そこで、ある問いが浮かびました。「どうしたら、このような『視点』と『言葉遣い』が身に付くのだろうか?」
「顧客の業務に関心を持つ」「丁寧にヒアリングする」「小学生でも分かるぐらいの言葉遣いを意識する」など、幾つかの方法が思い浮かびます。ですが、どれもありきたりといえば、ありきたりです。また、「意識する」というのは簡単だけど、「意識」だけではなかなか行動に結び付かないことを、僕は経験的に知っています。
普段から実践できることはないだろうか?
いい方法だなぁと思う1つ目のアイデアは、「いろいろな人と関わる」です。
先日会った社会人1年目のエンジニアは、「社外のいろいろな勉強会に参加しています!」と話していました。その勉強会ではLT(ライトニングトーク:5〜10分程度の短いプレゼンテーション)があったそうで、彼がLTで話したプレゼン資料を見せてもらいました。
そこに並んでいたのは、IT業界で働いている人たちが好んで使う言葉たちでした。言い方を変えると「IT業界の人以外には難しそうな言葉」です。参加した勉強会は、恐らくエンジニアたちが集う場だったのでしょう。
視野を広げる上で、社外の勉強会に参加するのはとても良いことです。一方で、同じ業界の人同士だと、同じような特性、同じような言葉遣い、同じような興味関心を持つ人たちとの会話になります。
視野を広げたり、多くの人に伝わる言葉遣いを実践したりするためには、エンジニアの枠から飛び出してみることが有用です。時には、全く異なる環境の人たちが集まっていそうな勉強会に参加してみるのもいいかもしれません。最近は、越境学習という、所属する組織や職場を離れて異なる環境で学ぶことで新たな視点や知識を得る学習が注目を集めています。
2つ目のアイデアとして、僕が実践している方法を紹介します。それは「毎日、自分の考えを言語化して発信する」ことです。
僕はいま新潟に住んでいて、地方の人口減少や人材不足に課題感を持っています。この問題を解決するためには、テレワークで地域外の人たちと働く環境を作ったり、デジタル化を進めて業務を効率的にしたりする必要があると考えています。しかし新たな取り組みは、周囲から「言っていることは分かるけどねぇ」と、なかなか理解されないことも多いものです。
そこで僕は、「こういったことが課題だと思っている」「そのためには、こうすればいいんじゃないかと考えた」など、自分の考えを毎日言語化し、音声や文字に起こして発信しています。
だからといって、すぐにどうこうなるものではありませんが、少なからず、できるだけ多くの人に届くことを願い、繰り返し言語化することで、自分の意見の解像度が高まりましたし、第三者に伝えるトレーニングにもなっています。実際、全く縁がなかった方から「その意見、分かります」と声を掛けられることがあります。
毎日となると労力がかかるため、継続はなかなか大変ですが、人に説明する力を付けるアイデアとしてご紹介しました。
ここで触れた内容は「そんなこと、分かっているよ」という内容ばかりだったことでしょう。
しかし、いろいろな経験をしてきて思います。大切なのは、その“当たり前”を愚直に継続することなんじゃないか、と。抽象度の高い視点と言葉遣いを身に付けるために、いまできそうなことから始めれば、自分の持ち味を生かしつつ、長い間活躍できるようになれるのだと思います。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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