ここまでの話は、「AIの生成したコードでは満足できない」「AIに指示を出し、コードを待つだけの作業に情熱を注げない」という問題点でした。
ここで、少し視点を変えてみます。なぜあなたが情熱を注げなくなってきていると感じるのか? それは、あなたの中に「もっと深く考え抜きたい」という隠れた欲求があるからではないでしょうか。
実は、この欲求こそが、これからのAI時代に最も必要とされる資質なのではないかと、ボクは思っています。なぜなら、AIは「それっぽい答え」を「高速に出す」のは得意ですが、理想の設計のために「じっくりと納得がいくまで考え抜く」ことができないからです。
プログラミングの面白さは、「美しい解決策」を思い付いた瞬間に抱く、至上の満足感だと思っています。AIとの対話や指示で進める仕事のやり方は、一見違うようにも見えます。ですが、その本質は、実はプログラミングとあまり変わらないのではないかと思っています。
AIが提示したコードをそのまま受け入れず、「本当にこれで最適か?」「もっと洗練された構造があるはずだ」とこだわり続ける。その結果、良いアウトプットが生まれる。この姿勢は、AI時代においてプロダクトの品質を左右する最後の砦(とりで)です。
あなたの「粘り強さ」を、「いかに意図を正確に伝え、理想の出力を引き出すか」というAIとの対話のプロセスに向けてみてください。また、AIが出してきたコードを、より吟味してみてください。エンジニアが得意な「思考の主導権」は手放さず、AIを「思考を整理するための壁打ち相手」として活用する。そうすることで、エンジニアリングの楽しさを新しい形で再定義できるはずです。
人口減少が進み、あらゆる分野で効率化が求められるこれからの日本において、エンジニアの皆さんにもっと活躍していただきたいとボクは願っています。AIによって「普通の開発を普通にすること」のハードルは下がりました。しかし、いまこそAIには決して届かない「人間ならではの価値」が必要なときです。
LLM(大規模言語モデル)は過去の情報を学習している仕組み上、「効率」は生みますが、自発的な「創造性」や「知的好奇心」は持っていません。そのような環境で作られたAIのアウトプットに全幅の信頼を置くことはできません。
複雑なシステムの設計、セキュリティへの洞察、そして何より「なぜこのプロダクトを作るのか」という問い。こうした「深さ」は人間ならではです。
これらは、あなたの中にあります。あなたがこれまで培ってきた、問題の本質を見抜く洞察力や、納得がいくまで美しさや効率を追求する情熱。それらは、AIという「道具」を使いこなすことで、より大きなインパクトを、いま所属している会社や社会に与えるための武器になるのではないでしょうか。
個人的な話で恐縮です。ボクはかつてエンジニアでしたが、ある事情で技術の道を離れざるを得ませんでした。だからこそ、いま現場で戦い、悩み、情熱を燃やし続けようとしている皆さんのことを、心から尊敬していますし、長く活躍していただきたいと思っています。
あなたがいま覚えている「プログラミングがつまらなくなった」という違和感。それは、あなたの情熱が消えたのではありません。新しい時代の変化に対して、あなたの魂が「もっと手応えのある場所」を探しているサインなのではないでしょうか。
無理にAIを好きになる必要はありませんし、効率性だけを追い求める必要もありません。あせる必要もありません。ただ、AIという新しい道具を手に入れた「冒険家」として、これまでよりも少し遠くの景色を見に行ってみませんか?
AIが生成したコードは「それを指示した人間の思考を反映した鏡」であり、作り手の探求心や愛情がなければ「魂のない無味乾燥なもの」になってしまいます。AIが提案したコードに対して、あなたのエンジニアとしての経験や、いまの仕事に対する熱量を込めることで、「血の通ったコード」へと昇華されるはずです。
あなたの情熱の火は、まだ消えていませんし、あなたの培ってきた技術も、こだわりも、決してあなたを裏切りません。「効率性」はAIに任せても、「美学」や「納得感」を追求する主導権は決して手放さない。その姿勢こそが、これからの時代にエンジニアが情熱を持ち続けるための鍵になるのだと思います。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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