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@IT > 効率的な情報アクセスを可能にするブラウザの開発 |
企画:アットマーク・アイティ
営業企画局 制作:アットマーク・アイティ 編集局 掲載内容有効期限:2005年9月30日 |
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「昔からさまざまな種類が登場しているWebブラウザですが、その時代時代に応じて要請があり、機能や実装対象、ターゲットとなるコンテンツなどが移り変わって来ています。風博士はWeblog(ブログ)など最近の情報収集ニーズに対応し、さらに利用者からのフィードバックを受けてまめに開発する取り組みがあることなどを評価して、採択しました」(酒井裕司PM)
愛媛大学農学部の大学院生である池添浩之氏と、株式会社トレストーレスの福澤俊氏らが開発しているWebブラウザ「風博士」は、効率的な情報アクセスを目的としている。その開発の背景には、現状のWebブラウジングに対する強い不満があったようだ。 福澤氏が語る。「ネット上の情報量が膨大になっているのにもかかわらず、目的の情報に到達するのに大変な時間を要することがしばしばあり、ときには情報にたどりつけなかった、ということも起きています。一方でこうした問題に対処するため、検索エンジンが登場し、その精度は年々高まっています。ところがクライアント側のソフトであるWebブラウザはこうした膨大な情報にアクセスする快適な手段を提供できておらず、ユーザーのストレスが高まっていると思います」。そこでメタ情報を含むインターネット上の膨大な情報を最大限に活用することによって、効率的に目的のデータにアクセスできる機能を持ったブラウザ「風博士」の開発が、始まったのだという。
未踏ソフトウェア創造事業に応募したのは今年4月だが、開発自体は2003年1月1日にスタートしている。開発を始めた当時の経緯について、開発者の池添氏は「私はずっとLinuxを使っているのですが、Linuxには使いやすい良いWebブラウザがなく、しかも多くの既存ソフトは動作が非常に遅かった。もっと使いやすいブラウザが欲しいという個人的な気持ちもあって、知り合いのプログラマたちを誘って開発を始めたのです」と明かす。 風博士はレンダリングエンジンにMozillaのGeckoを採用しており、独自の開発は行っていない。池添氏は「HTMLのレンダリングはW3Cの仕様通りに作るということ以上の独創性は発揮できず、興味がなかった。それよりももっと、ユーザーインターフェイスに力を入れて使いやすく、情報を入手しやすいブラウザを作ってみようと思った」と話す。 当初実装を目標としていた機能は、さまざまなサムネイル画像をブラウザ上に表示するような視覚的なインターフェイスだった。風博士は、複数のWebページをタブを使って切り替えることができるタブブラウザの1つだが、それぞれのタブにWebページのサムネイル画像を表示し、どのサイトを現在閲覧しているのかを一目で分かるようにできないかと考えたのである。もっともこの機能は、サムネイルを表示するタブの形状をどうするのかといった問題や、ごく小さくなってしまうサムネイルをどうすれば見やすくできるのかといった課題もあり、現状ではまだ実装されていない。 最初に実装されたのは、RSS(RDF Site Summary)をブックマークに取り込むという機能だった。ブックマークバーにターゲットのWebサイトのRSSを登録しておくと、バーの中にRSSを取り込み、そのサイトの現在の更新状況などをリアルタイムにバーに表示してくれるという機能だ。ブログがブームとなり、インターネットにおける新たなコミュニケーションのあり方としてユーザーの注目を集めている。ブログやニュースサイトなどでは、メタデータをXMLベースで構造化して記述するRSSを使い、更新情報を公開するところが増えている。池添氏らはこれをクライアント側のWebブラウザに取り込み、GUI上に見やすく表示させようと考えたのである。
池添氏は話す。「情報をうまく取り込むというのが、基本的なコンセプトです。通常のWebブラウザを好きになれないのは、自分の行きたいページにすぐに行くことができないこと。一度訪問したWebサイトをもう一度見てみようと思っても、探し当てられないことが非常に多いのです。例えばRSSをブックマークに表示できれば、以前訪れたサイトをいちいち見に行かなくとも、自動的にサマリーが更新され、更新状況が一目で分かるようになる。なるべく手間をかけずに、自分の行きたいところに行けるようになるというのがベストだと思います」
そうした発想から、風博士に実装されているのは「履歴の検索」機能である。Webブラウザは履歴を表示することができるが、例えば、Internet Explorerでは履歴は「今日」「金曜日」「木曜日」……「先週」「2週間前」と分類され、しかもURLとタイトルしか表示されない。この中から「いつ訪れたのかは良く覚えていないし、タイトルも忘れたが、こういう内容のコンテンツを含むページ」を探すのは、非常に面倒な作業である。そこで池添氏らは、履歴に含まれているWebページから、キーワード検索できれば便利ではないかと考えたのである。
ほかにも、ユニークな機能は数知れない。例えば画面の端に配置されている検索ウィンドウ1つをとってみても、正規表現を使って利用する検索エンジンを切り替えることができるようにしていたり、Webページの画面の必要な部分を範囲選択し、ブックマークに落とせば、HTMLを出力してローカルのハードディスクドライブに自動保存するという興味深い機能もある。池添氏は「とにかく欲しい機能を思いついたら、その場でどんどん開発をしていくというスタンス。自分が欲しいブラウザを作っているということです」と話す。 インターネット上に散在しているさまざまな情報を入手しやすくしようとすると、どうしてもWebブラウザの高機能化が進み、ボタンが増えるなどしてユーザーインターフェイスはどんどん複雑化していく。それはどのクライアントソフト開発でも繰り返されてきたことだ。だが風博士では初級から上級まで3段階のユーザーレベルが用意されており、デフォルトでは初級のユーザーインタフェイスが表示されるようになっている。ボタンは4つほどしか表示されず、年配者などの初心者でも十分使いこなせるよう配慮されているのだ。
風博士のもうひとつの特徴は、高フィードバック体制だ。毎月29日の「肉の日」に必ず新バージョンをリリースするという驚異的な速度で開発が続けられており、公式サイトでユーザーからのフィードバックを受け付ける体制も整っている。「開発途中でのリリースのタイミングは難しい問題。だが、月に1度と区切りを最初に決めてしまえば、それに合わせて開発スケジュールを決めることができ、開発者としては意外にやりやすい」(池添氏)という。 今後の予定としては、先に挙げたサムネイル表示の実装と、レンダリングエンジンを切り替える機能を付け加えることが、目前の課題となっている。またブックマークの管理についても、新たな方法を検討しているという。「RSSや履歴など、すべてをブックマークで管理することができないかと考えています。ただブックマークをそのままGUI上に表示してしまうと非常に見にくいので、内部的にはブックマークとして処理し、GUI上ではもう少し分かりやすい方法で視覚的に表示できる方法がないかを試行錯誤しているところです」と池添氏は説明する。風博士は現在、Linux版のみのリリースとなっており、Windowsへの移植も大きな課題となっている。 極めて自由なオープンソース的文化が色濃く表れている風博士プロジェクト。池添氏は「とにかく楽しく、わいわいとみんなでプロジェクトを進めて行ければいいと思っています」と話すのである。 [関連リンク] |
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