第88回 コンピュータを脳につないだら頭脳放談

脳とコンピュータを直接つなぐインタフェース「BCI」。SF映画のマトリックスのようだが意外と研究は進んでいる。今回はBCIについて考えてみる。

» 2007年09月21日 05時00分 公開
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 「クアッドコアのAMD Opteronの話はどうか」と担当編集者にふられたのにもかかわらず、マルチコアと聞いて即座に連想してしまったのが、コンピュータと人間の脳のインターフェイス「BCI(Brain Computer Interface)」への切なる希望であった。マルチコアとBCIというと、連想がつながりにくいかもしれないが、それが今回のお題である。

 ともかくも、こういう方角に発想が向いてしまうので、なかなか本屋さんへ行っても買いたい本がない、ということになってしまう。幸いこの連載にたどり着くような方々は、同じようなディープな方角を向いているものと勝手に想定しているので、この際、その方角で話を進めてしまうことにする。

脳はコンピュータと接続されるべき?

 BCIあるいはBMIともいう。ただしBMIというと「肥満度の判定方法の指標」として使われる「BMI(Body Mass Index)」の方が有名で、デブを自認している筆者にとっては、常々目障りな数値なので、ここではBCIの方に統一しておくことにする。BCIはBrain Computer Interfaceの略で、BMIはBrain Machine Interfaceの略である。人間の脳とコンピュータの間のインターフェイスをとろうという話だ。

 もちろん脳とコンピュータは、いまでもインターフェイスをとっている、確かに。でも、指とキーボード、視覚とディスプレイを介して間接的にである。もっと直接的に脳と「つなぎたい」というのがBCIの発想である。

 それはSF(サイエンス・フィクション)だ、というなかれ。すでに多くの大学や研究機関で研究が進んでいる。これは映画のマトリックス(THE MATRIX)や攻殻機動隊、古いところではブレインストーム(Brainstorm)の影響である、と確信している。研究は、かなりいいところまで来ているみたいだ。

 この話題、「第59回 アキバとサブカルと電子デバイスとマトリックス」に続いて、またかといわれても、何度でもいうべきだろう。かの大カトー(マルクス・ポルキウス・カトー・ケンソリウス:古代ローマの政治家)が、「それでも、カルタゴは滅ぼされるべきである」と唱え続けて、カルタゴは滅んだわけだし、筆者もしつこく書くことにする。「脳はコンピュータと接続されるべきである」と。

脳とコンピュータは惹かれあっている?

 確かに脳に電極を繋いでいる絵はおぞましい。ときどきB級映画に出てくるが、まともな心温まるシーンではありえない。実際、BCIの研究の一部では、電極をつないだり、ヘッド・ギアを使ったりもしているみたいなので、冗談ではない。それどころか、神経系に直接接続、つまりは切って電線を埋め込むというストレート・フォーワードな方法もある。身体を傷つけるなど正気の沙汰ではない。かくゆう筆者は注射でも嫌い、ましてや頭を切って埋め込むなんてとっても痛そうで……。

 しかし、コンピュータというものの「ネイチャー」を考察してみれば、脳に接続するということは、「不可避」な将来、と確信せざるを得ないのだ。道具としてのコンピュータというものは、人間の脳の仕事を支援するようなツールでもある。ある意味、脳の能力に対する倍率のようなものでもある。コンピュータなしには1の仕事が、コンピュータが支援することで5倍とか10倍とか10000倍とかになる。元の脳のスループットが反映するって? そのとおり。元がゼロならただの箱なのもコンピュータなのである。

 さて、コンピュータは、誰かが一度考えたことを、その誰かがいなくても、寝ていても繰り返し実行してくれる代行者のようなものだ。また、テレビ・ゲームなどを見ていれば、脳の動きを映し出して反応する脳に対する一種の鏡のようなものでもある。ディスプレイ > 目 > 脳 > 指 > ゲーム・パッド > コンピュータ > ディスプレイという回路は明らかに閉回路をなしており、そこから脱出できなくなることは、経験者のよく理解するところである。

 「いまでさえ、中毒状態なのに、こいつを直結しようなんて!」

 しかし、倫理や通念を超えたところで、脳とコンピュータは惹かれあっている、ということは確かなのだ。それも、脳というと一時はやったみたいに連想される「ニューロ」といった異なるパラダイムのコンピュータではなく、ごくふつうの「ノイマン型」コンピュータこそがである。なぜといって、お互い得意とするところが違いすぎ、補完しあえる存在であるからだ。

 脳には偉大な認識能力があり、想像や(妄想や)連想やら、そして想像、そうだ愛だ、とコンピュータの不得意なことが得意である。でも、疲れるし、よく間違えるし、すぐに消えるし、遅いし、勝手すぎる。まぁ、全部ではないけれど、そのあたりのかなりの部分は、いまのコンピュータが解決できるところだ。この2つを統合できたら確かに世界は変わる、に違いない。キーボードを打って、画面見ているまどろっこしいインターフェイスから、直接、「信号レベル」でインターフェイスできるようになると。

 ただし、こういうことをあまり正面切ってやると、反発も大きい。生理的嫌悪感は、習慣的、宗教的、倫理的な拒絶反応を容易に引き起こす。これを避けるには、まずは医療(治療)、あるいは軍事といった切り口から浸透していくしかないだろう。どうも、この手の話が多いように感じるが。

 そのうち、「肥満度指標」の方のBMIの意味が変わって、気がついたらBrain Machine Interfaceになっているのかもしれない。そのくらいになると、この先、マルチコアのコアの数がけた違いに多くなったとしても、いくらでも使えるはずだ。脳の「機能」というものを、どのくらいに分類したらよいのか分からないけれど、「機能」のそれぞれにサポートのスレッドをいくつか貼り付けられると面白い。さてそのときコアはいくつ必要なのだろうか?

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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