次に、ビジネス活動を表現したデータモデルは、どのような局面で利用ができるのかを考えてみます。
—— ERP(Enterprise Process Planning)導入に際して
ERPパッケージ導入の最大のメリットは、短期間でのシステム構築であり「作るより、使う」ことです。多くの企業では、業務要件定義を行い、ERPパッケージ機能とのフィットギャップ分析(@IT 情報マネジメント用語辞典参照)を実施し機能が充足していると判断したのちに導入します。しかし、導入後に必要なデータがない(もしくは取れない)ため、ユーザーテーブルを作成してパッケージ上のテーブルとのブリッジプログラムやデータ投入用の画面作成などが必要となるケースがよく見受けられます。業務要件定義からシステム機能の過不足を判断するだけでなく、データ観点の分析も併せて実施する必要があることを意味します。
自社のデータモデルを作成していれば、ERPパッケージ導入時にデータの観点でのフィットギャップ分析が可能となり、こうした後手後手の作業が発生する問題点を解消できます。
「データモデル×ユーザー機能要件」「ユーザー機能要件×パッケージ機能」、「データモデル×パッケージ・データモデル」という多面的な検証により、ERPパッケージの適合性評価の精度を上げることができるのです。
—— 企業合併や工場統合などのビジネス変化に際して
企業合併や工場統合などのビジネス変化に際して、システムの統合が必要となるケースがあります。この場合、業務フローの見直しとともにデータの統合も必要となることが多いでしょう。
主な問題となるのは、「データ構造の差異」「用語の統一」「コードの統一」です。物理構造レベルでいきなり統合を実施するとアプリケーション変更などのリスクが高いため、論理構造レベルでのフィットギャップ分析が必要となります。
また、各工場の現状の論理モデルを作成するのは当然必要となるのですが、それだけではなく、工場のあるべき姿を踏まえた論理モデルの作成も必要となるでしょう。
合併や工場統合では、各業務の共通化と個別化を明確にする必要があります。その点、データモデルを作成することで、工場としてのあるべき姿をとらえながら、共通で管理すべきデータと個別で管理すべきデータとの選別を明確にすることができます。具体的には次のとおりです。
まず、現状の論理データモデルを工場ごとに複数でフィットギャップ分析を行います。次に、工場ごとではなく統合された現状の論理モデルを作成します。さらには、現状の論理モデルとあるべき姿の新規の論理モデルとのフィットギャップ分析を行い、最終的な統合モデルを完成させます。
ここでは2つの例を取って、データモデルの有用性を考察しました。
結局、データベースモデルの整理技法とは、方法であり、それをどう使うかは、使う人の発想次第ということなのです。
ビジネス変化がダイナミックに行われる昨今において、変化に強いデータベース構築が求められています。データモデルの有用性について述べた内容を見ても分かるように「変化に強いデータベース」とは、ビジネス活動とデータ構造を高いレベルで一致させることにより実現できます。
ビジネスはさまざまに変化をしますが、実はデータモデルでいうエンティティ(企業の管理対象となるデータ)はそれほど大きく変わらないのです(全く異業種・異業態の事業を起こす場合を除く)。
例えば、ビジネスの変化として法人営業中心から個人営業へ転換を図ったとしても、受注、請求、納品といった主要概念に変化はなく、ビジネスルールやデータ粒度(項目レベル)の変化でしかないのです。
分かりやすくするために以下の例で考えてみると、図4のようになります。
(例)
このように最小限のシステム変更で、新たなビジネス変化へ対応するためには、企業で管理すべきデータ対象が何かを明確にして、重複のないデータ構造を作成できる整理技法が求められます。また、その対応の実現には、データを情報として有効活用する発想が必要となってきます。また、変化に強いデータベースを作るには、ユーザー部門とのコミュニケーションも重要であり、データモデルを活用した議論をユーザー部門と行わなければなりません。
次回は、システム開発サイクルとデータベース設計についてお話します。
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