出張の目的である開発現場での作業については、その価値を深く実感できました。開発を行っているメンバーの近くで確認作業を行うと、日本にいるときとは問題解決速度がまったく違います。
開発されたプログラムを環境に適用するだけでも、プログラムのバグ、ソースコードのバージョン管理が原因で起こる問題、私の適用手順が誤っていたため起こる問題など、数々の問題にぶつかります。これも実際の作業プロセスを開発者に見てもらえば、あっという間に解決します。
問題を報告する側は「ソースコードにバグがある」と思い、開発者側は「そんなはずはない。どうせ適用方法や環境に問題があるのだろう」と思うものです。問題指摘というプロセス自体がデリケートで、なかなか一筋縄ではいかないのです。
オフショア開発での問題指摘プロセスでは、現象の詳細、再現環境、再現手順、再現データなどを詳細に記して送る必要があり(本来は国内開発でも同様ですが)、管理に大変な労力と時間がかかります。現地で同じ場所、同じ環境で目の前で操作してみせると、どこに原因があるにせよ現象は一目瞭然(りょうぜん)なので、納得感のあるプロセスで直ちに原因が追究できるのです。言葉の壁がある場合はなおさらです。
開発初期では特に、現地での作業が重要です。オフショア開発は、誤解が生じやすい、日本の常識が通用しないなどの理由で、仕様の合意面でのトラブルが多いものです。インド側のテスト工程の初期で、重要なフローについては現地でテストを行い、こちらの仕様のイメージと違う部分を見つけてつぶしておくことが、全体工数の削減に大きく貢献すると思います。もちろん開発後期でバグがある程度収束した後は、きちんとしたプロセスで1つ1つエビデンスを取って管理していかなければなりません。
これが現地作業の1つの大きな価値であることは間違いないでしょう。「百聞は一見にしかず」なのです。
現地でやりとりをしていて、相手の言葉が聞き取れないことはしょっちゅうあります。私の場合、3回に1回は聞き返していました。会話の最後には、要点や次のアクションをなるべく自分の言葉でいい直して、理解に間違いがないか確認するようにしていました。
ここまでは、当然のことだと思う人も多いでしょう。誤解が生じたままアクションを起こすと、リカバリの手間は、その場で聞き返した場合の何倍にもなってしまうからです。相手もそのことが分かっているので、私が理解することをあきらめない限り、自然な態度で何度でも説明してくれます。
こういう認識を持っていてもなお、聞き返すのが恥ずかしいという気持ちを完全に消し去ることは困難です。何度も何度も聞き返すうちに、「ちょっとでもカッコよく見せたい」「これ以上自分への評価を落としたくない」という気持ちが頭をもたげてきます。この気持ちが、聞き取れていないのにyesと答えさせてしまうのです。
私もインドで2回ほどこれをやってしまいました。結果は軽微なことで済みましたが……。勇気を持って、納得がいくまで確認を取り続けましょう。
インド滞在中、開発チームのリーダーが私の面倒を見てくれました。常に昼ご飯に連れて行ってくれましたし、夜はホテルまで送ってくれることもありました。
昼ご飯の時間などに、私は彼とできる限り話をしました。互いの国の文化の話、経済の話、スポーツの話、職場の話、日常生活の話、交通事情の話などです。私のインドに対する理解、相手の日本に対する理解が深まり、互いの助けになったように思います。
彼らは自分たちのお客に対するもてなしに誇りを持っています。物価からすると考えられないような価格のレストランに連れて行ってくれたこともありました。インド側の責任者は、部下の私に対するもてなしが甘いと認識すると、きつく部下をしかりつけて、仕事を一時的に放ってでももてなすような指示を出していました。
インドに限らず、アジアの国々で生水を飲むと、おなかを壊すことがあるといわれます。病気にかかる可能性があるともいわれます。
私は限られた時間の中で最大限にインドを経験するため、レストランで水を飲み、露店のマンゴージュースを飲み、水道水で歯を磨きました。
結果として、少しだけおなかがゆるくなりましたが、仕事に差し支えるような体調の悪化は経験せずに済みました。
おなかの具合は、帰国後1週間程度で完全に元に戻りました。
日本国内の仕事から長期間離れることができず、インド出張はたったの1週間で完了せざるを得なくなってしまいました。でも、初めての海外経験は、私に多少の自信を与えてくれました。
われわれとはかなり異なる文化を持つ、先進国ではない国で単身仕事をこなし、正しい仕様の伝達、開発の品質向上、インド組織との関係構築など、1週間でできる範囲としては上々の結果を残せたと思います。
英語は何度も聞き返さなくてはいけませんでしたが、異文化コミュニケーションだから当たり前のことと互いに割り切ってしまえば、それほど障害になるものではありませんでした。
俗にいうビジネスレベルの英語の水準に達したと認識できたことが、自信につながりました。ビジネスレベルの英語というのが当初思っていたほどのレベルではなく、完全に英語を使いこなすレベルからは程遠いということも理解することになりました。
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