さて、ここからが今日の本題「言語化が苦手なエンジニアは、AI時代に取り残されてしまうのか?」です。この問いに対する僕の答えは「半分はイエス、半分はノー」です。
まず、希望のある「ノー」の側面から見ていきましょう。生成AIの本当の価値は、実は「最初から完璧に言語化できる人」を助けること以上に、「まだ言語化できていないモヤモヤしたもの」を抱えている人の伴走者になれる点にあります(具体的な内容は後述します)。
もう一つの「イエス」の側面について。言語化が苦手な人が、得意な人に「置いていかれてしまう」危険性があるのは、残念ながら事実です。それは、言語化のスキルそのものが低いからではありません。次のような姿勢をとってしまう場合です。
このような「あいまいな指示で」「答えを求める」ばかりでは、それっぽい答えしか得られません。結局のところ、AIを使いこなせるかどうかの分岐点は「言語化しようとする気持ちがあるかどうか」に尽きます。
では、「まだ言語化できていないモヤモヤしたもの」を言語化し、言語化の苦手意識を払拭(ふっしょく)するためには、AIに対してどのように振る舞えばいいのでしょうか?
僕がよく試すのは、AIに「答えさせる」のではなく「質問してもらう」ことです。
つまり、AIに「○○の答えを教えて」と指示するのではなく、「言語化したいから、問いを投げて」と指示するわけです。イメージとしては、AIから「○○について、あなたはどう考えますか?」とインタビューしてもらう感じです。
僕が「AIから質問してもらう」メリットに気が付いたのは、ある日、夕食に何を食べようか悩んでいたときのことです。何となくAIに「おなかがすいた」と入力したところ、次のようなメッセージが返ってきました。
それはつらいですね。サクッといきましょう。
いまの状況別 お勧め
1 すぐ食べたい(5〜10分)
2 少し余裕あり(15〜20分)
3 今日はちゃんと満たしたい
もしよければ、「いまどこにいるのか(家/外)」「軽く or がっつり」だけ教えてください。そこに合わせて一択まで絞ります。
このやりとりを繰り返す中で夕食のメニューを選択したのですが、このように「問い」を与えられると、それがどんなにあいまいな状況でも、僕たちは「何がいいかなぁ」と思考を始め、その答えを見いだそうとしますよね。
つまり、AIから質問されることによって、自分がまだ言語化していない/できていないことを言語化する機会になります。また、AIから幾つかの選択肢を出されると、「そういう考えもあるか」のように、新たな視点に気付くこともあります。
この「問い」のメリットに気付いてから、僕は意識的にAIから「問いを投げてもらう」ようになりました。
では、AIから「問いを投げてもらう」ためには、どのような指示を与えればいいのでしょうか? この1行が、言語化のプロセスをスタートさせる最初のプロンプトです。
××にモヤモヤしています。このモヤモヤを言語化し、思考を整理するために、私に選択肢から答えられる問いを投げてくれませんか? 「OK」というまで、このプロセスを繰り返してください
このプロンプトのポイントは、モヤモヤしている内容の言語化が進むように「選択肢を出してもらう」点です。
例えば、この記事の本題でもある「言語化が得意な人だけがAIで得をする」という意見にモヤモヤしているなら……。
「言語化が得意な人だけがAIで得をする」という意見にモヤモヤしています。このモヤモヤを言語化し、思考を整理するために、私に選択肢から答えられる問いを投げてくれませんか? 「OK」というまで、このプロセスを繰り返してください
以下は、「Gemini3」と対話した結果です。
そのモヤモヤ、非常によく分かります。「言語化が得意=AIを使いこなせる」という図式は、一見正論に見えて、実は「言語化」という言葉の定義が人によってバラバラなために起こる違和感ではないでしょうか。
あなたの思考の解像度を上げ、モヤモヤの正体を突き止めるために、まずは以下の3つの切り口から問いを投げます。最も直感に近いものを選んでみてください。
Q1. あなたが感じている「モヤモヤ」の正体は、次のうちどれに近いですか?
A 言葉の定義への疑問:「AIを動かすのは『言語』だけじゃない(直感や美的感覚、論理構成力など)のに、言葉だけにフォーカスされるのが納得いかない」
B 公平性への懸念:「『言語化が得意な人だけが勝つ』という言説が、表現が苦手な人を切り捨てているようで冷たく感じる」
C 言語化の本質とのズレ:「AIがやってくれることこそが『言語化』なのに、なぜ人間に高い言語化能力を求めるのか? という矛盾を感じる」
D その他:(もしあれば、自由に書いてください)
まずはこの選択肢から選んでいただくか、今の率直な気持ちを教えてください。それを受けて、さらに深く掘り下げる問いを投げさせていただきます。
このように、幾つかの選択肢を出してもらいながら質問に答えていくと、言語化しにくい感覚的な内容が言語化がしやすくなります。選択肢の中には、想定外の選択肢があることもあります。「なるほど、そういう考え方もあるか」のように、新たな気付きや発見がある場合もあります。
「言語化が得意な人だけが勝つための道具」に見える生成AI。でも、本当のところはそうではありません。むしろ、「言語化のプロセスに価値を見いだし、自分の感覚を深掘りしようとする人」を助けてくれる道具です。
そのためにも、「答えを求める」だけではなく、言語化が進むように「問い掛けてもらう」ようにする。そうすれば、AIは最高の伴走者になってくれます。自分の中に何となくあるモヤモヤを入り口に、AIから投げられた問いに答え、少しずつ構造化、言語化していく。
この楽しさを知ったとき、言語化はもう壁ではありません。「言語化のプロセス」が分かれば、あなたのエンジニア人生をより豊かに、よりクリエイティブにしてくれるはずです。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
AIが奪ったのはエンジニアの「仕事」ではなく「情熱」だった
ノーコードはエンジニアの仕事を奪うのか?
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