第64回 iPod nanoに見るフラッシュメモリ市場頭脳放談

iPod nanoは、デザインとともに内蔵フラッシュの容量と本体価格の関係に注目が。フラッシュがHDDの代わりとなる日は来るのか?

» 2005年09月23日 05時00分 公開
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 このところ再び、フラッシュメモリに注目が集まっているようだ。1つには、shuffleに続いてnanoを発表したAppleのiPodのおかげもあるだろう。miniを廃止してnano(ナノ)というのは、ボディ・サイズからすると名前の方が一気に小さくなりすぎて、位取りを誤っているような気がするが、miniは接頭語でないのでこの際よしとしよう。ここでは使い古された「Micro」でなく、最近はやりの「nano」という接頭語を使うことで、Appleが自ら開拓したハードディスク・オーディオとは一線を画した新鮮さが醸し出されていることに注目したい。

 本当はフラッシュメモリ・ベースのオーディオ・プレイヤーなど珍しくないはずである。だが、音楽配信ビジネスを主流にしたAppleが手がけることで、みんなの期待の大きな商品となっている。「nano」は先を考えても余裕のネーミングだ。何となれば大きさ(小さくなる方向)を示す接頭語は、nanoの後も、pico(ピコ)、femto(フェムト)、atto(アト)、zepto(ゼプト)、yocto(ヨクト)とまだ5世代もある。yoctoなどといわれると、何かヨーグルトみたいだが、後ろの方は造語だそうだ。

 iPod nanoに話を戻すと、搭載されているフラッシュメモリの容量に比べて製品価格の圧倒的な安さが印象強い。「フラッシュメモリでここまでやれます」とみんなの認識をリフレッシュした感じがする。一方、デジタル家電からオーディオへの応用が進んで意気盛んだったはずのハードディスク・メーカーの一部、特にモバイル狙いの1インチ製品には、背後から刺客が現れた、あるいは逆風という感じだろうか。

1年で2倍の大容量化を実現するNAND型フラッシュ

 そのフラッシュメモリだが、オーディオ・プレイヤーのストレージなどに使われるNAND型の大容量化は目覚しいものがある。そこで目立つアナウンスでアピール度が高いのはSamsung Electronics(サムスン電子)である(Samsung Electronicsのニュースリリース「SAMSUNG Electronics Underscores Mobile Technology Leadership at Annual Press Conference」。少し前に70nmプロセスで4Gbits品の量産を開始したと思ったら、9月になって50nmプロセスの16Gbit品の開発成功を発表した。もっとも12カ月ごとに容量2倍を公言しているSamsung Electronicsの開発ロードマップからすれば、2000年に512Mbitだったので、2005年に16Gbitというのは「既定」路線にしかすぎない。ちなみに、Samsung Electronicsの黄昌圭(ファン・チャンギュ)・半導体総括社長は、「メモリ半導体は18カ月ではなく、1年ごとに2倍ずつ集積度が高くなる」と2002年の国際半導体学会で公言しており、これを「黄の法則(メモリ新成長論)」と呼んでいる。

 量産アナウンス的には、4Gbitの量産アナウンスが2005年で、16Gbitは2006年後半予定ということだから、4Gbitが若干遅れただけということかもしれない。それにしても、昔は知らず、昨今、毎年2倍で突き進むのは、とんでもない労力と、工場の建設費がかかることだろう。プロセス動向をみても、巧緻に攻めているというよりは、力まかせに「豪腕」をふるって自らが決めた「法則」を守っているという感じがする。

 NAND型といえば、老舗の東芝は、Samsung Electronicsほど声が大きくはないが、着実に商売しているようだ。また容量と時期などのロードマップは、2値セル、4値セルの世代とプロセス動向を踏まえたものを公開している。こちらも容量アップだが、ある意味生真面目すぎるくらいにステップを踏襲するスタイルである。だが、いまいちアピールには欠ける。寡聞にして「東芝の法則(?)」というのは聞かない。「法則」とまで言い切っているSamsung Electronicsの方がアピール度は大であろう。もっとも、東芝にすればLexar Mediaとの訴訟で巨額の賠償を命ずる判決が出ており、いまだに係争も終結したわけではないようなのであまり目立ちたくない、ということもあるのかもしれない。技術的には大分前に、すでに40nmプロセス品までは試作して目処を付けてあるそうだから、いまさら声を大にしてアナウンスすることもないだろう。訴訟で暗雲立ち込めてはいるが、淡々とわが道を行っていただきたいものである。

 デジタル・オーディオ以外にも、画像や映像の分野で需要が伸びるNAND型が「おいしい」と見え、Micron Technologyなども参入するとアナウンスしていたが、自らが台風の目になる覚悟があるところまではないらしい。しかし当面はNAND型のストレージ応用というのが台風だがハリケーンだかであることは間違いないだろう。

そのほかのフラッシュメモリも市場を拡大中

 大分後回しになったがNOR型も市場は拡大しているようである。こちらではIntelやSpansionなどが多値化技術でしのぎを削っている。こちらは携帯がどんどん高度化して主記憶が拡大しているからだろう。技術や容量的には1Gbitも見えているが、まだ市場の主力は64Mbitから128Mbitといったところになりそうだ。プロセス的にもNAND系よりはもう少し枯れ気味のところを使っているもようである。それにしてもSpansionという名にも慣れない。「いつの間にそんな名になったの」という感じ。このごろどこの半導体屋も看板の架け替えで忙しいのは銀行業界以上のものがある。その昔、SpansionはFASLといっていたのではなかったか。FujitsuのFとAMDのAならまだ分かりやすいのだけれど。

 ルネサス テクノロジ(この名はさすがに慣れた)やNECなどは、マイコンに組み込むエンベデット・タイプのフラッシュメモリに注力しているようである。こちらの組み込みフラッシュメモリも「大容量」化しているが、大きいものでも2Mbytes(16Mbit)クラスくらいだろう。フラッシュメモリ単品製品に比べるとかなり小さいが、シングル・チップなだけに単品と用途はまったく異なり、すみ分けている。もちろん、市場のプレイヤーもセグメントごとに異なる。フラッシュ・マイコン独特のプレイヤーとしては、PIC(Programmable IC)でおなじみのMicrochip Technologyが挙げられるだろう。こちらは8bitのマイクロコントローラが主力なのでフラッシュメモリの容量はせいぜい数十Kbytes程度が中心だ。これをAtmelのAVR(8bit RISCマイクロコントローラのシリーズ名)を筆頭に、国内外の多くのマイコン・メーカーが追い上げている構図である。さすがに老舗のPICもつらそうだ。

フラッシュメモリの後に続くものは

 このように百花繚乱状態で、ハードディスクの市場を侵食し始めているフラッシュメモリなのであるが、そのフラッシュメモリにも「刺客」がすでに放たれている。FeRAM、MRAM、OUMの御三家を筆頭とする「ナノ世代の」メモリたちである(これらのメモリについては「第31回 次世代不揮発メモリが夢見る明るい未来」を参照のこと)。御三家くらいはよいけれど、そのほか最近いくつも出てきている奴らは非常に変わっていて、実はなんだかよく分からない。そして、どれが勝ち残り、生き残るのか、果たして市場を制覇するのかも、いまのところ筆者には「分からない」。しかし共通しているのは、ストレージをターゲットにし、フラッシュメモリどころか、ハードディスクの市場までも食う気でいる奴ばかりだ、ということである。多分、遅れをとったものは生き残れないとは思うが、どれかはサバイバル・レースを制してフラッシュメモリの後釜に座ることになるのだろう。そのときのマーケット・サイズはいまの数倍か数十倍か。戦国時代はまだ続く、合掌。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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