マインドマップとは、ロンドン生まれのビジネスコンサルタント、トニー・ブザン(Tony Buzan)氏が1970年代の初めに発案、提唱した「ノート記法」です。ビジネスの現場で新しいことを生み出す力が求められる中で、発想法の1つとしても非常に注目されています。
実はあのビル・ゲイツ氏も、次世代の発想ツール、ナレッジツールとして注目していましたし、古くはレオナルド・ダ・ビンチのような偉人のスケッチにも、マインドマップの表現方法が活用されていました。
読者の中には、「マインドマップという言葉は聞いたことがあるけれど、実際に書いたことはない」という人も多いのではないでしょうか。
マインドマップはあくまでもノート記法の1つではあるのですが、通常のノートの取り方と違い、次のような特徴と利点があります。
多くの利点を持つマインドマップですが、これまではコンサルタントやプランナーなどを中心に、一部の限られた現場で使われていました。しかしながら、マインドマップは本来、職種や業種を問わず利用することができるものです。仕事においてさまざまに役立ち、プライベートでも積極的に活用できるとても柔軟なツールです。またITエンジニアの間では、比較的利用が多いといえます。
そこで今回は、マインドマップになじみがないITエンジニアの皆さんのために、マインドマップ入門という切り口でお話ししようと思います。
マインドマップは、一見すると非常に見づらい、癖のあるノート記法のように思えてしまいますが、記述のルールは非常に簡単であり、どんな人でも簡単に書くことができます。ビジネスパーソンだけでなく学生にも利用可能な、非常に汎用性の高いノート記法なのです。
ただし、時系列に書く通常のメモの書き方と違い、マインドマップにはある一定の記述ルールがあります。初めてマインドマップを書く場合は、次の基本ルールに注意してください。
1.紙の中心に、議題やアイデアなどの「タイトル」を置き、円で囲みます。ここでは、「りんご」というタイトルを紙の中心に書いています(図1の(1))。
2.中心のタイトルから放射状に線をのばします。中心からのびる線は木の幹のように太く強調させてください(図1の(2))。
3.タイトルに関連するキーワードを連想し、線の上に単語を書いていきます。次々に連想したキーワードはノートの右上から時計回りに書いてください。ここでは、「りんご」から連想される「赤い」「青森」「甘い」「ジュース」という単語を書いています(図1の(3))。
4.キーワードがひと通り書けたら、キーワードからさらに放射状に線をのばして、線の上に連想するキーワードを書いていきます。ここでは、「青森」というキーワードに関連するりんごの品種である「つがる」「むつ」「世界一」というキーワードを書きました(図1の(4))。
以上が基本ルールです。どうでしょうか? 一見すると特殊なマインドマップですが、ルールは簡単ですよね。このようにキーワードから連想する単語を、どんどん線をのばしながら書いていきます。思いついた一字一句すべてを記述するのではなく、なるべく単語のみを書きます。ノートの中心から放射状に広がって書いていくことになりますので、紙のスペースをうまく使って書いてみてください。
正式なマインドマップにはほかにもルールがあるのですが、最初のうちはあまりルールにこだわらずに、まずは基本ルールに沿って書いてみることを心掛けてください。
では、マインドマップの幅広い活用例を説明しましょう。
マインドマップは、スピーチ・プレゼンテーション・講義などの文章、原稿作成の準備にも活用できます。
スピーチにしろ、書籍の原稿にしろ、文章には必ず構成があります。書き始める前に、頭の中で全体の構成を考えているはずです。しかしながらいざ書き出すときには、そのまま細部から書き出してしまうことが多いのではないでしょうか。
マインドマップを使用すれば全体を俯瞰でき、常に全体を見ながら構成を練り直すことができます。いったん構成が決まれば、後は細部を肉付けしていく作業に移ることができ、非常に効率が良くなります。
筆者もスピーチや執筆をする前には、マインドマップで草案を書くことが多いです。以前は原稿をMicrosoft Wordで一気に書き出していました。マインドマップを活用するようになってからは、原稿を作成するスピードがアップしました。
読者の皆さんも、クライアントにプレゼンテーションをする機会は多いと思います。資料を作成するとき、全体の構成が決まらないままに、スライド1枚目から凝った作りにすることにこだわりすぎて作業が進まないといった経験はないでしょうか。
筆者は普段、マインドマップ作成にMindManagerというソフトウェア(この連載の後編で紹介します)を使用しています。MindManagerで作成したあるプレゼンテーションの草案をお見せしましょう。
マインドマップで草案を作成しておけば、このようにプレゼンテーション全体を俯瞰し、構成を練りながら修正を加えることができるのです。ちなみにMindManagerには、マインドマップを自動的にMicrosoft PowerPointのファイルに変換する機能もあり、非常に便利です。
プレゼンテーションにマインドマップを利用することには、別の利点もあります。苦労して資料を作成したのに、プレゼンテーションの本番ではうまく表現して伝えることができなかったという経験はありませんか。せっかく作成した資料も、相手に伝わらなければ効果は半減です。
プレゼンテーションにおいては資料作成とともに、どれだけ相手に効果的に伝えるかというデリバリースキルも重要になります。
技術系カンファレンスでありがちなのが、テクニック不足を補おうとするためなのか、スライドに説明の文章をぎっしり詰め込みすぎたプレゼンテーションです。確かにプリントアウトされた資料を1つ1つじっくり読めば理解はできるのですが、次々とスライドが映し出されるプレゼンテーションではパッと見て大量の情報を認識することは難しく、情報量が多すぎるためにプレゼンテーション自体にうんざりしてしまう参加者も少なくありません。
一般にプレゼンテーションの資料作成では、伝えたいことだけに絞り込んでなるべくキーワードや図で書くといった、まさにマインドマップで活用されるテクニックが役立ちます。ですのでマインドマップを効果的に書くことに慣れた人であれば、優れたプレゼンテーションの資料を作成することも可能でしょう。しかし、シンプルで最低限のキーワードだけが書かれた資料を基に、実際にプレゼンテーションをするのは難しいものです。全体の構成が頭に入っていなければ、適切な言葉で資料を補うことができません。
難しいと感じたら、原稿作成に使用したマインドマップを印刷して手元に置き、それを確認しながらスピーチやプレゼンテーションを行いましょう。プレゼンテーションの全体が見えるので、スムーズに適切な言葉を補いながら、相手にしっかりと伝わるプレゼンテーションができるでしょう。
このようにマインドマップは、資料作成からプレゼンテーションの実演の場まで、幅広く活用できるツールだということができます。
今回はマインドマップの基本ルールと、プレゼンテーションでの利用例を説明しました。次回は、ITエンジニアの皆さんの仕事により近い応用例を紹介したいと思います。
片岡俊行(かたおかとしゆき)
大阪府出身、京都大学理学部卒業。2001年、京都大学大学院在学中にゆめみ設立。現在、取締役会長に就任。2005年11月、次世代モバイルインターネットの研究開発を行う子会社Sweetを設立、代表取締役に就任。著書に『RSSマーケティング・ガイド』(インプレスジャパン)、『Mobile2.0』(インプレスジャパン)、『マインドマップ練習帳』(秀和システム)などがある。
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