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@IT > マルチメディアコンテンツの配信とそのコミュニティ支援システムの開発 |
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2002年ごろからブロードバンドが爆発的に普及していった結果、動画を中心とするマルチメディアコンテンツの配信というモデルが、ようやく現実味を持って語られるようになってきた。映画や音楽などのコンテンツは今後、インターネットを通じて盛んに配信されるようになり、多くのネットユーザーが気軽に自宅でそうしたコンテンツを楽しむようになっていくことが期待されている。 一方で、テキストを中心とするネット文化がブログの隆盛とともに大いに盛り上がり、トラックバックとコメントで武装したブロゴスフィア(ブログの巨大なユーザーコミュニティ)は拡大の一途をたどっている。 一見、交わってはいないように見えるこれら2つのネットの局面を、ひとつの枠組みによって結びつけてしまおうという興味深いトライアルが、この「マルチメディアコンテンツの配信とそのコミュニティ支援システムの開発」である。
開発者の山本大介氏と清水敏之氏はともに、名古屋大学大学院情報科学研究科で博士課程に籍を置いている大学院生だ。山本氏はもともと動画へのアノテーション(メタ情報の付加)についての研究を行っていたという。動画そのものにはメタ情報は付属しておらず、検索エンジンなどで検索できるようにインデックス化するのは難しい。このためXMLなどによってアノテーションを付与し、コンテンツのタイトルやサマリー、各場面ごとの注釈などを加えるという作業が必要となる。これによってインタラクティブな検索も可能になり、大規模なデータベースを構築して自在にコンテンツを有効活用するという新たなシステムも実現できる。 だがこれまでアノテーションは、非常に面倒でコストのかかる作業となっており、作成にも時間がかかった。コンテンツを提供するプロフェッショナルの側が、1つ1つメタ情報を埋め込んでいく作業が必要だったのである。開発者の2人は、「これでは効率が悪すぎる。コンテンツ提供者ではなく、コンテンツを観ている人たちがアノテーションを付与できるような仕組みを用意すれば効率が良くなるのではないか」と考えた。そしてその考え方は、ユーザー同士がコメントをつけたり、おしゃべりをしたりするようなコミュニケーションを取りながら、自然とアノテーションが行われていくようなモデルへと発展していった。つまりはアノテーションのブログ化とでもいうべき考え方である。 「そんな発想をふくらませていくうち、半年ほど前からだんだんブログと結びつけていくようになりました。せっかく最近ブログが流行っているのだから、ブログと統合できたら面白いのではないかと思ったんです」と山本氏は話す。
ブログの世界では、トラックバックやコメント、RSSなどの仕組みによってブロゴスフィアを形作っている。いまやブログを運営している人の数は日本国内でも300万人を超えるという統計もあり、その影響力は日増しに高まっている。最近はビジネスやマーケティング分野でのブログの利用というモデルも注目され、アフィリエイト広告とブログの連携が巨大なトラフィックを生みつつある。 「こうしたブログの仕組みをマルチメディアコンテンツに対して適用することによって、コンテンツの流通とそのコミュニティを活性化することができるのではないかと考えたんです」(山本氏) このプロジェクトでは、コンテンツに対してリアルタイムにコメントなどを付与する事が可能な電子掲示板風ウェブシステムと、ユーザによるコンテンツ紹介ブログの執筆を支援するためのウェブシステムを提供している。
そのコンセプトを端的に説明すれば、マルチメディアコンテンツをブログ化してしまおうというものである。具体的には、(1)パーマリンク、(2)アノテーション、(3)トラックバック、(4)RSS――という4つのブログ的な仕組みをビデオコンテンツに実装させる。 パーマリンクというのは、コンテンツの任意のシーン(場面)に対する永続的なリンクを付加することである。現在のインターネットの状況では、例えば具体的な映画のあるシーンについて誰かがブログでコメントしようとしても、ブログを読む側はその映像をリアルタイムで観ることは難しい。仮にネット上で配信されていた映像だったとしても、リンク切れなどがひんぱんに起きてしまっている。そこで本プロジェクトでは、すべてのビデオコンテンツをアーカイブ化し、ユニークなURLを指定してしまうというモデルを考えた。 その上で、 http://[server address]/[ContentID]/[begin time]-[end time] のように経過時間も含めて指定すれば、特定のコンテンツの特定のシーンのリンクをURLで記述することができるようになる。 また(2)アノテーションについては、前出のように視聴者の側が映像を見ながらリアルタイムで書いたり、あるいは自分のテキストブログに記事を投稿するなどの方法によって、ビデオの特定のシーンにメタ情報にもなるコメントを加えていくことができるというものだ。
電子掲示板風の投稿型アノテーションである「テキストアノテーション」と、ボタンをクリックするだけの簡単な「印象アノテーション」から構成されている。これらはXMLで記述されているため、検索エンジンのクローラーによってインデックス化されることが可能だ。このため膨大な量のビデオコンテンツがすべてアーカイブされ、そして大量のアノテーションを加えられるようになれば、ビデオコンテンツに対して意味内容に基づく検索が可能になる。さらに視聴者の側がアノテーションを行うことで、コンテンツプロバイダ側が想定もしていなかったようなさまざまな意味付けが各コンテンツに加えられることにもなるという副産物もあるだろう。
(3)トラックバックは、そのコンテンツに関連記事する記事と、コンテンツ本体との間で双方向リンクを実現してしまおうというものだ。もちろんこの場合も、任意のコンテンツの任意のシーンに対して、細かくトラックバックをつけることが可能になっている。 http://[server address]/tb/[ContentID]/[begin time]-[end time] とすることで、特定の場面をURLで指定できる。参照元URLと記事の要約、タイトル、ブログのタイトルはPing送信される。そして一般的なテキストブログと同様、XML(RDF)形式のメタデータでコンテンツ情報をRSS配信することもできるというわけだ。
このようにしてブログ化されたビデオコンテンツを本プロジェクトでは、「ビデオブログ」と呼んでいる。ビデオブログによって、従来からのテキストブログと同じように、ウェブ上のクチコミによるコンテンツの引用や紹介、宣伝、配信、コミュニケーションといったことが可能になる。 山本氏は「ビデオコンテンツに対する感想を述べるテキストブログはすでに数多く登場しているけれども、そうしたエントリからコンテンツそのものへのリンクが存在しないケースが非常に多い。そのエントリを読んだ人が実際に映像を観ようと思っても、観られないことが多い」と指摘する。その背景にはコンテンツの管理体制の問題があり、さらにはコンテンツプロバイダの側が著作権管理にナーバスになっているという問題もある。「著作権侵害になってしまうため、ビデオのキャプチャ画面さえ出せない。それで面倒になってしまい、映像コンテンツに関するブログを書かなくなってしまうケースも多いのではないか。非常にもったいないと思う」(山本氏)。 本プロジェクトが成功するためにはコンテンツプロバイダ側の協力が欠かせないが、山本氏は「ブログの影響力は極めて大きくなっている。ブログコミュニティで積極的に宣伝してもらうために、コンテンツプロバイダ側がビデオブログに協力していくようになることを期待したい」と話す。当初は個人・小規模グループの作成したホームビデオやプロモーションムービーがメインになるのだろうが、将来的にはゲームや音楽、映画、ドラマ、アニメ、バラエティなどをターゲットにし、ビデオブログの巨大なコミュニティを生成していくことを狙っている。 またこの巨大コミュニティからコンテンツに関する知識をメタ情報として抽出、蓄積していくことによって、コンテンツの検索や要約などといったさまざまなアプリケーションの開発も目指すという。 プロジェクトはプロトタイプの開発についてはすでに完了。「アイデアをまとめ上げ、全体の枠組みを作り上げるのが大変だった。逆に実装自体はさほどの苦労はなかった」(山本氏)。今後は基本機能の開発を急ぎ、今年秋にはベータ版をリリースする予定という。山本氏は「将来的にはビジネス化の可能性を探っていきたい」と話している。 [関連リンク]
提供:IPA
2005年度未踏ソフトウェア創造事業
担当PM 酒井 裕司 企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT 編集部 掲載内容有効期限:2006年3月31日 |
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