AIの進化で若手エンジニアの仕事が消滅しつつある。「ジュニアはいらない」と切り捨てた先に待つのは、技術継承が途絶えた「焼け野原」だ。Rubyの父 まつもとゆきひろさんが語ったのは、プログラミング言語の存続以上に深刻な、人材育成の断絶への危機感だった――。
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【お知らせ】本記事を含む、まつもとゆきひろさんの提言をまとめたeBookを公開しました。eBookだけの特別付録として、本インタビューの全文を書き起こした「ディレクターズカット」も収録しています。併せてお読みください(編集部)
オブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」の誕生から30年。Rubyの父 まつもとゆきひろさん(通称 Matz)は、この30年のIT業界の変化について感慨深げに振り返る。
「私にとって好印象だったのは、OSS(オープンソースソフトウェア)が一般化したことですね。昔はマイナーなイメージで、『ちゃんと仕事をするならお金を払ったソフトウェアを使いなさい』と言われていた。大学で実験するためだったらフリーソフトウェアを使ってもいいけれど、仕事では心配、みたいな言われ方をしていたのですが」
しかし、時代は変わった。LinuxやMySQL、そしてRuby。ソフトウェアを構築する多くの構成要素が、OSSで賄えるようになった。
「『OSSを作ることそのものを仕事にしています』みたいな人も出てきましたし、OSSをベースに会社が成り立ってますみたいなところがほとんどになってきているので、そこの変化ってのは非常に印象的ですし、感慨がありますね」
OSSといえば、コミュニティーの存在が不可欠だ。特に、オープンでフレンドリーな「Rubyコミュニティ」は、Rubyという世界観を形作る大きな要素である。
だが、「RubyWorld Conference2025」の基調講演でまつもとさんが語ったように、コミュニティーが大きくなるにつれ、その維持コストも増大していく。
OSSそのものは「無料」ではあるが、そのインフラや活動を維持するためには大きなコストがかかる。OSSがビジネスの基盤となり、重要インフラのトラフィックが全世界で膨大になるにつれて、コミュニティーにまつわる費用も増大し、巨大化したエコシステムを支えきれないのが現実だ。
そこでまつもとさんは、OSSの恩恵を受ける企業に対し、「フリーミアム」的なアクションを求める。
「大きいが故にコミュニティーを維持するためのコストが高くなってきているので、皆さんの手弁当ではカバーしきれなくなってるんですよ。そこで大きな企業なりが、『うちはRubyなりLinuxなりを使って恩恵を受けているので、一部還元しましょう。うちは人を出しましょう、うちはお金を出しましょう』ってならないと、長期的に維持しづらい。そういう問題に直面しているプロダクトは、Rubyも含めて結構たくさんあると思いますね」
資金だけでなく、人材による貢献も重要だ。業務時間の一定割合をOSS開発に充てることを許可する企業も増えてきた。まつもとさんは、企業の浮き沈みを考慮した上で、持ち回りのような支援の形を提案する。
「沈んだときはしょうがないので、また別の企業にお願いしますみたいな感じにしたいですね」
Rubyといえば、産みの父であるまつもとさんが、Rubyist(ルビイスト)たちに絶大なる信頼を寄せられていることも特徴だ。「Matz is nice and so we are nice(まつもとさんがナイスだから、私たちもナイスだ)」という言葉があるぐらいに「Ruby=まつもとさん」の印象は強い。
だが、まつもとさんも永遠ではない。物理としてのまつもとさんがいなくなった後、例えば50年後にもRubyは存続するのだろうか。
その問いにまつもとさんは、自身については「死んでると思いますね。間違いなく」と笑うが、自身やRubyの生死以上に、プログラミングそのものの存続を危惧している。要因は、急速に進化する生成AI(人工知能)だ。
「プログラミングという活動そのものが、ここ5年10年で全く変わってしまう可能性があるんで、未来予測しづらいんですよ」と前置きした上で、基調講演でも話した自身の体験を披露した。
「コードを1行も触らず、1行も見ずにRubyで書いたソフトウェアを作ったんですよ。怖いでしょう? Rubyで書いてあるんですけど、僕そのコード1行も見てないんですよ、まだ。少なくとも、プログラミングできる人が適切な指示を出したら、コードを1行も見なくても書けちゃうんですよ。ある程度のソフトウェアが」
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