芽衣子さんこれで終わるのかと思ったのですが、そう思いどおりにいくはずもなく正男さんはおもむろに芽衣子さんのメーラーを開いて、設定の欄を表示し始めました。
正男 「次にクライアントがどのように利用してすればいいのか、使っているメーラーを開けて、設定をのぞき見してみましょう」
芽衣子 「さすがにこれだけじゃ終わらないのね。しょうがないわ。で、クライアントってなんだっけ?」
正男 「利用する側の方のことですね。覚えておいてくださいよ」
いったことをなかなか覚えてくれない芽衣子さんにちょっとイラっとしながらも、正男さんは説明を続けます。
正男 「ここに送信メールと受信メールの設定があるのが分かりますね」
芽衣子 「あるけど……。こんな細かいとこ見るわけもないわ」
正男 「まあ、普通の人は見ないかもしれませんが……」
成沢 「これからはマシンがこのフロアに入ってくるたびにお前がこの設定をすることになるんだけどな」
成沢さんのツッコミに芽衣子さんは現実を思い出してしまいます。
芽衣子 「ええーーっ、やだー、私できませんー」
正男 「はいはい、では、この設定について見ていきますか」
ちょっと何もできない女の子のふりをしてみましたが、軽く無視されます。
正男 「この『受信メールサーバ』のところに設定するのが、メール受信のためのPOP3サーバのホスト名です」
成沢 「うちの会社はPOP3を使ってるのでPOP3サーバのホスト名になるぞ。POP3かIMAP4かは好みで、といいたいところだが、使える方に設定することになるな」
正男 「このPOP3サーバに命令を送るとメールが送信されていきます」
芽衣子 「POP3とIMAP4の違いって何?」
正男 「ややこしいでしょうから後で説明します」
芽衣子 「そうね。先に進めて」
ややこしいことは嫌いな芽衣子さんです。
正男 「POP3を使うにはそれぞれのユーザー名とパスワードが必要になっています」
芽衣子 「そんなのあるの?」
正男 「最初に紙とか渡されませんでした?」
芽衣子 「最初に誰かに設定されたままだから、まったく分からないわ」
正男 「いままでパスワードとかまったく考えたこともなかったのですか?」
芽衣子 「そんなことに興味があると思う? でも、確かにパスワードがないとほかの人にメールを見られまくりよね。それは困るわ」
パスワードには一応納得した模様です。
正男 「そして、『送信メールサーバ』のところに設定するのは、SMTPサーバのホスト名になります」
成沢 「メールを出すにはSMTPサーバを使うと覚えておけばいいな」
正男 「このSMTPサーバに命令を送るとメールが送信されていきます」
芽衣子 「意外と単純ね。でも、こっちはパスワードはないの?」
正男 「ええ、ありませんよ」
芽衣子 「じゃあ、送信は勝手にできちゃうってこと?」
正男 「まあ、そうなっちゃいますね」
芽衣子さんは納得できませんが、そうなってるんだから仕方ありません。
成沢 「ほかの人のメールアドレス名乗って出すのも簡単だぞ」
正男 「まあFrom変えるだけですからね」
芽衣子 「そんなのイヤだ……」
2人が芽衣子さんの心配に追い打ちを掛けていきます。
正男 「あと、Webと同じくメールの本文もパスワードもテキストがネットワークを流れていきます」
成沢 「暗号化は全くされてないから、不倫メールとか出してると管理者に見られてるぞ」
芽衣子 「ええっ! インターネットって怖い><婚活もできないじゃないですか」
成沢 「会社のメールアドレス使って出会い系とか登録してんじゃねえぞ。会社のドメイン出ると恥ずかしいからな」
正男 「家で存分にやってください」
知れば知るほど怖いインターネットに芽衣子さんは驚きを隠せません。
芽衣子 「でもでも、それって危険じゃないの?」
正男 「インターネットが大らかだったころの名残なんですよね」
成沢 「認証とか暗号化とかするとマシンにもネットワークにも負荷が掛かってたからな」
正男 「いまならいろいろ暗号化や認証の仕組みがありますので、心配ならそれを使った方がいいと思いますよ」
正男 「ちなみにこのメーラーだと『このサーバは認証が必要』にチェックを入れると、メールを送信するのにもパスワードを使えます」
成沢 「メールサーバが対応していないとダメだけどな」
正男 「ちなみにこれにはわが社は対応してません」
芽衣子 「ダメじゃないですか><」
正男 「以前お話ししたように、SMTPもPOP3もサーバですので、ポート番号を利用します」
芽衣子 「ホームページは80番地ってやつね」
正男 「ちょっと違いますが……。SMTPのポート番号は25、POP3は110、IMAP4は143を使用します」
芽衣子 「生意気にも全部違うのね」
正男 「違う種類のサーバですからね」
正男さんは説明を続けます。
正男 「うちの会社みたいに送信と受信のサーバは別々のサーバを使っていることが多いのですが、違うポートを使いますのでもちろん同じサーバマシンで動かしても構いません。もちろん同じマシンでWebサーバだって動いてても構いませんよ」
芽衣子 「同じマンションの別の部屋ってことね。思い出してきたわ」
1度聞いただけではなかなか覚えられませんが、いわれると思い出すことも多いようです。
正男 「あと、最近はWebからメールを使うことも多いと思いますが、これらも実は裏で動いている仕組みは変わらないです」
成沢 「変わってるとメール送信できないから当たり前だけどな」
正男 「Webのプログラムからメールサーバにアクセスするのです」
芽衣子 「Webとメールとか、ややこしいからそれくらいにしてくれない」
SMTPとPOP3だけでもいっぱいいっぱいなのにもう1つ追加されると余計に混乱してきます。
成沢 「でも早めに全部教えないといけないからな、ゴホッ、ゴホッ」
正男 「あっ……、成沢さんちょっと調子悪いみたいです。……休みに旅行に行ってたから調子悪いのかもしれません。今日はこれくらいにしておきますね。最近風邪がはやってるみたいなので注意してください。それでは」
慌ててマスクをして立ち去る2人でした。
今回のおさらい
「送信用がSMTP、受信にはPOP3とIMAP4があるな」
SMTPはSimple Mail Transfer Protocol、POP3はPost Office Protocol version3、IMAP4はInternet Message Access Protocol version4のそれぞれ略称です。
「でも、あんたたち『歪みねぇな』、とか分かんないでしょ?」
『歪(ゆが)みねぇな』とはニコニコ動画で流行のほめ言葉で、ガチムチの人がしゃべっていたせりふです。
「ややこしいでしょうから後で説明します」
次回以降に説明しますよ。
「そんなのあるの?」
普段パスワードを保存する設定にしている人は気付かないかもしれませんが、パスワードはあるのです。
「じゃあ、送信は勝手にできちゃうってこと」
SMTP AUTH、POP before SMTP、Outbound Port25 Blockingなど最近では勝手に送信できないようにする仕組みがいくつかあります。
「いまならいろいろ暗号化や認証の仕組みがありますので、心配ならそれを使った方がいいと思いますよ」
現在メールの送信や受信にはさまざまなセキュリティの仕組みがありますが、次回以降の紹介になります。
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