IT企業に不可欠、「降格ルール」の定め方IT企業のための人事制度導入ノウハウ(6)(2/2 ページ)

» 2009年04月24日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]
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昇格・降格ルールを決める

●1.「卒業要件」と「入学要件」について

 等級制度設計・構築の進め方の最後は「昇格・降格ルール」についてです。

 昇格・降格ルールの設定に際し、まずは「入学要件」「卒業要件」という言葉を覚えてください。ある社員を上位等級に昇格させるか否か判断するに当たって、「A評価を3回連続取ったから昇格させる」など、現在の等級で求められる能力水準を上回っているから昇格させるというのが卒業要件の考え方です。

 一方、入学要件では、上位等級で求められる能力を保有しているか否かを判断します。「部長になるには、部長選抜試験に合格する必要がある」といった条件が入学要件に近い考え方です(なお、イメージしやすいように「部長選抜試験」の例を出しましたが、職能資格制度では「等級=役職」ではないので「部長選抜試験=昇格審査」とは限りません)。

 これら卒業要件と入学要件を適切に組み合わせて昇格・降格ルールを決めていくことが、IT企業において重要なポイントです。

 IT業界では、一定の段階までは専門スキルの幅と深さを広げていくことが必須です。従って、等級ごとに目標とする能力レベル(卒業要件)を設定し、それを満たせば次の等級に上がれる仕組みは、社員育成の観点からも、モチベーションアップの観点からもとても大事なことです。

 しかし、一定の段階に達すると、社員に求められる能力は部下や協力会社をマネジメントする力やクライアントとの折衝力へと切り替わります。専門スキルの重要度は相対的に下がるため、ゼロベースでマネジメント力や折衝力があるか否か(入学要件を満たしているか否か)をしっかり見極めることが求められるようになります。

 従って、昇格ルールを決めるに当たっては、初めに、等級体系の中で、

  • 1等級から5等級までは卒業要件で判定
  • 6等級に昇格するときは卒業要件で候補者を絞ったうえで、入学要件にて判定

というように、卒業要件と入学要件をどのように使い分けるか整理することが必要です。

●2.昇格の基準について

 卒業要件と入学要件は、具体的にどのような方法で判定すればよいのでしょうか。

a.卒業要件の判定

 卒業要件に関しては、毎年(あるいは半期ごと)累積した能力評価の結果を基準とすることが原則です。「3年以内にA評価以上を2回」といった定め方をしても、「A評価5点、B評価3点……とし、3年間の合計点が○点以上」といった定め方をしても構いません。

 あとは、これに「すべての評価項目でA評価以上」「B評価が一度もないこと」といった条件を設定していきます。どのような状態において「卒業レベル」といえるのかを判断し、基準を定めてください。

 なお、あまり厳しすぎる条件を設定すると、何年たっても昇格できない社員が滞留してしまい、組織にマイナスの影響を与える可能性があるので注意が必要です。一方で、誰でも容易に昇格できる基準では、本当に貢献している社員のモチベーションを下げてしまいますので、自社の状況に合わせてバランスを取る必要があります。

b.入学要件の判定

 次に、入学要件に関しては昇格審査を行うのが一般的です。審査の方法としては筆記試験、面接、論文などがありますが、IT企業の場合は、人材アセスメントの実施が適当です。前述したようにIT企業で入学要件の審査が必要になるのは、仕事内容が大きく切り替わる場面です。

 従って、知識面や意欲の確認を行うよりも、当該社員が昇格後にどのような判断を下し、どのような行動を取ることが想定されるのかをチェックすることが重要であり、人材アセスメントでは、それらのチェックを短時間で行うことができます。

 なお、時間的な余裕があれば、昇格候補者に対しては、能力評価の際に昇格後の評価項目(例えば、部下への指導力)でも評価を行い、一定の基準を満たすことを昇格審査の判定基準の1つとして盛り込むことをお勧めします。判定の信頼性が増すことに加え、育成面でも大きな効果を期待することができます。

●3.降格の基準について

 最後に降格ルールの設定を行います。一般的に、等級の降格については例外的な扱いとされ、明確な基準を設けない場合も多いのですが、IT企業においては非常に重要です。理由は2点あります。

 1点目は、スキルの陳腐化の問題です。一般的に、人事制度においては、能力は一度身に付いたら失われないもの(蓄積されるもの)としてとらえられますが、IT業界においては技術の進歩に伴い、必要とされるスキルが次々と変化していきます。

 その結果、「10年前の基準で1等級に昇格した社員の能力レベルは、現在の基準においては3等級程度でしかない」といった状況になることがあります。このような状態は「等級は能力に基づいて決まる」という原則に反しており、早急にギャップを解消していくことが必要です。

 ある程度まで昇格した社員の中には、新しいスキル習得へのモチベーションが生まれない方も出てきます。よって「一度昇格したものの、その等級に求められる基準に達していなければ、降格となることもある」という仕組みを設けておくことは、IT企業において不可欠です。

 2点目は、どれだけ昇格審査を厳密に行っていても、さまざまな事情で能力を発揮できない人材が出てくるという問題です。

 例えば、家庭事情の変化や健康状態によって能力が発揮できなくなるケースもあれば、仕事の中心が技術的な内容から対人的内容(またはマネジメント的内容)に切り替わることにスムーズに適合できないケースもあります。

 このようなケースに「能力が発揮できるまで長い目で見よう」という方針で臨むことも考えられますが、競争の激しいIT業界においては現実的ではありません。人材が競争優位の源泉となるIT企業において、人材が適切にマネジメントされていない状況を長期間放置しておくことは致命的です。

 また、システム開発の現場で不適合者がマネジメントを行っている状態を放置することは火を噴く火種を自ら仕込んでいるようなものです。会社の競争力を引き上げるためにも、会社にダメージを与えるリスクを回避するためにも、能力を発揮できない人材を降格させる基準を設けておくことはIT企業において不可欠です(それによって、有望な若手を早期に抜てきすることも可能になります)。

 上記の理由により、IT企業では、降格についてもしっかりルール化したうえで、等級制度の基本的な仕組みとして機能させることが必要です。そして、降格は、決して懲戒的な意味合いを持つものではなく、求める能力と保有能力にギャップが生じていることに対する調整であることを社員に対して明確にすることが大事です。

 その観点から、降格基準は、「最低評価を2回以上」といった内容ではなく、数年に一度資格審査を行い、基準を満たさなかった場合は降格するという仕組み(基準を満たせば翌年昇格することが可能)にすることが適当でしょう。


 簡単ではありますが、以上が等級制度の設計・構築の進め方となります。次回は、評価制度の設計・構築の1回目です。等級制度と同様、前半と後半に分けて解説します。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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