必要な単語を身に付けた後、文脈での単語の使われ方を、以下に述べる「多読」で身に付けることをお勧めします。
文法の基礎とある程度の語彙が身に付けば、多読の入り口に立つことができます。多読とはいろいろな文章を大量に読むことです。
とはいえ、いきなり一般的な洋書や新聞を読んでしまうと、分からない単語が多すぎてすぐに挫折してしまう可能性が高いと思います。そこで最初は以下の順番で読み進めることをお勧めします。
Oxford Bookworms Libraryシリーズ、Penguin Readersシリーズ、IBCオーディオブックスシリーズなど、使用される単語数や文章の難しさに制限が設けられている本が存在します。内容は子ども向けに限りません。英語の文章を速いスピードで読むのに慣れていない人、英語特有のいい回しに慣れていない人、身に付けている単語数がまだ少ない人が、何冊か試し読みするのに向いています。
これらの本にはさまざまなレベル(grade)が設けられ、レベルごとに必要とされる語彙数が異なりますが、単語を2000語程度学べば、どのレベルの本でも対応できると思います。
私の場合、単語制限付きの本を3冊ほど読んでから、次に述べる本当の(単語制限なしの)洋書にチャレンジしました。
多読の際は理解できるギリギリのスピードで読むようにすると、読書速度を上げる良い訓練になると思います。
単語制限付きの本を何冊か読んで、腕試しに単語制限のない洋書にチャレンジしたくなったら、1冊目には『Holes』(Louis Sachar著)という本をお薦めします。この本はネイティブの子ども、おそらく10〜12歳向けの本だと思います。内容が面白く、多少難しいと感じても、読み進めるためのモチベーションになります。
この本には単語制限がないため、多くの知らない単語に出くわすと思います。それでも辞書を引き、意味を理解しながら最後まで読み進めることができれば、本格的な多読の入り口に立ったといえるのではないでしょうか。いい換えると、文章を読むことにおいて、ネイティブの10〜12歳並みに近づいたということになります。
私がこの本を読んだのはTOEICのリーティングが385点のころで、かなり背伸びをした感がありました。休日に電車で出掛けて移動中に読んだり、外食する際に長時間居座って読んだり、レジャー施設の待ち行列で読んだりして、約1カ月かかりました。とにかくいつも持ち歩いて、一気に読み切ることを心掛けました。
一般書に出てくる単語は、とにかく知らない単語が多く、はっきりいってTOEICとは縁もゆかりもない単語が多いです。しかし一般書を多読することによって、大量の文章を読むことに慣れ、英語独特のいい回しに慣れ、何より英語を読むことへの抵抗を減らせると思います。そうなってくると、さらなる多読が苦痛でなくなってきます。
単語制限のない本を1冊読み切ってしまえば、かなりの自信が出てきます。1冊読めれば何冊でも読めると思うからです。「ああ、自分は洋書読みの仲間入りをしたのだ」という感慨がわきます。
ところで、大型書店の洋書コーナーで、TOEICのスコアと本が対応付けられている場合があります。「TOEICでこのスコア以上の人であれば読めます」という意味だと思うのですが、これはあまり参考になりません。例えば『Holes』は600点ですが、600点の人が読もうとするとかなりの忍耐が必要で、読み切ることができない可能性が高いと思います。実際には読むのが困難な本であっても、チャレンジさせるための指標なのでしょう。
入門的なレベルの読書と、本格的な多読との間に立ちふさがる大きな壁は語彙です。現在(2008年12月時点)、TOEICのリーディングセクション450点の私の語彙は、おそらく6000語程度でしょう。
英検1級で求められる語彙は、1万5000語程度だといわれています。一般的な洋書や英字新聞を不自由なく読める語彙は2万語程度、大学卒のネイティブの語彙は4万語程度だそうです。
私自身の語彙は、2万語や4万語とは大変な隔たりがあります。実際に一般の洋書や英字新聞を手に取ると、分からない単語だらけです。やはりネイティブの子どもがするように、辞書を引いたり、(環境に恵まれれば)周りの人に聞いたりしながら、段階を踏んでより難しい本にチャレンジしていくしかないと思っています。
読書の速度を上げるためのトレーニングの方法は、人それぞれだと思います。私の場合は読書そのものではなく、リスニングの、特にシャドーイングの練習をiPodで繰り返すことでした。
ひたすら繰り返すうちに、TOEICレベルのノーマルスピードの教材を使っていたのが、ネイティブスピードの教材で学習するようになりました。さらにシャドーイングの練習を繰り返しているうち、シャドーイングと同じ速さで文章を音読できるようになり、いつの間にか読書速度が向上していたのです。
スコアが700点台だったころ、TOEICのリーディングセクションは、かなり速度を意識して解いても時間ぎりぎりで間に合うかどうかといった感じでした。それが現在は、普通に解いても時間が10分余る程度に速くなりました。
多読は、初めのうちこそ英語力向上のための練習という位置付けですが、しばらくすると英語による情報収集の手段として、日常的に活躍するものになっていきます。
これまで日本語でしか得ることができなかった情報に英語でアクセスできるようになると、特に専門的な分野では大きなメリットが得られます。
ITの世界では、多くの方法論、プログラム言語、ソフトウェア、ハードウェアが海外からの輸入品です。当然それらの情報は、英語の方が早く手に入ります。海外の最新の本や雑誌、ニュースを読んでおけば、まだ日本に入ってきていない最新情報が手に入ることになります。国内の先達として活躍する道が開けるかもしれません。
また、多くの名著と呼ばれる本が英語から日本語に翻訳されていますが、必ずしも翻訳がすぐれているとは限りません。中には英語で読んだ方が分かりやすい本も珍しくありません。
そもそも、人類の知的財産のかなりの部分が英語で蓄えられているのです。それらの多くは日本語に訳される努力がなされているものの、オリジナルに直接アクセスできるメリットは計り知れません。
カーニハン&リッチー、パターソン&ヘネシー、タネンバウム、クヌース、あるいはトム・デマルコ、エリック・ガンマ、マーチン・ファウラー。ITエンジニアなら、彼らが書いた文章を生で読んでみたいと思いませんか?
平生宗之
ITエンジニア8年目。中学3年よりコンピュータを始め、これまでに読んだ関連書籍は200冊以上。コンピュータでできることを模索するうち、紆余(うよ)曲折を経て数学基礎論に行きつく。仕事はインフラ、開発、マネジメントをこなすが、本人的にはプログラマが一番性に合う模様。趣味は旅行(車、電車)と音楽(歌、ピアノ)とスポーツ(スノーボード、サーフィン)。元柔道部主将。
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