VLAN設計でもconfig投入でも「あの人しか分からない」を脱却、自動化されたネットワークの正体NaaSで変わる企業ネットワーク(3)

ネットワーク運用は、人手に頼った作業の積み重ねによって支えられてきました。キャンパスNaaSが目指すのは、そうした運用からIT部門を開放することです。どのようなアプローチなのかを解説します。

» 2026年07月21日 05時00分 公開

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 「SD-WAN」(Software-Defined WAN)は、ネットワークインフラをサービスとして利用する「NaaS」(Network as a Service)の一つですが、NaaS市場でこれから注目されるのはそうした「WAN as a Service」だけではありません。

 今後NaaS市場において成長が加速する可能性があるのが、LAN(ローカルエリアネットワーク)をNaaSとして利用する「キャンパスNaaS」です。第2回の『「CLIをたたいて問題特定」はもう古くなる? ネットワークトラブルの約7割を排除、LAN運用はこう変わる』では、キャンパスNaaSが単にサブスクリプション型の支払いモデルを提供するサービスなのではなく、導入後のネットワーク運用管理の変革にまで踏み込む、包括的なサービスであることを解説しました。

 第3回となる本稿では、こうしたネットワークの運用管理がキャンパスNaaSによって置き換わる裏で何が起きているのか、そしてなぜ「自律型ネットワーク」が不可欠であるかを深掘りします。

VLAN設計やconfig投入の「あの人しか分からない」を脱却

 従来のキャンパスLAN構築は、いわば「一点物のオーダーメイド」でした。専門スキルを持つネットワークエンジニアが各拠点の要件をヒアリングし、それをポリシーに落とし込む。そして拠点ごとにVLAN(Virtual LAN)を設計し、複雑なルーティングプロトコルを組み合わせ、数千行のコンフィグを投入していく――。このような世界観で成り立っていました。

 しかし、この人手によるカスタマイズは複雑性を生み、設定ミスの温床となります。「わが社のネットワークは設計したあの人しか分からない」といった運用の属人化の要因でもありました。

 キャンパスNaaSが目指す「自律型ネットワーク」は、この複雑性を設計から運用まで、全てのフェーズにおいて排除するアプローチを取ります。

1.設計の標準化と抽象化

 自律型ネットワークの第一歩は、物理的なインフラと論理的なサービスを切り離す「抽象化」にあります。キャンパスNaaSでは、プロバイダーが検証済みの標準デザインテンプレートを用意し、それを基にネットワークを構築します。個別の職人芸的な設定を排除することで、AI(人工知能)やソフトウェアツールによる管理がしやすい「きれいな基盤」を実現しています。これによって高度な自動化が可能になります。

 これはIT管理者が、機器ごとの設定を意識しなくて済むようになることを意味します。IT管理者は、NaaSの管理レイヤーで(論理的なサービスのレイヤー)に自社のネットワークポリシーをインテント(意図)として指定するだけです。後は機器ごとの違いを吸収する抽象化レイヤーが、デザインテンプレートを基にしてコンフィグに落とし込んでくれます。

 従来のネットワークでは、従業員の異動や入社、新しい機器の接続などのたびに、VLAN設定やACL設定、コンフィグの流し込みなどが必要になります。それに対してキャンパスNaaSでは、「営業部のユーザーはどの業務システムにアクセスできるのか」といったポリシーを指定すれば、抽象化レイヤーが必要な設定を自動生成し、各機器へ反映してくれるというわけです。

2.クローズドループ・オートメーション

 自律型ネットワークの核心は「クローズドループ(閉ループ)」にあります。クローズドループとは、ネットワークの状態を継続的に観測し、AIが異常や変化を分析した上で、必要な設定変更や復旧処理を実行し、それをまた観測するという一連の流れを繰り返す仕組みです。

  • 観測(Observe)
    • ネットワーク内の全機器から膨大なテレメトリー(稼働データ)をリアルタイムで収集
  • 分析(Analyze)
    • AIがその環境に応じた「ベースライン(正常な状態)」を自動算出し、それと比較し、異常やパフォーマンス低下を予兆・検知
  • 実行(Act)
    • 問題を解決するための最適な処置を自動で実施

 例えば、ある無線LANアクセスポイント(AP)で干渉が発生した場合、システムが自律的にチャンネルを調整したり、隣接するAPの出力を最適化したりします。これまでは管理者がアラートを見て判断していたプロセスを、システムが自己完結させるこれらの機能が「自律型ネットワーク」の真髄です。

3.ライフサイクル全体の自動化(Day 0 to Day N)

 自律型ネットワークは、導入時(Day 0)の設定だけでなく、日々の運用(Day 1)、そしてパッチ適用やハードウェア更新(Day N)に至るまでを自動化します。

 特に「ソフトウェアのアップデート」は、脆弱(ぜいじゃく)性対策として重要でありながら、通信断のリスクから先送りにされがちな業務でした。キャンパスNaaSでは、システムが安全なタイミングを判断してローリングアップデート(ネットワークを止めずに機器を順番に更新)を自動実行するため、常に最新かつ安全な状態が維持されます。

 例えば、米国のキャンパスNaaSベンダーであるNile社が提供する次世代アーキテクチャでは、AIと自動化がそうした手間のかかるライフサイクル管理を肩代わりします。これにより、IT部門は煩雑なバージョン管理や互換性チェックの苦労から解放され、インフラ全体の運用方針やセキュリティ対策の強化など、より重点を置くべき業務に注力できるようになります。

IT部門の本分は「作業」ではなく「最適化」

 ネットワークが自律的に動作することで、IT部門は「つながらない」といったクレーム対応や、深夜や休日に実施していたアップデートなどの運用業務の負荷を大きく減らすことが可能になります。

 とはいえ、ITシステム部門がユーザー業務を鑑みながらネットワーク全体のポリシーを策定し、運用していくことには変わりありません。AIや自動化が担うのは、機器の設定やソフトウェア更新といった定型業務です。キャンパスNaaSのツールを活用することで、安定性や俊敏性を高めるためのネットワーク設計や、安全性を確保するためのセキュリティ方針の検討など、より付加価値の高い業務に注力できるようになります。キャンパスNaaS導入によってIT部門の本質的な価値が下がることはなく、むしろIT部門の価値向上に寄与すると言えるでしょう。


 次回はキャンパスNaaSがもたらすセキュリティ新形態、「ユニバーサルゼロトラスト」について解説します。

著者紹介

井上 勝晴(いのうえ まさはる)

ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部 イノベーション推進部

同社応用技術部にて主に通信キャリア向け技術を長年担当。その後、米国にて新規商材の発掘・先端技術の動向調査に従事。現在はビジネス開発チームをリードし、新規商材の事業創出を推進している。


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