そのWebサービスで“対価”をもらえますか?安藤幸央のランダウン(46)

「Java News.jp(Javaに関する最新ニュース)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします(編集部)

» 2009年05月28日 10時00分 公開

インターネットは無料が当たり前?

 インターネットを利用するための料金は、十数年前と比べると大変安価になりました。無線LANのホットスポットなど、限りなく「無料」に近い形で利用できる場合も多くなってきています。

 そして日々、皆さんが1人の利用者として使うWebサービスには、どんなものがあるでしょうか? ほとんどのサービスは無料、もしくは広告が入ることによって無料で使えるものが多いでしょう。その一方、企業向けの比較的高価なWebサービスを専門的に利用している人もいるでしょう。

 またWebサービスを提供する側としては、「無料で提供されるのが当たり前のようになっているWebサービスを、いかにユーザーに嫌われないように“対価”をいただいて収益化するか」という課題に頭を悩ましているところでしょう。最近も以下のような事例がありました。

 「タダより高いものはない」という言葉があるように、Webサービスが無料で使えることには、どのような利点や欠点があるのでしょうか?

 本稿では、Webサービスの提供者側から考える無料であることの意味、有料であることの意味を考えてみましょう。そして、サービスのあり方や、またその際に気を付ける項目などを紹介します。

Webサービスの提供を安易に無料で始めるな?

 Ruby on Railsの作者として著名なDavid Heinemeier Hansson氏の所属する37 signalsでも無料アプリケーションの提供に関しての提言がなされています。

 そこでは、サービスの提供を安易に無料で始めないこと、そして小規模でもよいので、有料で使っていただけるお客さまに対して有益なサービスを提供し続けることがうたわれています。

 サービスを無料で提供する、または有料で提供することに対して、さまざまな戦略と考えがあります。ここではいくつかの観点とポイントを紹介します。

戦略あれこれ
  • まずはデモ(ゲスト)アカウントで試用できるようにするとよい
  • 実際に利用できなくても、短い動画(ビデオ)で使い方が簡単に把握できるとよい
  • 有料版の体験チケットを配布して、試用を促す
  • 市場に同様のサービスやツールが存在する場合、まずはユーザーを増やすために無料で提供する戦略もある
  • 雰囲気を知ってもらうために同系列ではあるが、まったく別の有益な無料サービスを提供する。ブランドイメージの向上に務める
  • どれだけのユーザーに使ってもらうのか? ある人数に有料で使ってもらい運用するのか? バランスを考える
  • ユーザーは、良いものを使い続けるにはお金を払いたがることを忘れない
  • 無料版でも友人を招待することによって容量が増えたり、価値が上がるようにする
  • サービスそのものは無料で提供し、マニュアルやサポートを有料にする

有料版と無料版との違いを設ける場合には?
  • 容量の違い(ブログサービスであれば、無料3Gbytes/有料100Gbytesなど)
  • サービスの快適さ(スピード)の違い
  • 広告が入っている、入っていないの違い
  • 機能制限、または逆に拡張機能を持つなど、使える機能の違い
  • 起動するまでに待ち時間がある。起動前に宣伝広告を見なければいけないなど
  • 時間帯によって、利用制限を設ける。利用者が混む時間は無料版は使えないなど
  • ある一定の試用期間を過ぎると、使えなくなる(大抵、2週間から1カ月程度)
  • 製作したデータ(画像など)にウォーターマークが入る。ロゴマークなどが入る
  • 数の制限(ゲームの場合、ステージ数に制限がある。ビジネスアプリケーションの場合、扱えるファイル数に制限があるなど)
  • ネットワークを活用するサービスの場合、無料版の場合は1人でしか使えないなど
  • 利用時間制限。30分から数時間の制限で、あくまでも試用としてしか使えない
  • ファイルが保存できない。ただしこの方法は制限がきつく、あまり受け入れられやすい方法ではない
  • サポートがある、なし
  • オンライン版は無料、パッケージ版は有料
  • ビジネス利用は有料、個人使用(非営利)は無料
  • 無料版でもまったく制限を設けずに始め、告知していたある時期からすべて有料のサービスにする方法

無料版で開始し、有料版へ以降する際の注意事項
  • 無料版で試しに使ったデータをそのまま移行できるように
  • 無料版から、有料版購入へのWebページやショップにたどり着けるように
  • 購入したライセンスキーの入力だけで無料版がそのまま有料版として使えるように
  • 無料版の試用のみでサービスを使うのをやめる場合、全データを消去できるように
  • 無料版と有料版で機能に差分がある場合、そのことが明確に分かるように

無料ならサービスをいつ止めてしまってもいい?

 無料といえども、サービスの継続性(サスティナビリティ)を考えるのが重要です。また、ユーザーもいつなくなるか分からないサービスよりも、永続的に続くであろうサービスを使いたがります。一方、「無料でサービスを提供しているのだから、いつ止めてもいいだろう」という考え方もあります。

 ただし、急にサービスがなくなる事例が繰り返されれば、利用者は、ある会社のほかのサービスさえも利用し始めることが心配になることでしょう。永久に続くサービスはないのかもしれませんが、利用者に安心感を与えるのも大きな使命です。

 さまざまなWebサービスにとって「使える」ことだけではなく、大切な事柄がいくつもあります。サービスのデータそのものや、検索エンジンで見付け出すことのできるリンクのつながりや読者、コミュニティなど、すべてがサービスの資産であることを十分考慮しましょう。

Windows 7 RC版の自動シャットダウン

 利用者にとってつらい事例の1つとして例えば、Windows 7 RC版の自動シャットダウン機能が話題になりました。

 これは、Windows 7 RC版を利用している場合、2010年3月1日以降、2時間おきに自動シャットダウンするという仕組みです。もちろん、これは正式版の移行を勧めるための仕組みではありますが、自動シャットダウンのことを知らない、または気が付かない利用者にとってはつらい出来事かもしれません。

「緊急ライセンス」とは

 継続性(サスティナビリティ)の話題と関連して、ライセンスキーが必要なアプリケーションの中には、「エマージェンシー(緊急)ライセンス」を発行してくれるサービスもあります。

 例えば、アプリケーションを購入して使っているマシンが急に壊れてしまったが、納期が近いため、どうしてもほかのPCで使い続けたいときや、間違って登録ライセンスを消してしまったが、正式ライセンスが再発行されるまでの間、短期間でもいいので使い続けたい場合に便利な仕組みです。

サービスを停止するときは“美しい幕引き”を

 最近では、動画共有サイト「eyeVio」の運営会社が変更されたり、動画共有サイト「Ask Video」や、前述で挙げたようにアバターSNSサービスの「Cafesta」などがサービスを停止するアナウンスをしたりしています。同様のサービスが乱立する中での競争は激しく、未来永劫に続くサービスはないと思います。それであっても、“美しい幕引き”もサービスとしては重要な要素なのかもしれません。

  • 譲渡や買収を含め、サービスの継続を考える
  • 他社を含め、同様のサービスへの移行の仕組みを用意する(移行先は1カ所ではなく、複数の選択肢を用意する)
  • サービス提供の母体が代わってもURLは変わらない
  • サービス停止の告知から、実際の停止までに余裕があること
  • サービスの母体となるプログラムをオープンソースライセンスで公開

“対価”をもらえるWebサービスを提供できますか?

 経済の仕組みを考えると、無料でサービスが提供されている場合は、お金ではない、ほかの何らかの“価値”や“情報”が生み出されているはずです。安易に「無料」を売りにしている、うさんくさいサービスではなく、価値を持った無料サービスであること、または「有料」でありながらも、その支払いの分の価値を十分に持ったサービスであれば、利用者は喜んで“対価”を支払うはずです。

 この記事を読んだ読者の方々の中には、小規模なものから大規模なものまで、実際に無料、または有料でWebサービスを提供されている方もいらっしゃることでしょう。現場の声として、成功例や、うまくいかない事例など、お知らせいただければ、ありがたく思います。

 次回は2009年7月初めごろに公開の予定です。内容は未定ですが、読者の皆さんの興味を引き、役立つ記事にする予定です。何か取り上げてほしい内容などリクエストがありましたら、編集部@ITの掲示板までお知らせください。次回もどうぞよろしく。

プロフィール

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

ホームページ
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所属団体
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)

主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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