元警察官が語る、AI時代のエンジニア生存戦略開発未経験から、自社サービス開発のスペシャリストへ(1/2 ページ)

生成AIの進化により、将来への不安を抱えるエンジニアは多い。特定の技術を学べば安泰という正解がない今、どうキャリアを築くべきか。そのヒントを探るべく、元警察官という異色の経歴から自社開発エンジニアへ転身した黒川和弘氏に話を聞いた。

» 2026年05月11日 05時00分 公開
[鈴木麻紀@IT]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

 「@IT」は2000年の創刊以来、25年にわたり読者アンケートを実施してきた。そこで浮かび上がる読者の悩みは、驚くほど変わらない。「将来が不安である」「この先、どういう技術を身に付けたらいいのか分からない」というものだ。

 とりわけここ1年ほどは、生成AIの急激な進化によって「先の見えなさ」が、より深刻になっている。特定の技術や言語を学べば安泰という正解がない時代において、エンジニアたちはどうキャリアを築けばいいのだろうか。

 そのヒントを探るべく、全くの異業種である「警察官」からキャリアチェンジを果たし、官公庁や大手企業向けのAI×セキュリティ製品を手掛けるChillStackで、企業の個人立替経費の申請・承認データを元に、自動的に不正や異常・不適切な明細を検知するシステム「Stena Expense」のバックエンド開発を担当している黒川和弘氏(32歳)に話を聞いた。

 警察官、運送ドライバー、不動産営業――紆余(うよ)曲折のキャリアを歩んできた黒川氏はいま、生成AIを駆使した最前線の開発現場で活躍している。彼がどのような壁にぶつかり、何を考えて行動してきたのか。その軌跡には、AI時代を生き抜くためのリアルな生存戦略が詰まっている。

最前線の現場とAI時代を生き抜く「レビュー力」

 読者がいま最も知りたいのは、「実際の開発現場でAIがどう使われているのか」、そして「エンジニアの仕事は奪われるのかどうか」ということだろう。この問いに対し黒川氏は、生成AIの台頭を極めてポジティブに捉えている。

 自社の開発現場における生成AIの活用状況について、黒川氏は次のように語る。

 「主に開発の実装工程で使っています。例えばある機能を作るとして、チームの中である程度データモデリングなどの設計をします。そうしたモデリングをしてからコードに落とし込む時に、設計を元にざっくりと作ってもらうようなイメージです。大体80%ぐらいでしょうか。サーバ側のAPIであれば、ブラウザ側からのアクセス窓口やビジネスロジック、データ層へのアクセス層はここ、といった設計をしておけば、大体その通りに生成AIは実装してくれる。そういった使い方をしています」

 イチからコードを書くような実装工程の一部は、既にAIが代替しつつある。黒川氏も「実際に自分で手を動かしてコーディングすることが少なくなってきているのは事実ですね」と認める。

 では、エンジニアの役割はどこにあるのか。それはAIが出力した大量のコードを判別し、修正する「レビュー」だという。

 「いわゆるアウトカムとアウトプットの話だと僕は捉えています。生成AIってたくさんコードを出してくれるんです。だけどその中で使えるコードって体感6割とか7割とかそれぐらいなんです。そこを判別するのはやっぱり人間です。そのレビューがボトルネックになっているのは、僕たちも実際認識してる課題です」

 AIに指示を出す際も、人間に対するのと同じように具体的な設計や要件を伝えることが重要となる。

 「ほとんどのケースで、具体的に指示を出すとその通りに動いてくれますね。ふんわりと『××機能を実装して』などの指示しか出さないと、思ったものとは違うものが出てくる。人間でも同じだと思うんですけど。指示する側の人間が自然言語でちゃんと伝える、AIだからってラフに指示しないで、相手が人間だと思って指示を出すと、結構狙い通りのものが出来上がるという感覚です」

 AIが書いたコードの良しあしを判断するには、プログラミングの基礎的な知識が必要不可欠である。黒川氏は「何がいいコードで、何が悪いコードなのか区別が付かないと、レビューってできない。その知識は必要ですね」と指摘する。コードを読む力こそが、これからの時代を生き抜く強力な武器になるのだ。

 「仕事では、コードを書くよりも読む方が長い。それは生成AIが出る前からそうだったので、『読む』という1つのスキルだと思うんです。だから、これからの時代は、読むスキルを鍛えるのがいいんじゃないかと思いますね」

 エンジニア不要論がささやかれる昨今だが、黒川氏の目には明るい未来が映っている。

 「エンジニアという職業自体はなくならないと思います。一部の工程を代替しているだけの話だと思うので。Webや基礎的なプログラミングやオブジェクト指向やデータ構造の理解といった、エンジニアとしての知識は引き続き必要になってくると思います。ある意味、エンジニアという仕事の中の面倒くさいところをAIが取って代わってくれてるだけなので、これからは「何を作るかを見極める力」を養っていくことにより、エンジニアは活躍の幅が広がると思っています」

警察官から運送ドライバーを経て見つけた「天職」

 前段で語られた「AIのコードをレビューするために必要な基礎知識」を、黒川氏はいかにして身に付けたのだろうか。彼のキャリアは、一般的なエンジニアのそれとは大きく異なる。

 高校卒業後、群馬県から上京した黒川氏は、警察学校での厳しい訓練を経て、警視庁の警察官となった。

 「新宿で2年半、歌舞伎町と大久保で働いた後に、機動隊というところに行きました」

警察官時代の黒川さん

 ヤクザと黒人の抗争やキャッチの金銭トラブル仲裁などを日常的に行う、過酷な業務をこなす日々だった。東日本大震災の5年後には、福島第一原発の警備部隊任務にも就いた。やりがいのある仕事だった。手応えも感じていた。しかし、5年間の勤務を経て、彼はきっぱりと警察を辞める。その理由は「キャリアの上限が見えてしまったこと」だった。

 「粛々と階級を上がっていくというのが、受け入れ難かったんです。警察官向けのライフプラン構築アプリがあって、自分の年齢と階級を入力すると、退職までに年収がいくらで、大体階級はこのぐらいに昇進して、と分かるんです。それを見たら、高卒だと60歳になった時にこのぐらいの年収で、このぐらいが限界だというラインが分かっちゃって、あまり面白くなくなった」

 退職後は不動産営業や運送ドライバー職を経験する。そんな迷走期とも言える時期に、運命を変える出来事があった。自身のブログのカスタマイズだ。

 「当時、運送ドライバーをやりつつブログも書いていました。あるとき、CSSでスタイルを調整したら、『こんなふうにシステムって動いてるんだ』って感動したんです。『コンピュータに命令するとはこういうことなんだ』と実感できて、すごく面白かったんです。文字の色を赤にしただけだったんですけど。それが、プログラミングを学ぶきっかけになりました」

 「周りが見えなくなるぐらい、のめり込んじゃう」という黒川氏は、本気でエンジニアを目指すため、独学でRuby on Railsを学び始める。しかし運送会社での仕事は残業が月60時間を超える過酷なもので、学習時間の確保が難しかった。そこで彼はある決断を下す。

当時、読みあさった書籍の一部。高校時代の得意科目は国語。文章を読み、理解するのが得意だった

 「この状況では勉強する時間を取れないと判断したので、ライバル会社に転職しました。そこの準社員には、14時から21時までというシフトがあったので、午前中をプログラミングの勉強に充てました。最初は独学で勉強して、ある程度知識が身に付いてきたので不動産系スタートアップで開発のアルバイトをして、実務経験を積んだところでシステム開発会社に転職しました」

 「黄金の午前」を使って、プログラミング知識ゼロから経験者に変貌を遂げたのだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

その「AIコーディング」は本当に必要か?
Microsoft & Windows最前線2026
4AI by @IT - AIを作り、動かし、守り、生かす
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。