「2009年はトレンドを追うな」――小飼弾氏が講演晴耕:雨読=20%:80%

» 2009年02月09日 00時00分 公開
[岑康貴,@IT]

 「トレンドを追うな」「キーワードは晴耕雨読」「確立された“知恵”はなくならない」――2月7日、パソナテックが開催したセミナー『Webデベロッパの祭典』において、プログラマの小飼弾氏が『どうするデベロッパ!? 2009年プログラミング大展望』と題した講演を行った。会場となった東京・秋葉原のUDXギャラリーには、多くのWeb系エンジニアが集まった。

小飼弾氏 小飼弾氏。会場に集まったエンジニアに多くの質問を投げ掛け、インタラクティブな講演を行った。

2009年は「晴耕:雨読=20%:80%」

 小飼氏は最初に「大展望という講演タイトルですが、トレンドというと株式市場のトレンドを思い出して暗くなるので、やめましょう」と発言。「今年は給料が上がると思うか、下がると思うか」「皆さんのお客さんの売り上げは上がるか下がるか」などの質問を客席に投げ掛けた。

 続いて小飼氏はグーグルの「20%ルール」(自分の業務時間の20%を、自分が重要だと思うプロジェクトに費やすことができるというグーグルの社内ルール)を取り上げ、「グーグルは間違っている」と断言。今年からは、すべてのエンジニアが20%の時間で自分が必要だと思うサラリーを稼げるようにしなければならない、と主張した。

新しい「20%ルール」 小飼氏が提唱する、新しい「20%ルール」

 この主張の元となる考え方として小飼氏は「晴耕雨読」というキーワードを提示。「昨年までは景気が良かったから、目先のもうけを追う『晴耕』だった。今年からは、不況なのだから、もうけを一度忘れて『雨読』の時間を増やそう」と語り、これを前述の20%ルールに当てはめ、「晴耕:雨読=20%:80%」の比率が今年からは重要であると説いた。

 さらに小飼氏は「失われた10年という言葉もあるように、なくなるものはある。株価とか」と笑いを誘いつつ、「しかし、その間に積み重なった、確立された知恵はなくならない」と発言。トレンドとはいつかは下がるものなので、2009年は「なくならないもの、つまり知恵を手に入れましょう。80%の時間で知恵を手に入れてください」と語った。

不況は、古きを学ぶ絶好のチャンス

 「今年、新しい言語を学ぼうと思っている人はいますか」と小飼氏が会場に問いかけたところ、半数以上の手が上がった。PHP、Ruby、Python、Scheme、Lispなどの名前が挙がったが、これらについて小飼氏は「どの言語もそんなに新しいものではない」という共通点があると指摘した。

 「新しく学ぶに当たって、新しいものを学ぶ必要はない」と小飼氏は話した。特に、景気が悪いときは「古くから生き残っている考え方やコンセプトを学ぶのに最適な時期」であるとした。好況期は仕事が多く忙しいため、「今日学んで明日役立つ」型の実学など浅い部分の勉強が増えるが、不況期はそこまで忙しくないため、「好況期には学べなかった根源的、基礎的な技術や考え方を学ぶ絶好のチャンス」であるという。ここでも小飼氏は「不況はトレンドを追っていたら学べないものを学ぶチャンスである」とし、トレンドを追うことを否定した。

エンジニアとはトランプのジョーカーである

 「もしあなたが今日、失業したら、どうしますか? 何を学びますか?」と小飼氏は質問。客席の何人かにマイクを渡し、回答を募った。「世の中の状況、トレンドを見る」「英語を学ぶ」「友達のツテをたどって職探し」「資格の勉強」などの回答が上がるなか、小飼氏は「みんな、自分がクビになったときのことを考えていない」とそれらの回答を評した。「なぜクビにならないといい切れるのか。いまの日本の状況なら、自分はクビにならないと思っている方がおかしい」と主張し、「みんないつかは死ぬ。ものごとには終わりがある。仕事程度のもの、今日明日に終わっても、ちっともおかしくないでしょう」と客席に問いを投げ掛けた。「こうしたことを考えられるのも、不況ならでは。好況のときは考えられない」(小飼氏)

 また、小飼氏は「子どものころ、自分がソフトウェアエンジニアやプログラマになると想定していた人は」と尋ねると、ほとんど手が上がらなかった。子どものころ、何になりたかったかを尋ねると、「教師」「本屋さん」「パイロット」「漫画家」などの答えが挙げられた。

 小飼氏は「ソフトウェアエンジニアは、潜在的には『何にでもなれる人』」とし、「例えばパイロットなら、オートパイロットのシステムはエンジニアが作る。教師だってそう。エンジニアは教師のように、人に教えることがたくさんある」と語った。「皆さんの仕事は万能で最強。トランプならジョーカーの札なんです。どんな札にもなれる」と会場のエンジニアを激励するとともに、「でも物事を学ばないと、何にもなれない」と、ここでも「雨読」の重要性を強調した。

未来は「どうなる」ではなく「どうする」

 最後に小飼氏は「未来はどうなると思うか」という質問を提示。いくつかの回答を会場から募ったが、「実は引っ掛け問題。未来はどう『なる』ではなく、どう『する』で考えるべき」と発言し、アラン・ケイ氏の「未来を予測する最良の方法は、未来を創りだすことだ」という言葉を引用した。

 「未来はこうなる、と答える人はトレンドフォロワー。未来はこうする、と答える人はトレンドセッター。皆さんにはセッターになるための力が与えられている」と小飼氏は主張。「どうなる」ではなく「どうする」と考えて初めて、「学ぶ」が生きてくると語った。

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