“理想”とは程遠いあなたの会社の人事制度IT企業のための人事制度導入ノウハウ(3)(1/2 ページ)

IT企業の人事担当者に読んでほしい、人事制度導入ノウハウ。導入プロジェクト開始の準備から設計、導入、実際の運用まで、ステップごとに詳細に解説する。

» 2009年01月19日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]

 前回「スタート前に成否が決まる、人事制度導入プロジェクト」では、人事制度の具体的な検討・構築作業に入る前の重要な検討事項を取り上げました。人事制度導入プロジェクトの「スコープ」(検討範囲)、「体制」(メンバー選定)、「スケジュール」の3つです。

 今回からは、具体的な人事制度の検討・構築作業の説明に入ります。まずは人事制度導入の最初のステップである「現状分析」について解説します。

現状分析で、改善のポイントを特定する

 現状分析では、まず、目指す姿(1)と現状(2)のギャップを明らかにします。

図 現状分析の全体像 図 現状分析の全体像

 私たちがコンサルティングを行うとき、クライアントの多くは、自社のこのギャップを漠然と認識しています。しかし、重要なのは漠然とではなく、明確に認識することです。ギャップの内容や程度(深刻度)を明らかにしておくことが必要なのです。

 目指す姿(1)は、経営層へのインタビューや事業計画書などによって確認します。具体的には「経営理念やミッション、ビジョン」「自社事業の競争優位戦略」に基づき、「どのような人材を獲得・育成し、どのように働いてもらいたいか」を明らかにします。

 現状(2)は、現場へのヒアリングやES調査(従業員満足度調査)などを通じて具体的に把握します。例えば退職率が高い場合は、退職者から退職理由を具体的にヒアリングすることが必要です。

 ギャップの内容が明確になったら、人事マネジメントの観点からギャップの原因(3)を特定します。具体的には、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」「教育体系」「退職給付」「福利厚生」「採用・人事異動・キャリアパスの方針・基準」「雇用体系」といった多岐にわたる人事マネジメントの各制度について、どこにギャップの原因が存在するか分析していきます。

 制度の「仕組み」だけでなく、「運用実態」について分析することも重要です。仕組みは適切に作られているが、運用が適切に行われていないというケースも多いのです。

 新人事制度の構築・導入は、自社の目指す姿に現状を近づける(ギャップを埋める)ための「手段」です。目指す姿や現状は各社各様ですから、ほかの企業の人事制度を模倣してもうまくいくとは限りません。

 現状分析で自社にとっての重要なポイントを特定し、その改善に力を注いでいきましょう。

IT企業における問題の分析――等級制度を分析する

 連載第1回「IT企業を襲う『優秀なプロマネ不足』の打開策」では、IT企業で発生している代表的な問題を、「組織レベルの問題」「個人レベルの問題」という観点から、以下の6点に整理しました。

IT企業で発生している6つの問題

組織レベルの問題

(1)人材育成が後回しにされるプロジェクトチーム中心のマネジメント

(2)優秀なプロジェクトマネージャ(以下、PM)の不足

(3)プロジェクトメンバー同士の連携不足

個人レベルの問題

(1)新しい技術についていけない人の発生

(2)高スキルエンジニアのモチベーションダウン

(3)心身の調子を崩す人の発生


 各企業で細かい違いはあるでしょうが、この6点は、多くのIT企業における代表的な「目指す姿と現状のギャップ」だと考えられます。

 ここでは、多岐にわたる人事マネジメントの制度の中から、コアとなる等級制度・評価制度・報酬制度の3つを選び、基本的な分析のポイントを示します。

 加えて、上記6点のギャップの原因例も載せています。

 これらを参考に、ぜひ自社の制度や運用実態の分析を行ってみてください。

1.等級制度の分析

 等級制度とは、従業員を「能力」「職務」「役割」などの基準に従って格付けし、それによって処遇を決定する仕組みのことです。

 以下に、等級制度の基本的な分析のポイントと、IT企業で想定されるギャップの具体的な原因の例を示します。

a.等級定義の内容の分析

[分析のポイント]

  • 経営方針や求める人材像が具体的に反映されているか
  • 等級間の違いは明確か、どのような能力を身に付ければ昇格できるかが分かりやすく示されているか
  • 等級定義は社員に公開され、育成の指針として活用されているか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • PMの役割や成果責任は明確に定義されているが、求められる能力やスキルは明確になっていない。そのため社員が、PMになるために、あるいはPMとしてさらに成長するために、どのような能力を高めるべきか具体的にイメージできない状態になっている
  • 定期的な等級定義の見直しが行われていないため、すでに使われていない技術が等級定義に入っている、その資格を必要としない社員に取得を強要する、といったことが発生している

b.昇格・降格メカニズムの分析

[分析のポイント]

  • 昇格や降格の決定過程で、社員の適性を的確に把握・評価できているか(* ただし、降格についてはルールがない会社も多い)
  • 昇格運用は適切に行われているか(例えば年功的な昇格運用になっていないか)
  • 等級と実力のミスマッチな社員がいる場合、そのような昇格が行われた理由が明確になっているか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • PMとしての能力や適性を確認しないまま、過去のスキルの蓄積やITエンジニアとしての実績だけで昇格を決定してしまうため、マネジメント力の不十分なPMが多数存在する
  • 技術力以外の昇格要件が具体的に示されていないため、チームプレーができない人材や社内のルールが守れない人材でも昇格している
  • 中途採用者の等級は前職の報酬やマーケットの報酬水準によって決定されているため、等級と実力が乖離(かいり)している場合があり、自社生え抜きの優秀人材に不満がたまっている

コラム1 PMになりたがらないITエンジニア

 私たちコンサルタントが現場でヒアリングを行う際、「PMにはなりたくありません」というITエンジニアの声をよく聞きます。その理由はだいたい以下のように集約できます。

  • PMになって会社とお客さまと部下の板挟みに苦しんでいる先輩や上司を、これまで何人となく見てきた
  • しかも、PMになると残業代が出なくなり、実質的に年収が下がってしまう。より大変になるのに報われない
  • 会社がPMになるための教育を十分に行ってくれるわけでもないのに、PMを務める自信はない

 もらえるお金が減り、気苦労も多いPMになりたいとは思えない、そもそもPMとして成長するためにどのような能力が必要なのかも分からない、それよりは現場でスキルを磨く方が、今後の自分のキャリアという観点で安心できる、ということのようです。

 確かに、PMという役割がハードなものであることは事実ですし、マネジメント志向の人材とスペシャリスト志向の人材が存在するのも事実です。しかしIT企業の業務運営の核であるプロジェクトの根幹を支えるPMになりたいITエンジニアがいないというのは、大きな問題です。


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