、契約書にセキュリティ要件を何も記さないのはユーザーにとって危険だし、ITベンダーにとっても危険かもしれない。

 例えば契約の目的とは関係のない機能が後から要件として加えられた場合、ITベンダーは追加の費用やスケジュールを求めることができるが、契約書に「システムの開発」としか書かれていなければ、追加要件が全て自動的に当初契約の中に組み込まれてしまう危険がある。

 私は今でも時々ユーザーとITベンダーの双方から開発トラブルに関する相談を受けるが、そうした中にも当初契約時に想定した要件が契約変更なしに膨らんでしまったという例はかなりある。やはり契約書と要件定義書は何らかの形でひも付けしておくべきだろう。当初の要件定義書を契約書の別紙に位置付け、そこからの変更がある場合には、しかるべき変更管理プロセスを経て、両者が合意の上で、契約変更とするか現契約の中で処理するかを決定するという旨を契約条項として明記しておくなどの工夫が必要であろう。

細川義洋

細川義洋

ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった

個人サイト:CNI IT Advisory LLC

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