では、通信業界でのITコストの大半を占めるBSS/OSS領域のシステム開発について説明します。
まずは、コストパフォーマンスが効率的なシステム構築について考えてみます。
諸外国では、商品構成が比較的シンプルで、システムに求められる業務レベルや品質が日本ほど高くありません。そのため、BSS/OSSにおける機能のほぼすべてにおいて、通信業の業務全体をふかん的にとらえたeTOM(enhanced Telecom Operation Map)という標準的なプロセスフレームワークに則したパッケージ・ソフトウェアで構築されます。
一方日本は、前述のとおり、さまざまな商品や割引サービスが存在します。それらの販売やカスタマーケアについて、非常に多くの業務要件を高いレベルでシステム化しなければならず、そのためにほとんどの機能がカスタマイズされています。また、カスタマイズ作業が長年にわたって繰り返されたことで複雑かつ巨大化しており、追加開発であってもコストが多くかかる場合が多いのです。
しかし、コスト削減のためだけに、諸外国のようにすべての機能をパッケージ化するビッグバン的なシステム刷新をすることは、業務要件・コスト面から見ても正しいとはいえません。積み重ねてきたシステム機能をすべてゼロから構築し直すには、多くのコストと労力がかかり、現実的ではありません。
ただ、一部システムの更改に当たっては、サービスや業務の必要性について再検討する必要があります。よりコストレスなパッケージ製品の適用可能性も含め、BPR( Business Process Re-engineering)と共に議論すべきであると考えます(既存システムの状況によっては、ビッグバン的アプローチが有効な場合もあります)。
次に、次世代ネットワークへの対応の観点から、システム開発について考えてみましょう。
冒頭でも述べましたが、今後は、通信と放送、固定と携帯といった垣根を越え、新たなネットワークビジネスに対応していくことが必須となります。また、以前のような一社完結型ではなく、さまざまなビジネスパートナーとの連携を強化した変化に強いシステムが必要となります。
上記の観点を踏まえると、内部・外部を問わず、システム連携が重要なポイントであることが分かります。SOAの考え方を取り入れたよりオープンで柔軟なシステム構築が必要です。具体的には、標準的な技術を採用し、接続先システムを意識することなく連携できるようなアーキテクチャを構築することを指します。また、接続先そのものの増減についても柔軟に対応できるシステム構築も望まれます。
こうしたシステム効率化と同時に、システムを利用している業務や商品についても、割り切りや簡素化を検討することが非常に重要です。特にパッケージ製品は、できること/できないことが明確になっており、業務の実現レベルがそのままシステム構築費、さらにはその後の追加開発・保守費用に跳ね返ってきます。業務側は、現在実現しているレベルをそのまま維持することが当然であると考えています。要求(Must)と要望(Will)を同時に提示してくるのです。しかし、システムを利用している業務や商品を簡素化せずそのまま構築した場合、いくら技術が進歩しようと、非常にコストが高いシステムができてしまいます。このことは、カスタム開発であろとパッケージ開発であろうと同様です。
コスト高のシステムを防ぐ1つの手段としては、システム開発に入る前に、業務側とシステム側が一体となって、オペレーション・ITを含むトータルでのROIを踏まえた詳細検討をすることが挙げられます。その過程の中で、システム側は、要件の詳細化が可能になり、それはそのままシステム設計のインプットとなります。業務側はシステム側と詳細を検討することで、要件の実現レベルを明らかにできます。これにより、サービスリリース後に「要件と違う!!!」と大騒ぎすることが随分と減るでしょう。また、この段階で、要件とその実現に掛かる費用をある程度精査することができるため、費用対効果という定量的な数値を基にシステム構築をすることが可能となり、ITトータルコストの削減にも寄与できます。
売上高に対するITコストの割合が高いことからも分かるように、通信業界においては、システムとサービス・業務は表裏一体であるといえます。従って、システム構築に当たっては、システム部門だけでなく、業務側のユーザーを巻き込んだ検討が必要ですし、システムの変革に当たっては、トップマネジメントの協力が必須です。
通信業界に限ったことではないでしょうが、今後のシステム構築では、柔軟性とスピードが強く求められます。こうした環境下では、システムを構築する側の人間もビジネス背景や業務プロセスを十分に理解したうえで、システム的な観点からあるべき姿を積極的に提案・実現していくことが強く求められていると考えます。
次回は「(組み立て型)製造業」について説明する予定です。
秋下浩(あきしたひろし)
システムインテグレーション&テクノロジー本部 通信ハイテクグループ パートナー。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、1994年にアクセンチュアに入社。主に通信業の業務改革、IT戦略の立案、システム構築に携わり現在に至る
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.