経営リーダーが創造的破壊の担い手となるには何が必要かGartner Insights Pickup(343)

経営リーダーは、自らがリーダーとしての行動様式を変える必要があることを認識し、イノベーションを加速させる上で重要な行動をマスターしなければならない。

» 2024年03月22日 05時00分 公開
[Tsuneo Fujiwara, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」などのグローバルコンテンツから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 ディスラプション(創造的破壊)が次々と起こる中、野心を持つ企業が迅速かつ革新的な認識、優先順位付け、対応をし、あっという間に従来の企業に取って代わっている。イノベーションを活用して優れた商品、サービス、効率的な業務およびビジネスモデルを実現し、既存企業に挑戦したからだ。

 多くのイノベーションリーダーにとって、社内人材の能力や社内のリスク選好度、組織文化が、依然としてイノベーションの最大の障壁となっている。こうした社内の障壁を克服するために、経営リーダーは新たなリーダーシップを発揮し、イノベーションを加速させなければならない。チームの考え方を変えるには、ディスラプター(創造的破壊者)になる必要がある。

 過去数年に相次いで起こったディスラプションから得られた教訓がある。従来のリーダーシップの在り方は、変えなければならなかった。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンのような新しい製品を生み出すイノベーションを、タイムリーに成功させるために必要な俊敏性、コラボレーション、信頼、成果をもたらさなかったからだ。コロナワクチン開発のような“ムーンショット”(※)は、達成基準が明確な目標が設定され、チームがコラボレーションと協働ができる環境が整備され、スピードが何よりも優先されたときに、創造的破壊を起こすリーダーシップによって達成された。

※ 短期的な利益を期待せずに行う、野心的、探索的、画期的なプロジェクト。極めて困難で多大なリソースを必要とするが、実現すれば、大きなインパクトのある成果が得られる取り組み。ムーンショットのもともとの意味は、月探査ロケットの打ち上げ。

トレーニングと教育リソースを提供する

 経営リーダーは、従業員がイノベーションのフレームワークを理解し、イノベーション活動(新しいアイデアの実験や探索など)をするスキルと能力を身に付けられるように、従業員にトレーニングや教育リソースを提供する必要がある。

マインドセットの転換を主導し、文化を変革する

 次に、経営リーダーは、カルチャーハッキング(日常的なコミュニケーションやミーティングに対して、目に見える小さな変化を起こすこと)のような即効性のある手法を用いて、マインドセットの迅速な転換を主導し、文化を変革する必要がある。

 最初は、協力に前向きなビジネスリーダーと交渉し、その配下の従業員に通常業務との兼任で、イノベーション活動の立ち上げに加わってもらう。ビジネスリーダーの同意を得た上で、既に資金が確保されたプロジェクトの予算の一部を振り向けるか、あるいは割り当てられた教育予算から資金を手当てする。共通のビジョンでは、破壊的なストレッチゴールやムーンショットゴールを示す。

ガバナンスを調整し、イノベーションチームに権限を与える

 チームの知性を刺激する動機付けの一つの方法は、上層部の指導や承認を求めるのではなく、現場で課題を解決できる、より自律的かつ自己統治型の環境をチームに提供することだ。イノベーションの過程では多くの場合、まず非本番環境でモックアップが作られる。このため、取り組んでいるイノベーションのビジネスにおける重要性と複雑さが比較的低ければ、自己統治型のスイートスポット(伸び伸びと働ける場)を提供するためにガバナンスを緩和する。

 ビジネスにおけるイノベーションの重要性と複雑さが増すとともに、IT部門とビジネス部門が主導または提携として目を配ることで、ガバナンスを強化していけばよい。イノベーションが複数のビジネス部門にまたがり、重要なエンタープライズアプリケーションと統合され、非常に高いレベルの複雑さをもたらすとき(またはその可能性がある場合)にのみ、強力なガバナンスが必要になる。

データリテラシーを高め、データドリブンな意思決定をする

 データリテラシーも、イノベーション能力の重要な要素だ。われわれの社会はデータドリブンの傾向がますます強まっており、価値創出にはデータによるエビデンスが必要だからだ。データストーリーは価値や情報、アナリティクスを結び付け、より迅速で信頼性の高い意思決定を支援する。イノベーターのデータリテラシーを高め、同じ包括的な価値、情報、アナリティクス(VIAモデル)を見られるようにすれば、イノベーターは適切に質問することで、データストーリーを作れるようになる。

ルールを破り、創造的破壊を起こすイノベーションを実現する

 どのルールを破れるかを判断する際は、法律や倫理、規制の順守徹底を忘れてはならない。また、企業のDNAに組み込まれている指針や原則にも反してはならない。だが、イノベーションを妨げ、目標として共有されているビジネス成果の達成を阻害する可能性のある他のルールは全て、破ってもよい対象として検討すべきだ。それらは従来のパラダイムに基づく形だけのルールだからだ。例えば、「イノベーションを始める前に、正式な予算を確保する必要がある」「教育を始める前に、トレーナーと契約すること」といったものがそうだ。

出典:What Executive Leaders Need to Take to Become Disruptors(Gartner)

※この記事は、2024年1月に執筆されたものです。

筆者 Tsuneo Fujiwara

VP Analyst and Gartner Fellow


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