ITエンジニアの日々の業務は、一見業界によって特異性がないようだ。だが、実際は顧客先の業界のITデマンドや動向などが、システム開発のヒントとなることもある。本連載では、各業界で活躍するITコンサルタントが、毎回リレー形式で「システム開発をするうえで知っておいて損はない業務知識」を解説する。ITエンジニアは、ITをとおして各業界を盛り上げている一員だ。これから新たな顧客先の業界で業務を遂行するITエンジニアの皆さんに、システム開発と業界知識との関連について理解していただきたい。
さまざまな業界を担当しているアクセンチュアのITコンサルタントが、ITエンジニアのための業界知識として、リレー連載をお届けしています。第3回のテーマは、「組み立て型製造業の業界動向」「ITとのかかわり」です。組み立て型製造業のITエンジニアとしてこれから業務を遂行する方へ、私の経験を基に組み立て型製造業の業界動向お伝えしたいと思います。
製造業は、素材型、組み立て型、上記2つ以外を指す生活産業型(例:食品飲料)の3つに大分類できます。
このうち、組み立て型には、一般機械、電気通信機器、精密機器、輸送機械(乗用車、トラック、バス、そのほかの自動車)の4業種が含まれます。
年間出荷額は、輸送機械が約59兆8000億円、電気通信機器が約51兆円、一般機械が約33兆3000億円、精密機器が約4兆円で、合計約148兆円です。全製造業出荷額が約315兆円なので、組み立て型だけで実に47%程度を占める、すそ野の広い業界です。また、成長率は、業種や年により差はありますが、10%前後あります(経済産業省「平成18年工業統計表(1.産業別統計表)」)。
最近の製造業では、大企業を頂点としたピラミッド構造が崩れてきており、業界構造に変化が見られます。これまでは、大企業を頂点に、企業間の垂直取引関係が存在していました。その中で情報が濃密に共有され、ヒト・モノ・カネなどの資源も柔軟に融通されていました。それが競争力の源泉となってきたといわれています。ピラミッドの頂点の自動車組み立てメーカーや総合電気メーカーは、配下の企業や下請け部品メーカーを束ねた企業グループを構成し、長期的な視点に立った安定的経営を行ってきました。
ところがバブル崩壊以降、ピラミッド構造の維持コストが相対的に高くなってきたことや、情報技術の進化により情報交換コストが低下したことなどによって、長期安定的な関係に対する選別やオープン化が進んできました。日産自動車のカルロス・ゴーン氏が「ゴーン改革」で行ったサプライヤの選別や、松下電器産業(現パナソニック)における系列店の選別がその典型例です。
大企業においては、複雑な事業構造のため多大な調整に追われ、俊敏性が不足し、大胆な意思決定を行えないといった問題があるといわれてきました。このため近年、事業の選択と集中を進め、事業単位での切り離しや、逆に買収を行う企業が多くなってきたのです。
日本などの先進工業国では、バリューチェーンの川上の商品開発・部品製造、川下の販売・サービスと比較して、中間に位置する組み立て型製造はもうからない(「スマイルカーブ」)といわれます。実際、パソコンやデジタル家電のように、標準化が進んだ製品では、製造・組み立てはコストが低いところに任せ、自社はR&D(Research and Development)やブランド・サービスに集中する手法が見られます。このような業態を、垂直統合型に対して水平分業型モデルといいます。ODM(Original Design Manufacturer:相手先ブランドによる設計・製造)やEMS(Electronics Manufacturing Service:電子機器の受託生産を行うサービス)といった水平分業型モデルを支える中国や台湾の企業が増加してきています。しかし、自動車産業のように、“擦り合わせ”の重要性が高い業種では、組み立て型製造業であってもこのようなモデルを採ることは難しいといわれています。
組み立て型製造業は加工貿易産業ともいわれ、グローバル化がかなり進んでいます。従来、ハイテク製品業界は、競合企業間で、過多といわれるほどの熾烈な国内競争をすることがグローバル競争優位の源泉となると考えられてきました。しかし近年、日本の市場は独自に進化をしている一方で、世界の多数を占める日本以外の市場と切り離されており、日本市場で切磋琢磨(せっさたくま)することが必ずしもグローバル競争における優位につながりません。いままでの、市場は日米欧中心、生産はLow Cost Countryといったグローバル化ではなく、BRICs諸国などの台頭で、多極化する世界への対応が求められていることが背景にあります。
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