IT企業の人事担当者に読んでほしい、人事制度導入ノウハウ。導入プロジェクト開始の準備から設計、導入、実際の運用まで、ステップごとに詳細に解説する。
この連載では、IT企業の人事担当者、人事制度に興味を持つ人に向けて、制度導入のノウハウをお伝えします。準備、現状分析、設計、導入などのステップごとにその手法を解説し、気を付けるべき点を紹介します。
人事制度導入の検討を始める前に、現在IT企業で起こっている「人」の問題について考えてみましょう。
ここでは、「組織レベルで起きている問題」「個人レベルで起きている問題」という観点で整理します。
現在、IT企業に組織レベルで起こっている問題として、以下の3つが挙げられます。
(1)人材育成が後回しにされるプロジェクトチーム中心のマネジメント
通常、システム開発は、案件ごとにプロジェクトチームを組んで行われます。プロジェクトチームのメンバーは、期間を区切ってプロジェクトにアサインされます。
プロジェクトに求められるのは、「期間内に成果を出すこと」です。そのため、長期的な視点での人材育成は後回しにされる傾向があります。中には、プロジェクトマネージャが人材育成を自分の役割と認識していないケースもあります。
人員に余裕がないプロジェクトではなおさらでしょう。そしてほとんどのプロジェクトマネージャは、「人員に余裕がない」と思っていることでしょう。
プロジェクトによって、獲得できるスキルや仕事の難易度には大きな違いが生じます。メンバーにとって良い経験になるプロジェクトもあれば、大変なだけで経験もスキルも身に付かないプロジェクトもあります。アサインされたプロジェクトによって、メンバーの成長度が変わってしまうのです。
さらに、それぞれ異なるプロジェクトに従事している社員を、公正に評価するのは難しいものです。
(2)優秀なプロジェクトマネージャの不足
技術の進歩とともに、プロジェクトは大規模化・高度化しています。それにもかかわらず、厳しい競争により、短い納期・少ない予算でプロジェクトを受注しなければならないケースは多々あります。
加えて、システム開発は顧客の業務特性に合わせてカスタムメイドで行われることが多く、顧客や多くの関係者との擦り合わせを行いながら開発を進めていくことが求められます。つまりプロジェクトマネージャには、厳しい条件の中で、高度なマネジメントを行う力が求められているのです。
例えば、大人数のメンバー(自社の社員だけでなく、協力会社の社員もいます)や顧客をうまくマネジメントするためには、高いコミュニケーション力が必要です。しかしITエンジニアの中には、技術には詳しいけれどコミュニケーションはあまり得意ではない、という人も少なくないでしょう。優秀なプロジェクトマネージャを育てるのは、容易なことではありません。
力量不足のプロジェクトマネージャでは、プロジェクトが失敗する確率は高まるでしょうし、本人も大変苦労します。それを見ているITエンジニアたちには、「プロジェクトマネージャは大変な割に見返りが少ないから、なりたくない」という思いが生じてきます。
(3)プロジェクトメンバー同士の連携不足
多くの関係者との「擦り合わせ」が重要なシステム開発のプロジェクトでは、メンバー同士の自律的な連携が成否に影響を与えます。
ところが、技術の高度化に伴い、各メンバーの仕事や専門性は細分化される傾向にあります。そのうえプロジェクトは大規模化しており、メンバーの中には「プロジェクトの全体像が分からない」「ほかのメンバーが何をしているのか分からない」という状態の人も少なくないでしょう。また、人員の余裕がないプロジェクトでは、ほかのメンバーを気遣う余裕もありません。
このような状況で、メンバー同士の連携はますます行いにくくなっています。
私たち人事コンサルタントは、人事制度の構築を支援する過程で、職場のスタッフや管理職の人にヒアリングを行います。要望として多いのは「優秀な人が欲しい」というものです。そこで「優秀な人とはどんな人ですか?」と聞くと、たいていのIT企業ではこのような答えが返ってきます。
「優れた技術力を持っている人。でも、これは最低条件。技術力が高くてもチームで仕事ができない人は困る。でも現実には、技術力が高い人は、チームで仕事ができないことが多いのです……」
IT企業では、技術力がなければ認めてもらえないのは周知の事実。だからといって、技術力さえあればいいというわけではないのです。しかし、ITエンジニアの中には「技術力があるから、自分は優秀」と考えている人が多いようです。
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