第63回 半導体業界に求められる環境対策って?頭脳放談

半導体業界でも環境問題は重要な課題。工場による環境汚染を防止するのはもちろん、鉛などの利用を止める必要もあり、その影響は大きい。

» 2005年08月27日 05時00分 公開
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 今回は「半導体と環境」についての話をする。この話題を取り上げるのに際して、ちょっと後ろめたい感じがしたのは、普段、環境にも身体にもよくなさそうな「行い」ばかりしてきたからに違いない。しかし、業界を眺めてみれば、半導体業界も環境対策にかなり知恵を絞って行動するようになってきている。これは半導体業界に限らず、ほかの業界も多かれ少なかれそうなのだからそれほど自慢できるようなことではないのではあるが、その中でも半導体らしい部分を中心に拾い上げてみることにする。「第54回 鉛フリーがいいじゃないか」では鉛フリーを取り上げたが、今回は違う側面を見ていきたいと思う。ただ説明の都合上、重なる部分もあることはご容赦いただきたい。狭い半導体業界とはいえ、環境問題はいくつかの側面が合わさったそれなりに複雑な様相を呈しているのだ。

半導体工場も低消費電力に

 まずは生産プロセス、つまりは工場の問題があることはいうまでもない。これにもいくつか側面があって、一番古いところでは工場による環境の汚染の問題がある。昔風にいうと「公害」だ。のっけからわき道にそれるが、最近は「公害」という言葉を聞かない。国立公害研究所が、国立環境研究所になったのはかなり前のことだ。いまは独立行政法人になって「独立行政法人 国立環境研究所」になっている。公害というとヘドロなどの汚いものを連想して触りたくないものという感じがしたが、環境というと何か優しく聞こえる。クールと聞いて涼しくなるのかと思ったけれど、クールビズは全然涼しくないのと同様の言葉のマジックかもしれない。

 半導体業界における汚染問題は古くからあるが、前回(第54回)でも取り上げているので、いまはコントロールできているということでまとめておく。しかし危ない薬物を扱っていることは昔もいまも変わらないので、気を抜くわけにはいかない部分である。

 最近、より注目されているのが、広い意味での環境負荷の問題の方だ。どこもやっているゼロエミッション(廃棄物をゼロにする構想)は、汚染問題にも通じる。非常に多くの電気を消費する半導体工場であるから、エネルギーの効率化も注目を集めている問題だ。どんどん巨大化し、電気をどんどん飲みこむ工場から、小さい規模の効率的な工場で、エネルギー消費を抑えつつ、必要な生産に対応しよう、というのがアイデアの根本にある。もちろん、その裏には先端の巨大工場には金がかかりすぎて大変なので、安くあげたいという希望も見え隠れしている。しかし市場競争の都合もあり、技術的な問題もありで、なかなか希望するほど素早く実現できていないのが実情のようだ。しかし効率が向上して、より少ないエネルギーで半導体の生産ができるようになるというトレンドではある。

低消費電力化は製品の魅力にもなるのだが

 次に生産される製品の問題もある。これにも狭い意味の汚染問題と、広い意味の環境負荷という2つの面がある。汚染の側であるが、1つ1つの製品に使われる量は微々たるものと思っていても、廃棄やサイクルの過程で半導体製品を搭載したボードなどが集まってくると、けっこうな量の重金属汚染などが起こることが分かってきた。その上、汚染物質がまざっていると折角のリサイクルがかえって汚染の原因になることもある。そのため電気電子製品などから汚染物質を排除しようという動きが盛んである。その代表は鉛フリー化であるが、この話は以前に書いているのでこれ以上は触れない。といいつつも付け加えると、ICの設計者も鉛フリー化の影響がなかったわけでなく、組み立て関係の設計変更に対応するために夜遅くまで残業した人も多かったはずだ。鉛フリー化は、現在も進行中なので、今後も組み立て関係だけでなく、IC設計者も含めた作業が続くことになるだろう。

 さらに鉛以外の重金属などもいろいろ槍玉に上がって排除が進んでいる。なにか使用禁止物質のリストがとめどもなく伸びていき、意外なものに意外な物質が入っていたなど、うかうか部品も買えない今日この頃である。こちらは、どちらかというと購買関係での影響が大きく、いわゆる「グリーン調達」という名で有名かもしれない。

 設計の場合は例えば、ちょっとデモ機を作ろうと考えて部品をリストアップするときなどに注意が必要だ。「グリーン調達」化されていない部品を使いたいと思うと、使用禁止物質が入っていないことを1つ1つ確かめないとならない。日本国内のベンダなら電話して聞けば教えてくれることが多いが、海外の変なところだとよく分からないこともけっこうある。あげく、使用禁止物質など入っていると欧州には輸出もできないことになる。実際、「グリーン調達」で一番忙しかったのは、問い合わせリストを片手に1つ1つ納入業者に照会していた購買担当者の方々かもしれない。この手の有害物質の排除という点では、EU(ヨーロッパ)の影響が大きいが、それについても前回書いたので割愛する。

 最後に、製品自体の環境負荷という面を見てみよう。半導体の場合はやはり電力を消費するので、電気エネルギーの削減は1つのテーマであるべきだ。特に各種電気電子機器の待機時の消費電力は問題になっている。待機時電力をゼロにできれば原子力発電所の1つや2つは減らせるという話もあるくらいだ。

 消費電力の削減自体は、環境面のためだけでなく、電池寿命が延びるなど製品の売りになる面もある。また物によっては、これ以上消費電力が上がると熱的に耐えられないとか、作る上で切実な側面もある。インテルのPentium 4が消費電力(発熱)の問題で動作クロックを向上できなくなったのは有名な話だ。現在、消費電力を引き下げるための技術開発が着々と進んでいる。しかし、速度はますます速くなり、無線化してのべつまくなしで動き、処理すべきデータはうなぎ上りに増えるという状態なので、技術開発によって削減できているというよりは、増え方を鈍らせている程度に見える。そういう観点での統計とか見たことがないが、本当のところはどうなのだろうか。

環境に貢献する半導体とは

 半導体には、より積極的に環境に「貢献」できる面もある。太陽電池も、半導体業界の製品(単結晶シリコンの上でロジックと遊んでいるようなICとは別世界だが)であって、こちらはクリーンなエネルギーを生み出せる分、積極的な貢献である。この分野での応用実績は、太陽電池のメーカーも多い日本が世界をリードしていたはずだが、このところドイツが急速に追い上げてきているようだ。やはりEU、環境問題となると力を発揮する。そういえばドイツのオフィスは、日のあるうちは窓からの光で、日本やアメリカなどのように昼間から蛍光灯をつけていない。こうした意識の違いも、製品に影響を与えるのだろう。

 さらに、これから流行りそうなのが、「エナジー・スカベンジング」である。スカベンジとは、掃除するとか、ごみ箱あさりをする、といった意味がある。スカベンジャー(体内の毒性物質を処理する器官)など、健康関係のテレビ番組で体内の悪いものを退治してくれるイメージで語られたので、言葉の感覚的にはだいぶよくなってきた。エナジー・スカベンジングのスカベンジは、そのままでは無駄に捨てられてしまうエネルギー、廃熱とか、メカニカルな動作とかから発電して、新たな電力を使わずにデバイスを動かしてしまおうというものだ。エネルギー的には活用しにくい条件下で発電しようというので、効率的には高くなく、極めて低消費電力のデバイスをかろうじて動かす、といった程度のレベルである。しかし、適正な管理をしないと環境汚染の原因になりかねない電池を不要にしたり、待機時の消費電力が気になる電源回路がなくなったり、と細かいけれど環境面では「優しい」といえそうな技術だ。IC屋も負けてはいられまい(太陽電池にはちょっと勝てそうもないように思えるが)、エナジー・スカベンジャーで環境貢献だ!

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筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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