コピーキャット(パクリ屋)との戦い方:プログラマ社長のコラム「エンジニア、起業のススメ」(4)(2/2 ページ)
ビジネスは弱肉強食だ。規模の面ではるかに勝る同業他社にオリジナル製品やサービスをパクられたら、どうすればよいのだろうか。
コピーキャットの行為はモラルに反しているし、フェアじゃないかもしれない。しかし、大手の競合がこういったコピー行為を行うことは全くもって珍しくなく、特に製品を簡単かつ安価にコピーできるソフトウェアやWebベースサービスではよく見られる。
ここで、スタートアップたちが唯一の被害者だと思わないことだ。食物連鎖の中でもコピー行為はよくあることで、大魚は小魚を丸飲みにするものだ。中堅企業はスタートアップから、大企業は中堅企業から、世界的な巨大企業は大企業から技術を奪い、破産に追い込む。
この慣習は実に卑劣だが、創業者は皆コピーされることを予期し、備えておく必要がある。“こういった事態は、誰にでも起こる”ということを、常に念頭に置いておかなければならない。
裁判所に駆けこんでも、良い結果は得られない
もちろん、手ひどい扱いを受けた前述の社長は、この種の事態に陥った多くの起業家同様、一連の話をメディアに持ちかけ、その大規模な競合を法に訴え出た。彼の心情は察するに余りあるが、いずれの策もほぼ確実に破滅的な結果を迎える。
法廷に持ち込むなどとはもっての外で、事実がどうであれ、規模が上回る会社を相手とした裁判は、規模の小さい会社の資源を何年にもわたって消耗させていくことになる。相当な時間と資金を法廷闘争に費やすことで、本来なら営業や製品開発に使われるはずの資源が長期にわたって徐々に奪われていく。裁判で苦しめられる間に市場からもどんどん後退し、小さい方の会社が勝訴したときにはすでに破産状態、なんていうこともよくある話だ。
メディアに持ち込んでコピーキャットに恥をかかせようというのもまた、大抵は裏目に出る。この場合も規模の大きい方にメリットがある。大半の業界ジャーナリストはどちらか一方に肩入れすることを極力避けようとするし、もし肩入れする場合には、大きい方の側に付くというものだ。
弱い方の味方に付かないジャーナリストが責められるべきではないのか。そのような批判が正当化されることもあるが、多くの場合は、責任感のあるライターなら、完全には理解できない状況に対して態度をはっきりさせることを嫌がる(私でもそう言わざるを得ない――実際、上記エピソードに関与している会社を読者が推測できないように若干の変更を加えている)。
訴訟や社会的非難によってある程度のカタルシスは得られるだろうが、間違いなく失敗に終わる。もしこのような状況に陥った場合、最良の戦略的な対処法は、以下の2本柱だ。
ピンチのときほど、本来の目的に集中する
1つは、競合に注意を向け過ぎないこと。誰かがその問題を持ち出した場合に限り感情的にならずに軽く触れる程度に留め、外的にも内的にも自社の顧客と製品に焦点を当てる。顧客とそのニーズを理解することが最も重要であり、おそらくそれだけがコピーキャットに負けない唯一の強みだということは、少し考えれば日を見るより明らかだ。そもそも、もしコピーキャットが顧客ニーズをがっちり理解していたのであれば、コピーする必要もなかったはずだ。
もう1つは、業務を効率化することだ。人生をかけた戦いに突入するのだから、今こそ自分たちの時間の使い方にじっくりと目を向けるべきだ。1分たりとも無駄にせず、顧客と連携し、製品の付加価値に直結させることに集中する必要がある。
もし社内で会計業務を行っているのであれば、それらをアウトソースし、サーバはクラウドに移行し、社内でシステム管理やデータベース管理を行っているのであれば、PaaSに移行する、など。
大手の競合の方が、こういった中核的価値を持たない業務への対処については当然ながら長けているし、だからこそできるだけそれらに費やす時間を削減する必要があるのだ。開発担当者がデータベースをセットアップしたり環境設定ファイル上で文書を読み込んだりする時間の分だけ、製品リリースが遅れていく。
資金力の優れたコピーキャットの市場参入は、ほとんどのスタートアップにとってこれまでに直面してきた中で最も大きな課題で、多くが生き残れない。より大手の会社と対峙して勝利する会社は、顧客ニーズに照準を合わせ、製品の中核的価値に直結しない業務を全て排除したり、外注したりして生き残っていくのだ。
筆者プロフィール
Tim Romero(ティム・ロメロ)
プログラマでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマ社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。
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