ベンダーに対してクリニック運営者が依頼したのは「パッケージソフトウェアの導入作業」であり、「パッケージソフトウェアの選定自体」は、ベンダーの提案に基づいてクリニック運営者が行ったようだ。
そして、「予約が2カ月先までしか入らないのでは、実務上支障がある」ことはベンダーには伝えられていなかったことが、判決の内容から推測できる。ベンダーからすれば、「それならそうと先に言ってくれれば、実務に適合するソフトウェアを提案したのに」と言いたいところだろう。
だがクリニック運営者からすると、「パッケージソフトウェアの提案をしてもらうのにどのような情報を提示すべきかなんて、ベンダーに教えてもらわなければ分からない」というところだろう。形式的上パッケージソフトウェアの選定責任は自分たちにあっても、「専門家であるベンダーが勧めるものであれば、問題なく動作するはずだ」と考えるのは、ある意味自然なことでもある。
本訴訟は「ベンダーが負うべき責任はどの範囲までか」を争うものであり、裁判の結果は、一般のシステム開発全般、またクラウドサービスやLLM選定などもその射程に入るかもしれない。
判決の続きを見てみよう。
本件システム導入のための協働関係に入っていたと認められるベンダーは、少なくとも本件システムの予約管理機能について懸案事項が発生し得ることについての認識を持ち得たといえる。
本件の事情の下では、信義則上、クリニック運営者から本件クリニックにおける予約の実態や要望などについて追加で聴き取りをするなどにより、クリニック運営者が本件システムを導入するかについての適切な判断をすることができるように配慮すべき義務を負っていたというべきである。
裁判所はクリニック運営者の訴えを認め、ベンダー敗訴となった。
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