「カンバン」の原則をソフトウェア開発で実践するにはリーン、スクラム、カンバンは競合するものではない

カンバンは製造業でその概念が確立され、その後、「リーン」や「スクラム」などの方法論とともにソフトウェア開発チームによって採用された。カンバンの原則をソフトウェア開発で実践する方法を解説する。

» 2024年04月19日 08時00分 公開
[Gerie OwenTechTarget]

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 「カンバン」はソフトウェア開発で確立された概念ではないが、今日では多くの開発チームが採用する方法論になっている。

 カンバンとは、ジャストインタイムという考え方に重点を置いてプロセスの効率を上げることを目的に製造業で生まれた概念であり、大量の在庫を管理するコストの削減や品質の向上を図るものだ。

 アジャイルソフトウェア開発の基礎となっているのが、カンバンと同じ考え方だ。

 2001年に「アジャイルソフトウェア開発宣言」と12カ条の原則が公開されたとき、ソフトウェア開発チームはこれを利用して、ウオーターフォールモデルのような柔軟性に欠け、時間のかかる方法論だけでなく、アジャイルの反復可能なソフトウェア開発手法(「スクラム」や「リーン」のようなソフトウェア開発)を目的に合わせて採用するようになった。反復可能なソフトウェア開発手法により、開発を少しずつ進めることで、外的環境の変化を開発の優先順位に組み込むのに必要な柔軟性が確保される。

リーン、スクラム、カンバンの違い

 スクラム方式では、バックログの調整、スプリント計画、毎日のスタンドアップミーティング、スプリントのレビューやレトロスペクティブ(振り返り)といった一連の取り組みがある。それぞれの作業は段階的に進められる。このアプローチによって、コラボレーションや開発速度は改善される。だが、スプリントのコミットメント(確約)を変更するのは難しい。つまり、柔軟性には制限がある。

 リーンソフトウェア開発は、製造業のカンバンとの直接的関係が深い。2003年にトム・ポッペンディーク氏とメアリー・ポッペンディーク氏は、共同で執筆した書籍『Lean Software Development:An Agile Toolkit』(リーンソフトウェア開発:アジャイルツールキット)の中で、バリューストリームマッピング(VSM)などの概念を当てはめ、無駄を排除し、可能な限り迅速にソフトウェアをリリースするプルアプローチ(クライアントのニーズに基づく作業の管理)に注目した。リーン方式にはメリットもあるが、意思決定のプロセスが難しくなる可能性がある。

 ソフトウェア開発手法としてのカンバンは、スクラムやリーンの原則の影響を受け、この両方式の欠点にある程度対処している。

カンバンのメリット

 カンバン、スクラム、リーンは競合するアプローチではなく、組み合わせて利用できる。カンバンは、プロセス全体の作業の流れをカンバンボード上で目に見える形で表現することで、スクラムやリーンのアプローチを改善する。

 作業の流れが目に見えることで柔軟性が向上し、スクラムでのスプリントコミットメントにまつわる難しさが解消される。進行中の作業(WIP:Work In Progress)の管理効果を高めるために、カンバンボード上にはいわゆるスイムレーン(レーン)が追加される。

 各レーンは、チーム、クライアント、仕事などの種類別に整理できる。プルアプローチによって、作業の効率が上がり、無駄が少なくなる。

カンバンの原則とコアプラクティス

 カンバンは、作業を整理して管理するプルシステムで、以下の4つの原則と6つのコアプラクティスを土台に構築されている。中心となる原則とコアプラクティスを念頭に置いてカンバンを実装すれば、柔軟性が高く、効率に優れ、効果の高いソフトウェア開発手法になる。

カンバンの4つの原則

  1. 現状認識から始める:チームは、現在取り組んでいる価値あるプラクティスを認識し、変更は現行のプラクティスの見直しに基づく必要がある。その結果、不要な作業のやり直しが少なくなる
  2. 段階的に変化を求めていくことに同意する:最初の原則に従い、継続的に改善するという考え方に基づく。フロー(流れ)という考え方と、変化は1つのプロセスであることもチームの統一認識にする
  3. 現行の役割、職務、役職を尊重する:カンバンは、継続的な改善に必要なことのみを変更する共同作業であると位置付ける
  4. チームのあらゆるレベルにおいてリーダーシップの発揮を奨励する:何か問題が持ち上がったとき、チームの各メンバーが責任を持って対処できるようにする。その結果、創造力やイノベーションも促進される

カンバンのコアプラクティス

  1. ワークフローの可視化:プロセスの各段階での作業とそれに伴うビジネスリスクを理解する。プロセスの透明性を生み出すのがカンバンボードだ。プロジェクトとチームにとって最も意味のあるスイムレーンを使ってカンバンボードを設計することが重要だ
  2. WIPの制限:無駄を減らすには、WIPを制限することが重要だ。無駄が減れば、速度が上がり、コストが減る。これがプルシステムの基礎になる。必要なチケットのみ作業する。カンバンボードによって、チームはWIPを効果的に管理できる
  3. フローの管理:カンバンボードの列を使ってワークフローを管理する。各列が作業の段階を表す。カンバンボードを見れば、ワークフローが妨げられている場所を簡単に確認できるため、タイムリーに是正措置を講じられる
  4. プロセスポリシーの明確化:透明性を確保するには、ポリシーを明確にすることが重要だ。全てのポリシーとプロセスについて話し合い、チームに公開する。全チームでの話し合いによって最優先するプロセスを決め、チーム全体での共通理解にすることが重要だ
  5. フィードバックループの確立:継続的インテグレーション(CI)の基礎になるのは、迅速なフィードバックだ。迅速なフィードバックがなければ、プルアプローチの効果が得られず、作業は効率良く進まない
  6. 共同作業の改善と実験的進化:カンバンの基盤となるのが、チームメンバー同士の共通理解だ。共通理解が、継続的改善のカギになる

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