山口 ……この応募書類は、書き直した方がいいですよ。
桑田 えっ、何でですか? この書類は私が経験したプロジェクトがすべて載ってるし、いままでいろいろな顧客先に提出してきたんですよ。
山口 会社で使っている技術者経歴書と転職で使う職務経歴書では、そもそも用途が違うのですよ。だから流用できないのです。桑田さんからすれば、自分の経験を余すところなく記述している技術者経歴書は、転職活動の応募書類にうってつけだと思うかもしれませんね。でも、書類を受け取る方はどうでしょう?
桑田 書類を受け取る方ですか……?
山口 そうです、書類を受け取る方です。技術者経歴書を読むのは、協力会社に技術要員の出向を依頼する場合で、転職の応募書類を読むのは、自社の正社員採用で選考をする場合ですね。
桑田 ……確かに、違うかもしれませんね。
山口 違うかもじゃなくて、違うんです。技術要員の出向を依頼するのは、プロジェクトの遂行に必要な人員をそのプロジェクトの期間に限って調達する場合ですね。それに多くの場合、外部の技術要員にお願いするのは下流工程が多いものです。
それに引き換え、正社員を採用するということは、期間を定めず自社のプロパー社員と同じ仕事内容、元請けのシステムインテグレータであれば上流工程に従事することが前提となります。しかも外部の技術要員は、もし技術的に適切な人員でなければ交代を要請することも可能ですが、当然ながら正社員は、一度雇用したら技術的に不足があっても解雇することはできません。ねっ、違うでしょ。
桑田 そうですね、よく考えたら書類を読む方も、慎重さの度合いが違ってきますよね。
私は職務経歴書の作成について、桑田さんにいくつかアドバイスをし、1週間後にもう一度会う約束をしました。
1週間後、約束どおり新しい職務経歴書を持って、桑田さんは再びオフィスを訪れました。その結果が図2です。
(Wordファイルのサンプル)
「技術者経歴書」から「職務経歴書」に書き換えた結果、見た目からしてまったく違っているのが分かると思います。
1つ1つの改善点は下記のとおりです。
桑田さんの最低限の技術的な経験だけでなく、詳細な業務内容やサブリーダーの経験、得意分野も明記しました。また自己PR欄を追加し、簡単にですが転職動機も分かるようにしました。
新しくなった応募書類を持って、桑田さんは転職活動の第2幕をスタートしました。
さっそく私は、桑田さんの転職テーマに沿った求人案件に、新しくなった応募書類と推薦状を送りました。今度は、書類選考にすべて落ちるようなことはありません。5社ほど送って、3社から面接試験のオファーがありました。
もともと人当たりが良くて、面接試験は得意なタイプの桑田さんです。順調に転職活動は進み、見事、転職のテーマをクリアできるであろう会社から採用内定を勝ち得たのです。
今回の職務経歴書の改良では、業務内容や役割などを詳細に記述しただけではなく、自己PR欄を利用して、転職動機や将来のキャリアプランなども表現しました。実はこれが非常に重要なことなのです。
外部の技術要員としてではなく、自社の正社員として迎え入れるのであれば、どんな環境でどんな言語を使っていたか以上に、その人の性格や志向を重視します。雇うからには雇用主としての責任も生まれます。
ですから応募書類である職務経歴書では、経験してきたことだけではなく、自分という1人の人間を表現しなくてはならないのです。
職務経歴書は、転職活動において非常に重要なツールです。書類選考がパスしなければその先はないのですから。慎重を期して作成し、成功する転職を目指しましょう。
アデコ 人材紹介サービス部 シニアコンサルタント
千葉県出身。大学卒業後、建設会社にて人事、経理などの管理業務を経験。その後ITエンジニアに特化したスカウト型の人材紹介会社に転職し、キャリアアドバイザー業に従事する。その後アデコに参画し現在に至る。キャリアアドバイザーとしては一貫してIT業界、インターネット業界を担当。ギャップのない転職を支援するための情報収集能力、転職者側と採用企業側の両方の目線で行うカウンセリングには定評があるという。
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