Microsoft、「Azure Quantum Development Kit」のプレビュー版を提供開始Rustをベースに再構築した量子コンピューティングプラットフォーム向け開発キット

Microsoftは、「Azure Quantum Development Kit」のプレビュー版の提供を開始したと発表した。

» 2023年10月13日 12時00分 公開
[@IT]

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 Microsoftは2023年9月19日(米国時間)、「Microsoft Azure」で提供する量子コンピューティングクラウドサービス「Azure Quantum」向けの開発キット「Azure Quantum Development Kit」(以後、QDK)のプレビュー版を提供開始すると発表した。

 QDKは2017年後半に初めてリリースされ、以降進化を続けたが、複雑さと依存性のために複数の課題に直面していたという。これらの課題に対処するため、開発チームは次の目標を設定し、プレビュー版のQDKを開発した。

  • ユーザーエクスペリエンスの簡素化:QDKは複雑で、特に.NETに精通していない開発者にとっては、インストール時や使用時に混乱を招く原因となっていた。セットアップからコーディング、トラブルシューティングに至るまで、簡素化されたユーザーフレンドリーな体験を提供することを目標とした
  • プラットフォームのサポート:既存のQDKは、Apple SiliconやWindows on ARM64など、プラットフォーム固有のコードや依存関係に問題を抱えていた。そのため、ブラウザベースのツールを含め、より広範なプラットフォームのサポートを確保することに目標を置いた
  • パフォーマンスと信頼性:既存のQDKには大規模かつ複雑な依存関係があり、パフォーマンスと信頼性に問題があった。そのため目標をパフォーマンスと信頼性を向上させるために、依存関係の合理化に置いた
  • エンジニアリングの速度:複数のリポジトリ、ビルドパイプライン、言語、ランタイム、配布チャネルがあるため、エンジニアリングプロセスは複雑で時間がかかっていた。開発プロセスを簡素化し、より効率的で生産性の高いものにすることを目標にした

新しく提供されるQDKの特徴

 プレビュー版としてリリースされた新たなQDKは、以下の原則に基づいて設計されている。

ほとんどをRustで記述

 新しいQDKは主にRustで記述されている。この選択により、コードベースはさまざまなプラットフォーム向けのネイティブバイナリに対応できるほか、Webブラウザで実行するためのWebAssembly用にビルドすることもできる。コードベースを小さくし、高速なバイナリを作成できるとした。

最小限の依存関係

 開発チームは、学習、インストール、メンテナンス、最終的な製品サイズに関連するコストを削減するために、依存関係を最小限に抑えた。

  • Rust:コアとなる言語
  • Python:パッケージをビルド、PyPIに出荷し、リポジトリ内のタスクのスクリプト作成に Python を使用
  • JavaScript(TypeScriptを含む)Visual Studio Code(VS Code)拡張機能を構築し、Web統合コードを作成
QDKの依存関係(提供:Microsoft) QDKの依存関係(提供:Microsoft)

簡素化された高速エンジニアリング

 QDKを用いた開発環境の構築は迅速で容易になったという。製品の開発を効率的に進めることができ、ビルド/インフラストラクチャのメンテナンスも容易になるとした。

必要不可欠な機能への集中

 QDKに追加される機能は、明確な目的を持ち、大きな価値を提供するものでなければならない。このアプローチにより、製品はより合理化され、将来の開発のための複雑なコードベースは少なくなる。

QDKの処理速度や性能はどう変化しているのか、使い勝手はどうなるのか

 従来のQDKは、ローカルで180MBを超えるバイナリを作成していた。新しいQDKのVS Code拡張パッケージは約700KBで、VS Code用のQ#開発ツールが含まれている。

 Microsoftによると、従来のQDKでは、特定のプログラムのコンパイルに数分かかっていたが、新しいQDKではミリ秒単位まで短縮された。言語サービスはほとんど瞬時に動作し、ほとんどの操作はキー入力と同時に実行される。シミュレーターは、標準的なノートPCで、多くの一般的なアルゴリズムについて、1秒間に何千もの「ショット」が実行可能だという。新しいQDKのビルドパイプラインははるかに高速で、メインブランチへの各コミットにかかる時間は約10分とした。

「VS Code for the Web」をサポート

 新しいQDKはVS Code for the Webをサポートしており、ユーザーはローカルにインストールすることなく、ブラウザ上でQDKを含むIDEを実行可能だ。全ての機能が、VS Codeデスクトップでもブラウザでも同じように動作する。ユーザーは、Q#ファイルの編集、量子シミュレーターの実行、Azure Quantum Workspacesでの作業を、全てWebブラウザ上で完結させられる。

安定版の提供に向けて、機能追加や改善を予定

 Microsoftは、QDKの安定版リリースまでに以下の機能追加や改善を実施予定としている。

  • マルチファイル対応:プレビューではQ#プログラムの全コードを1つのソースファイルにする必要がある
  • より豊富なQIRサポート:プレビューはQIRの基本プロファイルをサポートするハードウェア用のプログラムをコンパイルできる。ハードウェアの一部がより高度な機能をサポートし始めたため、そのサポートも追加予定だ
  • 移行:既存のQDKとの完全な後方互換性がないため、サンプルやドキュメントを更新予定

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