仕様書通りにシステムを作りました。使えなくても知りません「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(113)(2/3 ページ)

» 2024年02月28日 05時00分 公開

要件を間違えたユーザー企業が悪いのか、間違いを見抜けなかった専門家の不備か

 この裁判には数多くの不具合が提示され、裁判所は個々の不具合について判断した。ユーザー企業が要件を検討し、ベンダーに提示したが誤っていた代表的なものは、以下の2点である。

1.コード表の不備

 利用者が作業コードをいったん入力すると、カーソルが後ろへ戻らず、データを修正しようとしても打ち込めない。作業コードが平成7年4月14日当時で905件に達し、統一性がなく設定され、コード検索画面も一度に6件しか表示しないので、目的のコードを見つけるまでに50回程度画面を切り替えなければならなく、実用的ではない。

2.口座振替一覧表の不備

 本件ソフトウェアは、顧客に対する請求を銀行に依頼する口座振替の台帳となる「口座振替一覧表」に振替金額、振替日などの情報が含まれておらず、取引銀行に口座振替を依頼できない。

 これらはいずれも常識的に考えて、財務/経理処理を行うのに致命的ともいうべき欠陥と思える。しかし前述した通り、これらはユーザー企業担当者が検討し、その結果をベンダーに示した詳細要件に当たる。ユーザー企業の業務や財務、経理について常識的に考えれば、こうした仕様が不備であることは分かる。しかしベンダーは、ユーザー企業が示したものであることから、これを要件として設計作業に入ることにした。

 さて、これによって発生した不具合の責任は、ユーザー企業、ベンダーどちらにあるのであろうか。要件は要件であって、ベンダーとしてはこの通りに作るのが自身の責任であるとの考え方もあろう。一方で、ユーザー企業の業務を考えれば不備は明白であるので、指摘し、修正を促すべきとの考え方もあろう。ただし、そうすべきであったとしても、それが契約上の義務とまでいえるかどうかは争いのあることだ。

 皆さんはどのように考えるだろうか。判決の続きを見ていただきたい。

広島地方裁判所 平成11年10月27日判決より(つづき)

ベンダーは提案書において、本件システムの目的として販売管理、経営管理の迅速化、合理化を図ることを提示していたのであるから、コンピュータソフトウェアの製作に関し、自らが有する高度の専門的知識経験に基づき、目的の実現に努めるべき責務を負うと解するのが相当である。

しかるところ、ベンダーは、ユーザー企業作成の「コンピュータ仕様書」の他に、旧システムの仕様書などおよび契約書や伝票などの参考資料を受領していたのであるから、ユーザー企業の調査結果や各資料に基づいてユーザー企業の業務の内容を分析した上、専門技術的な視点で判断して必要と思われる事項を提案、指摘するなどして原告をサポートする義務があったというべきである。

 裁判所は、もしユーザー企業の示す要件が誤っていても、契約の目的や一般的な常識に照らして誤りがあるのであれば、これを指摘し是正させるのはシステム開発の専門家であるベンダーの責任であるとした。

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