「Java FAQ(What's New)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします。(編集局)
usability(ユーザビリティ) は use(使う)という言葉と ability(能力)という言葉から派生した言葉です。直訳では、「使用可能なこと」「有用性」といった意味を持ちます。一般的には、ソフトウェアや、Web ページ、家電製品などの「使いやすさ」を意味する言葉として使われています。
今日、数多くのアプリケーションソフトウェアや、各種のWeb ページや、Webサービスが存在します。その中には日ごろ慣れ親しんで使っているものも数多く存在します。一方、初めてのものや使いづらいものなど、戸惑うものもないわけではありません。
特にWebベースのアプリケーション、Webサービスに着目してみましょう。Webベースのアプリケーションやサービスは、Webブラウザ上で動作するためOS間の操作方法の違いによる影響をあまりうけません。
ではなぜ「使いやすい」ものと「使いにくい」ものがあるのでしょうか? これは単なる「慣れ」という要因だけで納得できるものばかりではありません。「使いにくい」ものは、どこかにその理由が潜在しているのです。
使いやすいといわれる要因としてどのようなものがあるか概念的にとらえてみます。
さまざまなサービスを作る側、制作を依頼する側は機能をどんどん付け加えていきたくなる傾向にあります。けれども不必要な機能は削除し、各機能をまとめていき、シンプルな方向へ持っていくのが使いやすさへの近道です。
ユーザーが間違えにくい仕組み、的確に誘導する仕組みを作るためにインターフェイスに統一感を持たせることが大切です。マウスの移動量、キー入力の回数が少なくて済むように考慮することも効果があるでしょう。
ユーザーが覚えておかなければならないことはなるべく少なくなるよう考慮するのも大切です。何けたもの英数字の羅列であるIDとパスワードを覚えておくことは容易ではありません。ID としてユーザーを一意に特定するのであれば、e-mailアドレスを流用するなど、さまざまな工夫があるでしょう。
必ずしも丁寧なヘルプがあったり、注意書きがあるから良いシステムだとはいえません。そのようなものがなくてもスムーズに使えるのがベストなのです。
ユーザビリティを考えるときに、作り手の視点ではなく、ユーザーの視点で物事をとらえることが大切です。また状況に応じて実際にユーザーの意見をヒアリングすることも大切です。
ユーザーが操作をよく間違える個所があったとします。普通ユーザーは自分が操作に慣れていないせいだと思い込んでしまいます。よく間違える個所があるならば、操作方法を間違うユーザーが悪いとするだけでなく、根本的に何か間違う要因が潜んでいないか考えてください。操作方法が一貫していない、ユーザーが覚えておかなければいけないことが多すぎる場合などが考えられます。
ありとあらゆることが可能で、自由にカスタマイズできることが必ずしも快適ではない場合もあります。じっくりと考えたうえで、実行できる操作にある程度制限を設けた方が実際のところ使いやすいものとなる場合もあります。
「ユーザーの要望にこたえる」という意味を「ユーザーのいうことを何でも聞く」という意味に取り違えてはいけません。ユーザーの言葉を言葉どおりに受け取るだけでなく、そこにある真意を読み取ることが大切なのです。
Web ページのユーザビリティは少し気を使うだけでも、格段に使いやすくなります。1つ1つはとても小さな事柄ですが、その積み重ねは大きなものです。数多くあるユーザビリティのコツの中からいくつか紹介しましょう。
文字入力域であるフォームの大きさに気を配りましょう。入力してほしい文字列の数に適したサイズを確保しましょう。例えば検索用のキーワードを入力してもらうために用意されている文字入力域が小さい場合は、ユーザーはその領域に収まる程度の文字数しか入力しません。逆に大きめの入力域を用意してあった場合は、ユーザーは数多くの単語を入力する割合が高くなります。またほかの例として、電話番号として、10けたの数字を入力しなければならないのに、入力域が7けた分くらいしか表示できない(入力自体は可能であっても)のはもってのほかです。
表示する文字、リンクの色、ページ背景の配色に注意を配りましょう。目立つだけが目的ではありません。色づかいに気を配るとともに、コントラストにも注意しましょう。1画面の中で使われる色の数や、フォントの数を抑えることも効果があります。近くにある雑誌のページを詳細に調べてみましょう。美しくデザインの優れたページは、それほど多くの色やフォントは使われていないはずです。また色のみ、アイコンの絵や形状のみで選択を行うインターフェイスは避けるべきです。
1画面に収まるインターフェイスを心がけましょう。一般的には横800ピクセル、縦600ピクセルの画面サイズから、Webブラウザのメニュー部分や、スクロールバーの部分を差し引いたウィンドウサイズを想定するのが妥当とされています(想定ユーザーが巨大なディスプレイを使っているのであればこの限りではありません)。もちろんウィンドウのサイズには左右されない、大きくとも小さくともちゃんと機能し、閲覧することのできるページが理想です。
またさまざまな入力を行う際に、画面のページを縦横にスクロールしなければならないのは大変不便であるとともにユーザーが全体像を把握することが難しくなります。できるだけ統一された画面内で操作が完結するようなインターフェイスを考慮しましょう。
Web ページの快適さは素早いレスポンス、つまり短時間内に表示されるページであることが重要です。Web ページのHTMLの記述を整理し、ファイルサイズを小さくすることによって素早く表示されるようになります。さらに、忘れてならないのは、「素早いレスポンス」というものは必ずしも素早く動作することではありません。「リクエストを受け付けました。現在作業中です…現在70%終了…」と表示されるのもレスポンスの一つであり、その表示によってユーザーは安心して待つことができるのです。
日本語の表記に気を配りましょう。ここで重要なのは、書かれている内容だけではなく、表記についてです。文章は簡潔に、段落に分けて表示することによってユーザーが読みやすく、認識しやすくなります。必要な場所に必要な分だけ表記することです。Web ページは、じっくり読むというよりも斜め読みされがちです。できるだけ短い簡潔な文章で、時には個条書きにまとめて表記するのがお勧めです。
また業界用語、略語、言葉の表記にも気を使いましょう。例えば、まったくの初心者ならFAQと書かれていてもFrequently Asked Questionsのことだとは分からないでしょう。「よくある質問とその回答」と分かりやすい表記にしないと FAQ としての役目を果たせません。
漢字仮名交じりの文章の「漢字」にも気を配りましょう。必ずしもすべて漢字に変換するのが最適とは限りません。適度な割合でひらがな、カタカナを混ぜた方が読みやすい場合がほとんどです。
ここまでに述べた数々の法則を必ずしも守らなければならないわけではありません。臨機応変に、適切にノウハウを活用することこそが大切なことです。法則を把握し、正当な理由があってその法則に従わないのであれば、それはかえって良い結果を生み出すかもしれないのです。
インターネットをベースとしたサービス、アプリケーションの開発は顕著な特徴を持っています。その特徴は、短期的な開発期間でリリースされ、さらにリリース後も引き続き、更新、改変され進化していくところにあります。
短期間で数多くの機能の実装を要求され、開発を行わなければならないとなるとどうしても「機能」の方に目がいってしまいがちです。しかし機能だけが仕上がったとしても、結局のところ使いにくいものではユーザーは寄ってこないし、逃げていってしまいます。
早期リリースと機能こそが大切で、インターフェイスは後から改良できるというのは浅はかな考えです。一度つかんだユーザーは重要です。一度離れていってしまったユーザーはなかなか戻ってきてはくれません。さらにたちが悪いことに、一度使いづらいインターフェイスに無理やり慣れてしまったユーザーは、将来的に使いやすいインターフェイスに改良したとしても、かえってそのことに戸惑ってしまうのです。対処方法として、短期的な視点での解決法と長期的な視点での解決法を考え、フェーズを追うに従って徐々に対応していくのが得策です。
今回はユーザビリティの観点から、ごく少数のポイントを紹介しました。ここで紹介したほんの少しのポイントに気を配るだけでも、圧倒的に使いやすいWebページ、Webサービス、Webアプリケーションとなるハズです。
現在手がけている仕事、これから手がける仕事、各種 Web サービスや、個人のWebページなど、数々の場面で「ユーザビリティ」という視点で物事をとらえていってほしいものです。
大規模な電子商取引サイトのユーザビリティがよく検討され、構築されていくのは今日では当たり前のことです。まずは手近なところで、社内インフラ(社内システム、社内ポータル)のユーザビリティを見直してみてはいかがでしょうか? 社員の仕事の効率が向上し、さまざまな無駄な手間が省けること請け合いです。
参考リンク一覧
Jakob Nielsen 博士の Alertbox (日本語訳)
http://www.usability.gr.jp/alertbox/
IBM developerWorks : Usability (日本語訳)
http://www-6.ibm.com/jp/developerworks/usability/
AllAbout Japan / Web ユーザビリティ (日本語サイト)
http://allabout.co.jp/computer/webusability/
WebWord Usability News
(英文だが、新鮮なニュースが数多く紹介されており読みごたえがある)
http://www.webword.com/
Java Look and Feel Design Guidelines
(Java プログラミングにおけるユーザーインターフェイスガイドライン)
http://java.sun.com/products/jlf/ed2/guidelines.html
次回は11月1日の公開予定です。
安藤幸央(あんどう ゆきお)
1970年北海道生まれ。現在、株式会社エヌ・ケー・エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。
ホームページ:
http://www.gimlay.org/~andoh/java/
所属団体:
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)
主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
「これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
「The Java3D API仕様」(監修、アスキー)
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