ユーザー企業が選定したパッケージソフトウェアを導入したベンダーが「業務に適合しなかった」と訴えられた。そんな要件、聞いてないよ!
パッケージソフトウェア、クラウドサービス、生成AI(人工知能)のLLM(大規模言語モデル)など、ユーザー企業がシステムの重要な構成要素を選定しなければならない場面が、近年とみに増えてきた。
ベンダーの技術者が一からプログラミングしてシステムを開発した時代であれば、ユーザー企業はベンダーに全てを任せ、採用する技術を自らの責任で決めることは少なかった。
しかし昨今は、さまざまな業務を支援するパッケージソフトウェアが複数存在し、クラウドサービスも多種多様である。生成AIにしても「ChatGPT」「Gemini」「Microsoft Copilot」「Claude」など、さまざまな選択肢がある。これらをどう選定して、どのように組み合わせればいいのか、最終的に決めるのはユーザー企業である。ベンダーはそれを提案するに過ぎない。
ユーザー企業にもITに関する知見がより多く求められる現代は、ある意味ユーザー企業受難の時代なのかもしれない。
ではベンダーは、単に提案し、ユーザー企業からの質問に答えるだけでいいのか。重要な決定を素人であるユーザー企業に任せてより良いシステムが本当にできるのか、という問題はある。
無論、ベンダーもパッケージソフトウェアや各種サービスを提案するに当たり、その場その時、最善と思われるものを選定はするだろう。しかしその選択が、ユーザー企業の業務に本当に適合するのか、ベストであるのかまではベンダーには分からないであろう。それにもかかわらず、何を導入するかをユーザー企業が最終的に判断するというのはいかにも心もとない。
今回は、サービス選定の責任範囲が争われた紛争を紹介する。
まずは概要をご覧いただこう。
あるクリニック運営者がITベンダーに対して、診療の予約機能などを有するクリニック向けパッケージソフトウェアの導入を委託し、ベンダーはこれを実施したが、これをテスト的に導入したところ、予約が2カ月先までしか入れられないことが分かった。
クリニックの業務では2カ月より先の予約を入れる必要があったが、本件パッケージソフトウェアではこれには対応できず、クリニック運営者は、本件パッケージソフトウェアが(2カ月以上先の予約を必要とする)業務に適合するかどうかを調査し、適合しないのであれば説明する義務があったはずなのに、それを怠ったとベンダーの説明義務違反を訴えた。
これに対してベンダーは、クリニック運営者からあらかじめ説明のない実務運用の調査まで行う義務まではなく、説明義務違反には当たらないと反論した。
出典:公刊物未掲載 事件番号 平成31年(ワ)3449号
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