ポスト・デジタル政府ではデータ/アナリティクスはどう変わるかGartner Insights Pickup(321)

各国の政府機関で、「ポスト・デジタル」へシフトする動きが進んでいる。デジタル化だけでは十分な成果を挙げられない状況になっている。

» 2023年10月06日 05時00分 公開
[Ben Kaner, Gartner]

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 多くの政府機関は現在、「ポスト・デジタル」の時代に移行しつつある。ポスト・デジタル時代には、さらなるデジタル投資に見合うビジネス効果として、行政やサービスの改善以上のものが求められる。持続的なミッションの実現が、重視されるようになっている。

 Gartnerは、2026年までに75%以上の政府機関が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功を時間短縮や効率性、市民の満足度といった指標だけでなく、持続的なミッションのインパクトで評価するようになると予測している。

 ミッションの中核的なニーズに関する重要な知見を生み出すため、ポスト・デジタル時代の政府(以下、「ポスト・デジタル政府」)は、データ/アナリティクスへの取り組みを急速に進化させている。政府の課題に対処するには、これまでの経験を基にした「単純な」推測だけでは、もはや十分ではなくなっているからだ。世界的、経済的、環境的な不安定さが増していることがその背景にある。

 政府機関は、個々の規制措置のためであれ、自然災害やパンデミック(感染症の世界的流行)のような複雑な状況展開に対応するためであれ、さまざまなソースからのリアルタイムデータを使用して、十分な情報に基づいて意思決定をしなければならない。柔軟に対応することが極めて重要になる。

知見と予測によるリアルタイムな対応

 政府機関における従来のアナリティクスアプローチは、本質的に“受け身”だった。より成熟した組織は予測的な、さらには“攻めの”アプローチによってポリシーを決定し、行動を導き出している。その好例が、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の「Spark」システムだ。これは、山火事の拡大を予測するためのオープンな火災予測/分析フレームワークだ。

 だが、政府の行動は社会に大きな影響を及ぼすことがあり、状況を変化させる可能性もある。二次的な問題を引き起こさないためには、規制措置を講じるタイミングと、その潜在的な結果(意図されたものか否かにかかわらず)を管理することが重要だ。

 市民や他のステークホルダーの共感を得ることが不可欠であり、知見によって最適なエンゲージメントを予測し、予期せぬ事態に効果的に対応する必要がある。それと同じくらい重要なのが、フィードバックを管理することだ。行動の数カ月後や数年後ではなく、行動を起こすたびにその影響をモニタリングすべきだ。

 アナリティクスのパワーを、重要なアクションが可能な瞬間に、業務の最前線で提供することは、新たなテクノロジーにより、ようやく可能になりつつある。

マルチソースデータの活用

 ほとんどの政府機関は現在、ミッションのために価値を生み出す上で十分なデータを持っていない。限られた特定のユースケース以外では、政府のデータは膨大ではなく、複雑なだけだ。

 従来、データ収集には多大なコストがかかり、さまざまな政府機関が別々の目的で、さまざまな形式でデータを収集してきた。これが政府データの共有を難しくしている一因だ。データを集約すれば、より大きな価値の提供が可能になるかもしれないが、管理コストとデータ漏えいリスクが増大してしまう。

 ポスト・デジタル政府はこのことを認識し、マルチソースデータを利用している。その中には、複雑な少量のデータと、通常業務の副産物として取得される、あまり複雑でない大量のデータが含まれる。

 例えば、フィンランドの「Real Time Economy」プロジェクトとスペインの「TicketBAI」は、マルチソースデータを最も大規模に利用している取り組みの部類に入る。これらのプロジェクトは、リテール取引のデータを収集し、これを用いて取引課税、リアルタイム財務報告、コンプライアンス・バイ・デザインといった機能の実現を目指している。オーストラリアの「Single Touch Payroll」システムは、給与データを用いて似た機能を提供している。

 ただし、こうしたアプローチは、全ての経済分野で実行できるとは限らないだろう。多くの政府機関は、データにギャップがあってもリアルタイムビューを可能にするために、ソース間のデータの裏付けを必要とするからだ。これは、米国保健福祉省(HHS)の「HHS Protect」プロジェクトが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの初期段階で取ったアプローチと、ある程度共通している。

さまざまな技術やツールの活用

 データを集約することで、機械学習のスケーリング(大規模展開に利用可能な)基盤が得られるかもしれない。だが、その基盤が重大な欠陥を含んでいることもある。最も大規模なアプローチ(OpenAIの「ChatGPT」のような大規模言語モデル(LLM)をサポートするために採用されているような)が取られても、不正確な結果が出力される場合もある。こうした結果は「ハルシネーション」(もっともらしいが誤った回答を返すこと。「幻覚」の意)と呼ばれる。

 変化する環境においては、スケーリングデータは、状況展開の初期段階では得られない。政府機関が自然災害に対応する際に直面するこうした困難の一例が、2022年にオーストラリアのニューサウスウェールズ州北部で河川洪水が発生した後で見られた。

 ポスト・デジタル対応の一例として、パラメトリック保険の利用が挙げられるかもしれない。これは、災害後に保険金請求を処理するのではなく、関連する住民の予想されるニーズに基づいて、自動的に保険金が計算される保険だ。パラメータ(変数)が、契約時に設定された条件を満たした場合に、あらかじめ決められた一定額の保険金が支払われる仕組みだ。

 そのためには、コミュニティーへの影響を事前に分析する必要がある。そうすれば、災害発生時に、より小規模で単純な分析と確認をするだけで(例えば「河川の水位が一定の高さに達している」など)、簡単に保険金の支払いを開始できる。これにより、行政の負担や、経済、コミュニティーの復興の遅れが大幅に軽減される。

 これは、より多くのデータを用いてより正確な意思決定をしたいという自然な思いと、迅速な意思決定によって問題を軽減し、政策効果を達成する必要性の間でのリバランスの一例だ。

 こうしたリスクに対処するには、データ分析と人間の知性、予測分析、地域の業務サポート分析を組み合わせたアプローチが必要になる。この組み合わせは、人的要素を忘れることなく、あらゆる規制措置の適時性と価値を高める効果がある。

 最終的に、政府機関がポスト・デジタル時代にミッションを果たすには、収集したデータを活用して政策や施策を実行するとともに、その結果をデータで評価する必要がある。政府の対応は決して完璧とはいかないからだ。

 重要なポイントは、政府機関が高度なデータ/アナリティクスケイパビリティを駆使して、望ましい効果を達成することだ。また、ほぼリアルタイムのフィードバックを利用して、行動を継続的にチューニングし、利用可能なリソースで望ましい政策成果を実現する、政府機関の能力を最適化していくことも求められる。

出典:How data and analytics will change in post-digital government(Gartner)

筆者 Ben Kaner

Senior Director, Analyst


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