TechTargetは、「ElixirとClojureの違い」に関する記事を公開した。JavaScriptやPythonほどではないが、大規模関数型プログラミングの世界ではよく知られているElixirとClojureの特徴を紹介する。
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TechTargetは2023年11月30日(米国時間)、「ElixirとClojureの違い」に関する記事を公開した。
「Elixir」と「Clojure」は、エンタープライズ規模のアプリケーション開発プロジェクトに関数型プログラミング機能を提供することを目指しているが、その実現方法はそれぞれ異なる。ElixirとClojureのどちらを選ぶかを決めるには、まず、両言語の歴史、習熟度、利用可能な開発リソースを把握する必要がある。
Elixirは、「Erlang」の仮想マシン「BEAM」に構築された関数型プログラミング言語だ。Erlangもプログラミング言語で、複雑で大規模なソフトウェアのシステムにフォールトトレランスとスケーラビリティをもたらす。ElixirはこのErlangと関連付けられているため、リアルタイムアプリケーションの構築、組み込み型システムの設計、バックエンド開発を行う際に使用する有力な候補になる。
Elixirは「不変性」と「第一級関数」(First Class Functions)を重視しており、Pinterestなどの企業の開発部門では、サーバのプロビジョニングコストを削減するために使用されている。Elixirの特徴的な機能にアクターモデルがある。アクターとは自己管理型のプロセスで、個別のアクターをシーケンシャルな動作(順次的な動作)としてではなく、並列に実行できるため、分散型システムの運用の同時実行性を高める。もう一つの特徴は、マクロによるメタプログラミングをサポートしていることだ。これによって定型コードや特定のアプリケーション関数を自動的に生成できる。ただし、開発者はこの機能を使い過ぎないように注意する必要がある。
Elixirには、強力なフレームワークが幾つかある。例えば「Phoenix」は、Webベースのチャットアプリケーションなど外部クライアントとのリアルタイム通信を必要とする「インタラクティブなWebアプリケーション」向けの機能を提供する。「Nerves」は、組み込み型システム専用に設計されたモジュールのライブラリやコマンドラインツールを提供するものだ。
開発者の中には「Elixirの構文は『Ruby』やErlangに慣れている人であれば理解しやすい」と言う人もいるが、関数型プログラミングの初心者には難しい面がある。幸い、ドキュメントや開発ガイドが充実しているため、学習過程はスムーズに進むだろう。
Elixirのコミュニティーは急速に広がっていて、ほぼ全てのタスクで適切なライブラリが見つかるのが一般的だ。このコミュニティーは、初心者に必要なことについて、親切かつ効果的にサポートすると評判だ。
Elixirと同様、Clojureも関数型プログラミング言語だ。違うのは、BEAMではなく、Java仮想マシン(JVM)で実行されることだ。Clojureは「LISP」系言語の一つで、データ操作や入出力操作のようなタスクに向いている。Clojureは、AdobeやAmazon.comのような企業のサーバサイド、クラウドベース、IoTアプリケーションの開発プロジェクトで使用される汎用(はんよう)性の高い言語だ。
Clojureでよく知られる特徴として「ソフトウェアトランザクショナルメモリ」(STM)をサポートしていることが挙げられる。STMを使えば、大規模システムにおけるアプリケーションの状態管理の複雑さを緩和できる。ClojureのSTMは、MVCC(MultiVersion Concurrency Control:マルチバージョン並行処理制御)を使用している。このSTMによって、1つのトランザクションに関係するデータの複数のバージョンが管理され、読み取りと書き込みの操作を同時に実行できるようになる。また、Clojureには、リスト、ベクター、マップのような不変のデータ構造のセットが豊富に含まれている。不変データ構造は、関数型プログラミングに役立ち、状態管理をシンプルにする。
他にもClojureは、さまざまな独自の開発ツールを持っている。「Leiningen」は、依存関係のフェッチ、テストの実行、デプロイに向けてのプロジェクトの準備、リポジトリへのライブラリの公開といったプロジェクト管理タスクを自動化するもので、Clojureベースのツールの中でも人気だ。「ClojureScript」も強力なツールだ。これを利用することで開発者はClojureコードをJavaScriptにコンパイルし、アイソモーフィック(クライアントサイドとサーバサイドで同じ言語を使って開発する)Webアプリケーションをビルドできる。
LISPのようなClojureの構文は初心者には手ごわいかもしれない。ただし、習得は難しいとしても、Clojureの仕組みを理解すれば、強力かつ柔軟な開発者エクスペリエンスがもたらされる。コミュニティーの規模はElixirよりも小さいといわれることはあるが、Clojureのコミュニティーも活気に溢れ、さまざまな学習リソースにアクセスできるようになっている。
ElixirとClojureのどちらを選ぶかの決定に影響を及ぼす4つの要素がある。
リアルタイムアプリケーション、組み込み型システム、データパイプラインを構築するのであれば、信頼性の高さやフォールトトレランスといったElixirの特徴が有利に働く。一方、サーバサイドアプリケーション、データサイエンス、クラウドコンピューティングなどがプロジェクトに関係するのであれば、JVM互換と効果的なマルチスレッドという特徴を持つClojureが有利になる。
開発チームのスキルセットを考慮すべきだ。RubyやErlangの経験があれば、Elixirへの移行が容易になる。JavaやLISPに精通しているのであれば、Clojureが適切な選択肢になるだろう。
どちらの言語にも開発リソースの豊富なコレクションが用意されているが、それぞれのライブラリとツールは得意とする分野が異なる。Elixirで使えるPhoenixとNervesはWeb開発や組み込み型開発に優れたツールだ。Clojureから利用できるLeiningenやClojureScriptが提供するのは強力なプロジェクト管理機能やアイソモーフィックWebアプリケーション開発をサポートする。
アプリケーションプロジェクトの長期目標にスケーラビリティとフォールトトレランスが含まれているのであれば、ElixirとErlangの関係性はClojureよりも有利に働く。一方、ClojureはJVMと密接に結び付いているため、動的なエンタープライズレベルのWebアプリケーションにとって不可欠なランタイム機能が提供される。
どちらの言語も、開発チームに大規模なソフトウェアのシステム内で関数型プログラミングの柔軟性を実装する機会を提供する。どちらを選ぶかを十分な情報に基づいて決めるには、アプリケーションプロジェクト特有のニーズと既存の専門知識を慎重に評価する必要がある。
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