皮肉なことに、プロジェクトと失敗とは相性がよい。納期どおりにできなかった、要求どおりにできないことが多い、機能を削減することが多いなど、もともとの目的、スコープから、後退したプロジェクトの経験を持つITエンジニアは多いに違いない。なぜ目的どおりにいかないのか。どこを改善したらいいかを本連載で明らかにし、処方せんを示していきたい。
日本では、プロジェクトマネージャの多くが、プロジェクトのコストに責任を持っていない。ほとんどの場合、コスト責任はプロジェクトマネージャの上司である管理職にある。これで、本当のコスト管理ができるのだろうか。
プロジェクトマネージャには納期責任があるので、納期だけは何とか守ろうとする。すると残業が増え、予算コストを守れなくなる。
コスト管理をプロジェクトマネージャではなく、上位の管理者がやっていては、コスト超過の原因を的確に把握できず対処が遅れる。十分に予想できることだ。
もう1つの大きな問題は、コスト把握のタイミングである。多くの企業は、SEが月次で出した「プロジェクト別稼働時間」を基にコスト集計を行っている。このコスト集計が上がってくるのは、翌月の10日前後であることが多い。これでは、タイムリーなコスト対策が打てるはずがない。
スケジュール管理は毎週行っているのに、コスト管理は多くて月1回ということでは、きめ細かい管理ができているとはいえない。コストの状況を迅速かつ的確につかみ、タイムリーに対策を打つことで、初めて、きめ細かいコスト管理ができているといえる。
さらに問題なのは、たとえきちんとコストが把握できたとしても、これがどの程度良いのか、悪いのかを正確に把握できないことだ。
例えば、トータルで1000万円の予算があるプロジェクトの前月までのコスト予算が500万円で、今月までに実際にかかったコストが450万円だったとする。これは、プロジェクトにとって良い結果なのだろうか、あるいは悪い結果なのだろうか。
単純に考えれば、500万円の予算に対して、450万円しか使っていないので、良い結果に見える。しかし、プロジェクトの進ちょくが遅れており、まだ40%分の仕事しか終わっていないとしたらどうだろう。この場合、本来使ってよいコストは400万円であり、50万円の予算超過と考えなくてはいけない。
このように、コスト管理は、実際の出来高と合わせて考える必要がある。だが、これができているプロジェクトチームは非常に少ない。結果、プロジェクトを締めて初めて、収支で赤字が判明するはめになる。
次に、そうならないためのコスト管理の方法を紹介する。
まず、コスト管理の責任を管理職ではなくプロジェクトマネージャに持たせることが重要である。コスト管理は日々の活動の中で、コスト超過の兆候をつかみ、早めに手を打つことが重要だ。普段の活動を見ていない上司がコストに責任を持ち、コスト超過に早期対策を講じることは不可能だと考える。
次に大切なことは、コスト把握を迅速行うことである。月次では、タイムリーな対策を打つことは困難だ。週次で各メンバーに稼働実績を入力してもらい、月の途中であってもコストの状況をつかめるようにしておくことが望ましい。
最後のポイントは、コストが超過しているかどうかを、仕事の出来高で把握することである。この出来高を金額で表すことができれば、出来高とかかったコストを比較することで、予算コストを超過しているかどうかがプロジェクトの途中でも把握できるようになる。この仕組みが、アーンド・バリュー法(EVM)である。
EVMでは、プロジェクトの状況を把握するために、次の3つの基本数値を使用する。
基本数値 | 意味 |
---|---|
PV (Planned Value:計画予算) |
ある時期までにプロジェクトに割り当てられた計画予算 |
AC (Actual Cost:実コスト) |
ある時期までに実際にプロジェクトのために支出された費用の累計値 |
EV (Earned Value:出来高) |
ある時期までに実施した作業に割り当てられていた予算の合計値 |
この中のEVとACを比較することで、コストの超過状況を定量的に把握することができる。EVMを難しいと考える人は多いが、実行してみるとそれほど難しい手法ではないことが分かる。コスト管理を迅速かつ正確に行いたければ、ぜひ、研究してみてほしい。
落合和雄
1953年生まれ。1977年東京大学卒業後、新日鉄情報通信システム(現新日鉄ソリューションズ)などを経て、現在経営コンサルタント、システムコンサルタント、税理士として活動中。経営計画立案、企業再建などの経営指導、プロジェクトマネジメント、システム監査などのIT関係を中心に、コンサルティング・講演・執筆など、幅広い活動を展開している。主な著書に、『ITエンジニアのための【法律】がわかる本』(翔泳社)、『実践ナビゲーション経営』(同友館)、『情報処理教科書システム監査技術者』(翔泳社)などがある。そのほか、PMI公式認定のネットラーニングのeラーニング講座「ITプロジェクト・マネジメント」「PMBOK第3版要説」の執筆・監修も手掛けている。
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