AIがコードを書く時代において、プログラミング言語の役割はどう変わるのか。
まつもとさんは、言語が「書くもの」から「読むもの」へと変化する可能性を示唆する。AIが生成したコードが正しいかどうかを判断するのが、人間のエンジニアの仕事になるかもしれないというのだ。
「極端な例だと、ここ5年10年でプログラミング言語とはレビューのためだけのものになる可能性が結構あって。レビューする人だけがコードを読みます、もう誰もコードを書かないでレビューだけします、となる可能性があって。その場合、Rubyが生き延びる道ってユーザーのレビュー用言語みたいな形になるのかなと思ってます」
暗い話が続いたので、閑話休題。ClarisのAI担当 ロニー・リオスさんから預かった質問を投げ掛けてみた。ロニーさんに取材した際、「2日後にまつもとさんに取材する」と話したら、「ぜひ、これを聞いてきてくれ」と託されたものだ。
“If you were to create a new language today”――いま新しい言語を作るとしたらどんなものを作りますか?
まつもとさんの答えは、「並列処理に特化したデータフロー言語」だった。
「人間にプログラムを書かせると、大体『この処理をして、こういうふうにして』って単発で考えてしまうので、1つの仕事、1つのコアでしかないんですよね。そうじゃなくて、『たくさんのデータがあります。このデータをガーっと流して、こういうふうにフィルターして』ってワークフローだけ書くと、中をデータが勝手に流れていって、結果だけすごいパフォーマンスで出ます、みたいな言語が欲しいなと思ってて。それはAIの学習のための前処理などに役立つんじゃないかな」
まつもとさんはかつて、このアイデアを基に「Streem(ストリーム。「e」は2つ)」という言語のプロトタイプを作成したことがあるという。
Streemは現在、GitHub上で眠っている。Rubyが忙しくてずっと手つかずの状態だが、手伝ってくれる仲間がいたら動き出すかもしれない。興味を持った読者諸君、まつもとさんに連絡してみてはいかがだろうか?
なお、まつもとさんによると、AIがプログラミング言語を作ることは、現在でも「可能」だという。言語を作ること自体はそれほど難しいものではなく、大学でコンピュータサイエンスを専攻した学生だったら、1学期の実験で作れるぐらいの技術的な難易度なのだという。
だが、作ることと、そのアイデアが優れていて広く受け入れられることと、それを30年間続けることは、それぞれ全然別だともいう。また、どんな言語が欲しいのか、どうあるべきか、といったアイデアの部分がAIから出てくることは、“いま”はない。
対談の終盤、まつもとさんの声に一層の熱がこもったのは、「エンジニア育成」への危機感について語った時だった。AIがコーディングを肩代わりすることで、若手エンジニア(ジュニア)が経験を積む機会が奪われつつある。
「『ジュニアはいらない』って切っちゃうと、シニアが退職した後、一体どうなっちゃうのっていう話はありますよね。つまりミドル以降をどうやって育成したらいいのかって、いまから考えないといけない問題だと思うんです」
シニアエンジニアたちは、あまたの失敗やバグ修正を通じて「暗黙知」を蓄積してきた。しかし、これからのジュニアにはそのプロセスがない。AIが出力したコードをレビューできるだけの広範な知識を、どう身に付ければいいのか。
「言語化されていない暗黙の知識みたいなものをどんどんアウトプットしていかないといけないというのは、AI時代のシニアの責任なんじゃないかと思いますね。じゃないとミドルがいなくなっちゃうから」
知識の継承が途絶えた先にあるのは、技術的な空洞化、すなわち「焼け野原」だ。
「そういうディストピアにならないために、私たちシニアが、持ってるスキルなり何なりをミドル以下に移転していくことについて、真剣に考える時期だと思いますね」
AIの台頭により、未来は予測不可能になった。しかし、まつもとさんはそれを悲観するのではなく、ダイナミズムとして捉えている。
「いまは、いままで起きなかったことが起きる時代だと思うんですよね。そこに飛び込むってのは、リスクも高いが成功する確率も高いってことなんじゃないか。ハイリスク、ハイリターンな時代になったなと思いますね」
エンジニアにとって、いまは下克上のチャンスでもある。
「で、いま飛び込むのは非常に面白いってことだと思います」
【お知らせ】本記事を含む、まつもとゆきひろさんの提言をまとめたeBookを公開しました。eBookだけの特別付録として、本インタビューの全文を書き起こした「ディレクターズカット」も収録しています。併せてお読みください(編集部)
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