従業員50人以上の企業が本番環境で「Linkerd」の安定版を利用する場合、2024年5月から、Kuberetesクラスタ1つ当たり月額2000ドルを支払わなければならなくなる。この変更を巡り、オープンソースユーザーやアナリストでさまざまな意見が出ている。
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CNCF(Cloud Native Computing Foundation)傘下で「卒業プロジェクト(Graduated Project)」の認定を受けているサービスメッシュ「Linkerd」は、将来の開発資金を得るために、オープンソースコードの配布アプローチを間もなく変更する予定だ。
Linkerdを管理するBuoyantは、2024年5月21日から従業員50人以上の企業が本番環境でLinkerdの安定版を利用する場合、Kubernetesクラスタ1つ当たり月額2000ドルをBuoyantに支払う必要があると公式ブログで発表した。
BuoyantのCEOであるウィリアム・モーガン氏は次のように述べている。
「このプロジェクトを長期にわたって維持していくには、現状では不十分だ。Linkerdを土台に構築されているビジネスをプロジェクトの資金調達に結び付ける何らかの仕組みが必要だ。その仕組みがなければ、プロジェクトを進化させ、全員が望む方法でプロジェクトを成長させていくことはできない」(モーガン氏)
Linkerdプロジェクト全体のソースコードは、2024年5月21日以降もGitHubから入手できる。ソースコードの試験的早期リリース版もGitHubで公開される。一方、Buoyantの開発者による追加、変更作業が含まれた最新の安定版は「Buoyant Enterprise for Linkerd」(BEL)を通じてリリースされ、有償でしか利用できなくなる予定だとモーガン氏は語る。
「問題は、ソフトウェアのエンドユーザーとして何を利用したいかだ。最先端のコードを利用したいのか、それとも運用時のリスクを減らすための最低限の変更を含むコードを利用したいのか。それこそが当社が目指す区別だ」(モーガン氏)
モーガン氏によると、この変更に対するコミュニティーの反発は覚悟しているという。今回の更新を発表する同社ブログ記事の「FAQ」セクションの最後に、モーガン氏は「Who can I yell at?」(誰に怒りをぶつければよいのか)という質問に対する答えを掲載している。
「Buoyantが健全に運営されていくかどうかは、Linkerdの導入を検討している多くの企業にとっての懸念材料だ。同社はプロジェクトの管理者であり、メンテナンス作業の大半を担う。希望小売価格に基づくと、競合プロジェクトである『Istio』をサポートする最大の競合企業よりもまだ安価だ」と語るのは、EコマースソフトウェアプロバイダーのDutchieでスタッフソフトウェアエンジニアのクリス・キャンベル氏だ。
キャンベル氏は、今回の変更はプロジェクトの助けになると同時に、プロジェクトに害をもたらす可能性もあると話す。
「今回の変更はBuoyantが存続するきっかけになるという確信を深めた。だが、Linkerd導入の妨げになるとも感じざるを得ない」(キャンベル氏)
2023年にHashiCorpが実施したビジネスソースライセンスへの切り替えとは違って、Linkerdにおける安定版バージョンの配布アプローチの変更は、Linkerd自体のライセンス変更を意味するものではないとモーガン氏は強調する。だが、複数の業界アナリストは「今回の変更はオープンソースからの離脱だ」と断言する。
Enterprise Management Associatesでアナリストのトルステン・フォルク氏は「Buoyantは『申し訳ないが、本番環境で利用できる製品をオープンソースコードとして配布する余裕はなくなった』と発言したことで、同社はこのプロジェクトからオープンソースという性質を取り除いたことになる」と述べている。
オープンソースプロジェクトに貢献する開発者は、開発に貢献する見返りとして本番環境で利用できるコードを受け取ることができないなら、このプロジェクト、つまりはBuoyantの収益に貢献したいとは考えないだろうとフォルク氏は予測する。
モーガン氏は、そうした懸念が正当である可能性を認め、貢献者と解決方法を探っていくことに前向きだと述べている。
「貢献者はそうした感情を抱くかもしれない。そこにはエッジリリースをテストするのと同様な緊張がある。貢献でありながらも相応の労力が求められるからだ。この問題についてのいい答えは持ち合わせていない。ただし、BuoyantやLinkerdに限った問題ではない」(モーガン氏)
エンタープライズでオープンソースソフトウェア(OSS)が広く利用されるようになるにつれ、オープンソースの哲学的理念と企業ビジネスの優先順位の間に摩擦が生じるようになっている。近年、複数の企業が製品開発の資金を確保することを目的にオープンソースへのアプローチを変えている。2024年1月には、Functional Softwareが同社の「Sentry」を、「持続可能性の危機」を理由に遅延オープンソースモデル(※編注:独自ライセンスとして公開後、一定期間後にオープンソース化する手法)に切り替えている。
オープンソースを巡る問題がLinkerdに限らないことにはキャンベル氏も同意する。
「オープンソースファーストの企業にとって常に問題だ。ただ、製品と収益をつなげる方法は、オープンソースの精神に忠実であるべきだと考える。独自に追加される専用機能に頼らずうまく対応できる利用者はそれほど多くはないだろう」(キャンベル氏)
IDCでアナリストのビジャイ・バガヴァス氏は「Linkerdの既存ユーザーが持続可能で信頼性の高い製品を手に入れられるのなら、Buoyantの資金調達策は必ずしも間違った動きではない。おそらく同社が生き残り、資金を手にする唯一の方法だ。だが、緊迫した状況になるだろう」と述べている。
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