Active Directory環境では複数のGPOが適用される。この際の継承順序や優先度、フィルタを制御することで、きめ細かな管理が可能になる。
前回は、Active Directory環境におけるグループ・ポリシーについて解説した。Active Directory環境であっても、スタンドアロンのコンピュータで利用されるローカル・グループ・ポリシー(LGPO)と仕組みや働きは同じであり、ただ、その保存場所が異なるというだけであった。LGPOの場合は、GPO(グループ・ポリシー・オブジェクト)やGPT(グループ・ポリシー・テンプレート)はローカル・コンピュータ上に保存されているが、Active Directoryの場合はドメイン・コントローラのSYSVOL共有上に保存され、それがドメイン内のコンピュータで共有されている。もう1つの重要な違いとして、Active Directory環境では、Active Directoryのコンテナ(サイト、ドメイン、OU)ごとにGPOが存在し、それら複数のGPOが組み合わされて利用されるという点が挙げられる。複数のGPOが利用されるため、どれが先に適用されるかによって、結果が異なることが予想されるが、今回はそのグループ・ポリシーの継承や優先度などについて解説する。
Active Directory上では、GPO(グループ・ポリシー・オブジェクト)のリンク先はコンテナだが、GPOの最終的な適用対象はコンピュータとユーザーである。そのコンピュータとユーザーは、Active Directoryの階層構造の中の複数のコンテナに含まれる。
例えば、図の右下にある「コンピュータ」は、以下のコンテナに含まれると考えられる(ディレクトリの厳密な階層構造とは異なるが、直感的にはこのようになるだろう)。
コンテナ | リンクされているGPO |
---|---|
フォレスト | なし |
サイト(該当のネットワークにいる場合) | GPO b |
子ドメイン | GPO c |
OU 1 | GPO d |
OU 3 | GPO f |
適用されるGPOの例 上の図における「コンピュータ」に対して適用されるGPO。上位階層にあるコンテナにリンクされているGPOがすべて適用される。 |
この「コンピュータ」には、これらの上位階層のコンテナにリンクされているGPOがすべて適用されるが、いくつか注意点がある。
従って「コンピュータ」に適用されるのは、GPO b、c、d、fとなる。
このように、上位コンテナにリンクされているGPOが下位コンテナへと受け継がれて適用対象となることを「継承」と呼ぶ。
そして、LGPO(ローカルGPO)は常にリンクしていると考えるので(LGPOのリンクについては連載第2回「ローカル・グループ・ポリシー・オブジェクト(LGPO)」参照)、このコンピュータに適用されるGPOを総合すると、LGPOと、Active Directoryの上位コンテナから継承したGPO(b、c、d、f)ということになる。
LGPOと、上位コンテナから継承したGPOとを合わせると、1つのコンピュータ/ユーザーに複数のGPOが適用されることになる。コンピュータ/ユーザーには、それらすべてを合わせたポリシーが適用される。もし同じポリシーに対して複数のGPOが異なる設定をしていたら、以下の方針で解決される。
従って、優先度は、高い順に次のようになる。
リンク先 | GPO | |
---|---|---|
1 | コンピュータに近いOU | GPO f |
2 | コンピュータに遠いOU | GPO d |
3 | ドメイン | GPO c |
4 | サイト | GPO b |
5 | ローカル・コンピュータ | LGPO |
コンテナ間の優先度 先の図における「コンピュータ」に対して適用されるGPOの優先度。上にあるものほど優先度が高い。 |
実際にグループ・ポリシーを計画/運用するに当たっては、優先度だけで考えるよりも、処理の順番という考え方をする方が分かりやすいことが多い。つまり、優先度の低いGPOから順番に処理され、処理のたびに上書きしていくと考える。
処理順 | リンク先 | GPO |
---|---|---|
1 | ローカル・コンピュータ | LGPO |
2 | サイト | GPO b |
3 | ドメイン | GPO c |
4 | コンピュータに遠いOU | GPO d |
5 | コンピュータに近い OU | GPO f |
GPOの処理順序 GPOの優先度は、GPOの処理順序(適用順序)と考えると分かりやすい。優先度の低いGPOが先に処理され、優先度の高いGPOが後から処理される。これにより、優先度の高いGPOの内容が効果を持つことになる。 |
この処理順(Local、Site、Domain、OU)は、しばしば、英語の頭文字から「LSDOU」と呼ばれる。ぜひ覚えておきたい。
具体例をいくつか挙げておこう。各GPOで、管理用テンプレートの同一のポリシーが設定されている場合、コンピュータ上で最終的に適用されるポリシー設定は以下のようになる。
処理順 | リンク先 | GPO | 例1 | 例2 | 例 3 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ローカル・コンピュータ | LGPO | 有効 | 未構成 | 未構成 |
2 | サイト | GPO b | 有効 | 未構成 | 未構成 |
3 | ドメイン | GPO c | 有効 | 無効 | 未構成 |
4 | コンピュータに遠いOU | GPO d | 有効 | 有効 | 未構成 |
5 | コンピュータに近いOU | GPO f | 無効 | 未構成 | 未構成 |
最終的に適用されるポリシー | 無効 | 有効 | 未構成 | ||
GPOとその適用結果の例 先の画面のGPOで、あるポリシー(すべて同じもの)を設定した場合、最終的にどのようになるかを示した例。例えば例1では、1〜4のGPOで「有効」にし、5では「無効」にしている。この場合、最終的には、最後にある5のポリシーが適用され、「無効」となる。管理用テンプレートのポリシーの「有効/無効/未構成」の違いについては、連載第3回「グループ・ポリシーの設定例」を参照のこと。 |
例えば例2の場合では、次のような順序で処理される。
処理順 | 処理するGPO | 処理内容 | 処理が終わった段階でのポリシー設定 |
---|---|---|---|
1 | LGPO | GPOのポリシー(未構成)が読み込まれる | 未構成 |
2 | GPO b | GPO のポリシーは未構成なので、1つ前の段階でのポリシーを変更しない | 未構成 |
3 | GPO c | GPOのポリシー(無効)で上書き | 無効 |
4 | GPO d | GPOのポリシー(有効)で上書き | 有効 |
5 | GPO f | GPO のポリシーは未構成なので、1つ前の段階でのポリシーを変更しない | 有効 |
例2の場合の処理内容 複数の優先度のGPOが存在する場合、このような処理を経て、最終的な設定が決まる。 |
このような処理を経て、最終的に「有効」というポリシーを適用することが決まる。
こうして最終的に適用するポリシーが決まったら、その適用は、LGPOしかない場合と同じである。管理用テンプレートCSEは、この最終的に決まったポリシーに基づいて、レジストリ値をセットしたり削除したりする。グループ・ポリシーの適用については、連載第4回「グループ・ポリシーの適用」を参照していただきたい。
このように継承と優先度の原則が定められているのだが、実は、この原則どおりに動作するかどうかは、グループ・ポリシーの拡張(extension)しだいである(詳細については連載第2回「グループ・ポリシーの『拡張』」参照)。
継承と優先度の原則から外れた拡張としては、セキュリティ・ポリシーの拡張がある。Active Directoryでは、ドメイン・アカウントに対するセキュリティ・ポリシーは、ドメイン・コンテナにリンクされたGPOからしか適用されない。
1つのコンテナには複数のGPOをリンクすることができる。
1つのコンテナに複数のGPOがリンクしている場合は、そのコンテナに対するリンクの優先度を決めることができる。
GPOを選択し、[上へ]をクリックすると、そのGPOとこのコンテナとのリンクの優先度が高くなる。[下へ]をクリックすると、低くなる。
この画面では、「全社用ポリシー」の方が「営業部用ポリシー」より優先度が高い。処理順でいえば、「営業部用ポリシー」→「全社用ポリシー」という順で処理される。
優先度と処理順、そして最終的に適用されるポリシーの決定は、すでに説明したコンテナ間の優先度と処理順と同じだ。上の画面のGPOで管理用テンプレートのポリシーが次のように設定されている場合、「営業部」コンテナに適用されるポリシー設定はこのようになる。
処理順 | GPO | 例1 | 例2 | 例3 |
---|---|---|---|---|
1 | 営業部用ポリシー | 有効 | 有効 | 未構成 |
2 | 全社用ポリシー | 無効 | 未構成 | 未構成 |
コンテナに適用されるポリシー | 無効 | 有効 | 未構成 | |
ポリシーの適用例 ポリシーがこのように設定されている場合、「営業部」コンテナに適用されるポリシーはこのようになる。 |
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