ITエンジニアの周りにはストレスがいっぱい。そんな環境から心身を守るためのヒントを、IT業界出身のカウンセラーが分かりやすく伝えます。
相談を受ける中で、最近多いなと感じるのは、「やる気が出ない」という内容です。具体的には、「朝、仕事のことを考えると気持ちがなえてしまい、起き上がれない」「営業でお客さんを回らなければならないのに、体が重く感じてついつい休憩してしまう」などです。
「そんなのみんなあるでしょ?」という声が聞こえてきそうですね。確かに、毎日「さあ、やるぞ!」と思える人はそれほど多くないでしょう。「しょうがない、まあやるか……」と重たい腰を上げることもあると思います。
しかし、前述のような気が重い状態が何日も続き、「なんとかしなくては……」と思っているのに動けないともなると、大きな問題です。気持ちが追いつめられ、焦りばかりが募り、できない自分を責め、毎日が苦痛になってしまいます。
今回は、「やる気」をどうコントロールするかについてお話しします。
やる気が出ないという状態には、いくつかの要因が考えられます。
カウンセリングでは、以下のような可能性も念頭に置きながら、お話を伺います。
・うつの症状
「何かをしようとする意欲がない」という意味であれば、うつの症状の1つである可能性があります。そういうときは、ほかに変化が起こっていないかを確認します。
「最近眠れますか?」「食欲はありますか?」「頭痛や肩こりなどはないですか?」などの質問をし、生活状況を聞きます。その結果、うつ症状であることが考えられる場合には、専門医の受診を勧めています。
・燃え尽き症候群
やる気が「なくなった」というニュアンスの場合には、「以前はあった」ということですから、「いつごろから?」「きっかけは?」などを尋ねます。「3カ月間終電帰りが続いた後、一段落したらこうなった」のような状況なら、燃え尽き症候群が考えられます。疲労困憊(こんぱい)状態ということです。
これは体(脳も体の一部です)の自然な反応といえるので、まずは休養を取ることで対応します。場合によっては、受診や服薬が必要なこともあります。
しかし中には、原因が特に思い当たらず、これらの身体的な変化もないケースがあります。
SE3年目のYさんは、「何かきっかけがあったわけではないのですが、仕事のやる気が出なくて困っています」と相談に来ました。かなり前から、面倒な会議がある日は朝から気持ちが落ち込み、出社するのがおっくうになっていたといいます。
会議で何が一番おっくうかを尋ねると、「発言しなければならないことです。問題の打開案とか……。何かいい発言や提案をしなければと思うと、重たい気持ちになってしまうんです」という返事でした。さらに話を聞くと、こうありたい自分(理想の自分)とそれができないと思っている自分(現実の自分)との間にギャップが生じ、そのギャップがYさんをつらい気持ちにしていると分かりました。
「いまの自分はNOT GOOD」。こう感じているとき、駄目な自分を見せたくなくて守りに入り、人とのコミュニケーションを閉じてしまうことがよくあります。すると孤独感や疎外感がますます募り、さらに自分が嫌になってしまいます。このような負のスパイラルは防がなければなりません。
そもそも、やる気とはどこから生まれるものなのでしょうか。
カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感(self-efficacy)というものを提唱しました。自己効力感とは、「自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信」(『心理学辞典』有斐閣刊、p.330より)です。分かりやすくいえば、「自分はちゃんとやれる、やれている」感じのことです。
自己効力感は、次の2つの「期待」に区別することができます。
「やろう」とする努力や結果に影響するのは、“効力期待”だといわれています。「うまくできそうにない」と思えばやる気は出ないし、「少し難しそうだけれど、何とかなりそうだ」と思えばやる気が出て、行動に移すことができるというわけです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.