Loading
|
@IT > デバイスの枠を超え情報の所有を実現するTimelineサービスの実現 |
|
インターネット時代になって情報収集が便利になり、さらに携帯電話の普及によって「どこでもいつでも」というユビキタスなコンピュータ利用が可能になったといわれている。しかし現実を見ると、ことはそう簡単ではない。 たとえば初めて訪れる会社に打ち合わせに行くことを考えてみよう。住所が分からなければ、最初にやることはその会社のWebサイトを調べ、住所を確認することだろう。サイトに地図が添付されていれば問題ないが、そうでなければ住所をコピー&ペーストして、地図サイトの入力画面に貼り付け、地図を表示する。さらにそれらの地図をプリントアウトして、実際にその会社に行く時に携行する。さらにその会社がある場所までどうやっていけばいいのかを調べ、乗り換え案内などのサービスを確認し、やはり順路をプリントアウトしてバッグに入れておかなければならない。 確かに便利ではあるのだが、とても手間のかかる作業なのである。あるいは、ネットサーフィンをしていてレストランやバーなどの情報を見つけたとする。Webを見ている時には「ああ、こんな店があったんだ。今度ぜひ行ってみよう」と思うが、しかし実際に何週間か経ってその街に行く用事があったときには、 「この前、Webで美味しそうなレストランを見つけたんだけど、どこだったっけ? もうURLどころか、どうやって見つけたかさえわからないや」ということになってしまった経験は、多くの人にあるはずだ。
どこかで見たけれど、詳細は覚えていない――そんな情報や知識が身の回りにはあふれているが、人間の記憶力や行動には限界があり、情報はただ流れ過ぎ去っていくだけになってしまっている。それを何とか簡単な方法で再活用できるようにできないだろうかというのが、中島薫氏の開発動機だった。中島氏はマイクロソフト日本法人に9年間勤務し、Microsoft Wordやはがきスタジオ、Microsoft Worksなどの開発に携わった後、インクリメントPに移籍し、ケータイ・エディの開発にも関わったプログラマーである。中島氏は話す。 「情報はWebのブックマークや、電子メール・ブログへの書き写し、テレビ番組の録画などの保存形態で記録することができるが、どれもユーザーに能動的な行動を強いるし、使い勝手は必ずしも良くない。このため情報を再び取ろうとすると、必要に応じて改めて検索したり、紙に印刷するなどの方法で残さなければならない。ほとんどのコンテンツはデバイス間での相互利用がろくに行えず、機器が失われたり、世代交代すると消えてしまう。これを解決するのが、Timelineサービスの目的になっている」
Timelineサービスは簡単に言えば、既存のWebブラウザのブックマークや履歴機能のように、「どのページを見たか」を意味するURLとして保存するのではなく、「どの情報を見たか」を意味するイベントタグを定義し、これをサーバに記録、この記録を基にデバイスを超えて再閲覧を可能とするサービスである。 この際、ユーザーの側は能動的にコンテンツをブックマークしたり、保存する必要はない。ユーザーはPCでただWebブラウジングしているだけでよく、このブラウズした内容をTimelineのイベントレコーダーが自動的に抽出し、「店舗」「商品」「検索したキーワード」などの単位でそれらを分類。そしてそれらの内容にイベントタグを付与して、サーバ上のリストにインデックスしていく。 このイベントタグが、Timelineサービスの重要な特徴のひとつとなっている。インターネット上の情報を管理するコードは、URLやメールデータ、書籍のISBN、Amazon.comで商品管理に使われているASIN、バーコードなどさまざまな規格に分かれている。これらを一元的に管理するためのキーとなるイベントタグを生成し、そのイベントタグにURLやISBN、ASINなどを紐付けしてしまうわけだ。そうすればユーザーの側からは、そのコンテンツがAmazon.comで販売されている商品説明なのか、書籍なのか、ウェブサイトなのかを考える必要がなく、すべてのコンテンツを一元管理できるようになる。ありとあらゆる情報・コンテンツを、統合された管理形式の中にはめ込んでいこうというのが、Timelineの考え方なのである。URN (Uniform Resource Name) の考え方をさらに発展させたものと言えばいいかもしれない。 例えばユーザーが携帯電話から、Timelineに記録された過去のWebサイトを参照しようとする。イベントタグと、現在の端末形式(つまり携帯電話)に最適な形式についての情報がまとめてリクエストされ、Timelineサービスの側はこれに対して、携帯電話に最適な表示形式(CHTML/WAPや、あるいはフルブラウザ実装端末であれば、通常のHTML)で表示可能なURLを返し、ユーザーをリダイレクトする。 これによって、端末の違いによって特定のデータにアクセスできたりできなかったりといった問題を吸収することが可能になるというわけだ。
Timelineのもう1つの大きな特徴として、コンテンツ・情報を時系列で管理しているという点がある。中島氏は話す。
「人間の頭の中には時間軸に沿ったインデックスがあり、たとえば旅行先の情報や買い物をどこでするのかといった調べ物をした際、『この情報はあのとき見たな』『一昨日の夜に確かネットサーフィンして見つけたんだっけ』といったように、漠然と時間軸で覚えていることが多い。その人間の感性をうまく活用しようと考えた」 東京・新宿駅の近くに昼時にいて、ラーメンを食べようと携帯電話のグルメサイトで調べると、数十件のラーメン店がヒットしてしまって、情報を取り出すのが非常に難しい。しかし過去にラーメン店について調べたり、あるいは新宿の街についての情報を誰かとやりとりしていたりすれば、「テレビであのとき新宿のラーメンの話をしていたな」「雑誌でラーメン店特集を読んだ」といった印象だけが残っているケースが多い。その情報を過去にWebサーフィンするなどして調べていれば、瞬く間にそれらの情報をTimelineサービス経由で取り出すことができるというのである。 さらに時系列でコンテンツ・情報を管理していくことによって、ある程度の未来予測的な使い方も可能になる。つまり単なる履歴だけでなく、コマンドの伝達手段や状況判断経路としても使えるようになるのである。 「モバイルSuica」機能を搭載した携帯電話を使って駅の改札を通ったら、自宅のエアコンを作動させるとか、車のエンジンをかけてカーナビを起動したら、現在考えられる候補地の一覧をTimelineから呼び出し、カーナビ上に候補として表示させるなど、さまざまな可能性が生まれてくる。
中島氏はこの利用方法をさらに発展させ、自動車のテレマティクスへの応用も提案している。従来のテレマティクスは、デバイスの垣根に阻まれてさまざまな情報を一元管理できない問題点があったが、Timelineによってこの問題を乗り越えてしまおうという発想だ。例えば自宅からシネコンで上映されている映画のシートをリザーブしたとすると、そのメタデータによって自宅からシネコンへと向かう道筋や必要な時間が確定する。それによって最適な道順や、シネコンに近い駐車場の位置なども検索によって探り出すことができる。 いざシネコンに予約した当日が来たら、車のシートに座ってエンジンをかけた瞬間に、カーナビにシネコンまでの道筋が表示されることも可能になる。さらに駐車場で車を降りると、今度は携帯電話に自動的にシネコンまでの道筋が歩行ナビによって表示されるといった芸当も可能になるわけだ。Timelineを進化させていけば、現状ではSF映画の中のことにしか思えないようなことも、次々に実現していくのである。
提供:IPA
2005年度未踏ソフトウェア創造事業
担当PM 酒井 裕司 企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT 編集部 掲載内容有効期限:2006年3月31日 |
|