前回は、DNSの基本的な考え方や動作について説明した。今回は、DNSという巨大な分散システムが、インターネットの中で実際にどのように運用されているのかを見てみよう。
前回説明したように、ドメイン名(FQDN)とは「ドメイン・ツリー」と呼ばれるDNSの根幹そのものの書式を示している。
ところで、このトップ・レベル・ドメイン(TLD:Top Level Domain)やセカンド・レベル・ドメイン(SLD:Second Level Domain)は、だれがどのように決めて管理しているのだろうか?
TLDなどを決定・運営しているのがICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)で、ドメイン名のほか、IPアドレス/ポート番号管理などを指揮する国際的な非営利法人団体である*1。すなわち、ルート・ネーム・サーバのゾーン情報など、すべての権限はICANNが管理しているわけだ。
トップ・レベル・ドメインは、大きく分けて2種類ある。1つはgTLD(generic TLD)と呼ばれる汎用目的のためのドメインで、従来からは7つ定義されている。もう1つがccTLD(country code TLD)と呼ばれる、国ごとに定められたTLDである。ccTLDのドメイン名はISO-3166(JIS X 0304としても定義されている)で定められた国コードから割り当てられている*2。原則的に、すべての国/地域が所有し自由に使用できるドメイン名である。
TLD名 | 登録資格要件 | 管理主体(レジストリ) |
---|---|---|
gTLD | ||
.com | 商用または企業。ただし現在では制限なし | ICANN(VGRS) |
.net | ネットワーク関連団体。ただし現在では制限なし | ICANN(VGRS) |
.org | 非営利各種団体。ただし現在では制限なし | ICANN(VGRS) |
.edu | 米国内4年制大学(今後は2年制大学も含まれる予定) | Educause |
.gov | 米国政府機関 | U.S. General Services Administration |
.mil | 米軍関係機関 | DoD Network Information Center |
.int | 国際機関 | IANA |
ccTLD | ||
.jp .kr など |
一般的には各国内に居住/住所地を持つ個人や団体/企業。ただし各国のポリシーによる | 一般的には各国ごとのネットワーク管理機関。日本ではJPNIC(JPRS) |
表1 TLDの種類 |
gTLDは、さらに登録資格要件や登録管理主体によって分類できる。「.com」「.net」「.org」は、それぞれ利用目的が定められているものの、実質的に国籍や目的、団体/個人を問わず自由に取得できる国際ドメインだ。管理責任は最終的にICANNが負う。そのほかの「.edu」「.mil」「.gov」などは、目的からして国際的には開放されていない。これらは、当初gTLD自体が米国国内向けを想定していたことの名残といえる。「.gov」などは、当然米国政府そのものが登録を担当することになる。
また、2000年にICANNが新たな7つのgTLDを承認し、今後運用が開始される予定だ。現在までに、5つのgTLDがすでに登録受け付けや運用を開始している。
TLD名 | 登録資格要件 | 管理主体(レジストリ) |
---|---|---|
.biz | 商用(ビジネス)向けに特化したドメイン。多様化して本来の意味をなくしている「.com」を補完する目的がある | NeuLevel社 |
.info | 原則的に利用目的や適格性が無制限なドメイン | Afilias Limited社 |
.name | 個人の氏名を表すドメイン。例えばtaro.tanaka.nameなど。SLDは考えられる姓を予約しておく予定だそうだ | Global Name Registry社 |
.museum | 博物館や美術館向けドメイン。chicago.art.museumなどのように、SLDは博物館や美術館などの種別となる | Museum Domain Management Association |
.coop | 消費者連合などの協同組合向けドメイン | NCBA(National Cooperative Business Association) |
.aero | 航空業界向けドメイン | SITA(Societe Internationale de Telecommunications Aeronautiques SC:国際航空通信共同組織) |
.pro | 弁護士・医師など専門職向けドメイン。例えばtanaka.med.proなど。専門職であることを証明する必要がある | RegistryPro社 |
表2 新規gTLD。黄色の背景のものが、運用(テスト含)開始または見込みのドメイン。そのほか(灰色の背景)のドメインも、ICANNとレジストリとの合意が達せられた段階で登録受付開始予定 |
とはいえ、特にぴんとこないドメインばかりに感じられるかもしれない。実際、より多種のgTLDを求める声は多く、ICANNを中心に現在もgTLDについての議論が続いている。これは、TLDが一種のマーケティング・ツールともとらえられているからだ。
「サイバー・スクワッティング(cyber squatting)」という言葉を聞いたことがあるだろうか? これは、ドメインの取得は原則として先願主義(早い者勝ち)であることを逆手に取って、転売目的で商標を表すドメイン名の「横取り」をする行為のことだ。近年、こうした行為が多発しているのは、本来IPアドレスを分かりやすく表すための「記号」でしかなかったはずのドメイン名を、サイバー・スペース上での「会社名」や「登録商標」ととらえる傾向が、非常に強くなってきたからだ。企業にとっては、重要なマーケティング要素と見なされるようになったということだ。こうした影響は、gTLDにおいても例外ではない。もともとDNSというシステムでは想定されていなかった、このような多様化や意味の冗長化現象には懸念も根強いものの、社会要請という点からは、今後もより多くのgTLDが追加される可能性が高い。
一方、ccTLDでは各国のネットワーク管理組織(NIC:Network Information Center)が管理主体となる。日本ではJPNIC((社)日本ネットワークインフォメーションセンター)が担当している。実際に、どのようなポリシーでどのように管理されるかは、国によって異なる。中でもSLDをどう取り扱うかは、完全にそれぞれの国ごとのポリシー次第だ。
例えば、日本ではjpドメイン以下のSLDとして「co」「ne」「go」など、組織業態ごとに取得可能なSLDが定められている。「co」は企業組織を示しているが、ほかの国でも同じとは限らない。auドメイン(オーストラリア)などでは、「com」で企業組織を示す。
SLD名 | 登録資格要件 |
---|---|
組織種別SLD | |
ac | 4年制大学など学術組織 |
co | 法人格を持つ企業組織 |
go | 政府機関 |
ad | JPNIC会員 |
ne | ネットワーク関連組織(ISPなど) |
or | 法人格を持つ任意団体や組織 |
gr | 法人化されていない任意団体や組織 |
ed | 高校〜幼稚園までの学校組織 |
地域別SLD | |
.suginami.tokyo.jp など |
都道府県など地方公共団体に付帯されたドメイン。住所に即したドメイン階層が表せる。それぞれの都道府県に居住していたり関係する個人や団体向け |
表3 jpドメインのSLD種類 |
前回説明した権限委譲の原則を覚えているだろうか? 上位ドメインから権限委譲されたドメインは、それ以下のサブドメイン全般を自由に管理できる。これは、たとえトップ・レベル・ドメインであっても、完全に同じことなのである。
*1以前は、IANAおよび下部組織であるInterNICが行っていたが、1998年にICANNが設立され、実務が移管された。また実際には、トップレベル・ドメインは米国商務省の管轄にあり、ICANNは商務省から管理監督権を付帯されているにすぎない
*2ただし、これは原則にすぎず、例外もある。英国は、本来であれば「gb」がドメインとなるはずだが、実際には慣習的に北アイルランドを含めて「uk」を使用している。また、米国にも「us」ドメインが割り当てられているものの、歴史的経緯によりgTLDを使用している場合が多く、ccTLDはあまり活用されていない
便宜上、gTLDとccTLDはその目的が明確に区別されている。だが現在では、このような垣根も怪しくなってきている。最近よく見かけられるトップレベル・ドメインに「.to」「.cc」「.tv」「.nu」などがある。日本からも多くの個人や団体が取得しているようだが、実はこれらは、それぞれ「トンガ王国」「ココス諸島」「ツバル共和国」「ニュージーランド領ニウエ島」のccTLDなのである。すでに述べたように、ccTLDは各国の自由裁量で利用できる。例えば、SLDをどのような業種の団体や個人が取得できるかのポリシーは、各国のNICが独自に決定できる。これらの国々では、ドメインの利用を自国民に限るのではなく、逆にドメイン名のマーケティング的価値(例えば、「to」「cc」はメールのあて先/カーボン・コピー・フィールドを、「tv」はテレビを連想させるなど)を逆手に取り、全世界のユーザーに売り込んでいるのだ。こうしたケースは、すでにそれほど珍しいものではなく、英国(uk)でも一部のSLD以下は外国人でも取得可能である。また「.nu」や「.tv」ドメインでは、日本語ドメイン(後述)にも対応するという力の入れようである。
多くの場合は、自国のNICや代理店経由でこうした売買(正確には期限付きだが)を行っているが、ツバルではdotTV社に恒久的登録管理権を売り渡してしまっている。
このようなccTLDの意味の希薄化は、gTLDとの差別化という観点や過度の商業的利用という観点からは、批判もあり得るかもしれない。だが一方で、ツバルは人口1万人程度の小さな島国で、大きな産業もないと聞く。もともとccTLDなどというものは、意外に大きなお荷物だったのかもしれない。そして売却益は自国の経済を潤わせ、これを元手に昨年国連加盟を果たした。インターネットから最も縁遠い(と思われる)人々が、最も価値のある形でインターネットの恩恵をつかめたのだとしたら、何やら痛快な話ではある。
では実際に、ICANNやJPNICがすべてのドメイン登録やDNSサーバ設定を行っているのかといえば、そうではない。一時期はそれに近い時代もあったが、現在ではICANNなどドメイン管理機関が認定した「レジストラ」と呼ばれるドメイン登録業者が代行するのが普通だ。皆さんがドメインを取得する場合にも、これらレジストラへ依頼するケースが多いだろう。レジストラは顧客からの依頼によって、あるいはICANNやJPNICなどの管理機関より移管されてDNSサーバへの登録を行う。
中でも有名な業者が、Network Solutions社(NSI:現在はVeriSign社が買収)だ。以前は、当時ドメイン管理を行っていたInterNICが実務委託していたNSIが主要gTLDのレジストラ業務を独占していたが批判も強くなり、近年ではICANNに認定された複数のレジストラによって登録業務が行われている。現在、全世界で約90社が認定されており、日本の業者も3社がレジストラとして登録されているので、英語が苦手な方でも敷居が低くなり喜ばしい限りだ。
この“登録”という作業が、前回説明した、ルート・ネーム・サーバやjpドメインDNSサーバにおける「権限委譲」作業だ。
例えば、「.com」や「.net」などのgTLDの登録は、最終的にはルート・ネーム・サーバへの登録を行うことになる。国内で企業向けドメインを登録するには、「co.jp」ドメインのDNSサーバへ登録すればよい。
こうしたDNSサーバのゾーン情報登録時にレジストラが登録管理のために使用するのが「ドメイン・レジストリ」である。ドメイン・レジストリは、一種の登録用データベースのようなもので、複数のレジストラによって共有されることで登録内容の整合性を保つ。そしてこの内容が、ゾーン情報へと変換登録されるのである。つまり認定レジストラとは、このドメイン・レジストリへのアクセス権限が付与された業者だといういい方もできる。また、ドメイン・レジストリの管理者を「レジストリ」と呼ぶ。
例えば、gTLDのドメイン・レジストリを管理しているレジストリがVGRS(VeriSign
Global Registry Services)だ。歴史的経緯からNSIが所有するシステムを使用しているが、もちろんほかのレジストラもこれを利用している。
複数のレジストラによるドメイン登録業務への競争原理導入は、ここ数年の大きな潮流となっている。日本でも昨年JPNICから日本レジストリサービス(JPRS:Japan Registry Service)がドメイン登録運用管理を専門に行う企業として設立され、汎用jpドメイン(後述)の登録実務に関しては認定された複数のレジストラが行うようになった。現在では、「co.jp」など従来のドメイン登録はJPNICが行っているが、2002年春をめどに全面的にJPRSへ移行する予定だ。
近年のドメイン取得費用の低下には、こうした適正な競争導入の影響は見逃せない。現在のインターネットが、ボランティアから商業サービスへ成熟する一過程にあるともいえよう。
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