第123回 どうなるコンピュータの「飛び出す」3D化頭脳放談

テレビの3D化が急速に進んでいる。PCの3D化も時間の問題か? そのとき、GUIの3D化がどうなるのか気になるところ。3D化で何が起きる?

» 2010年08月23日 05時00分 公開
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 テレビの3D化が進んでいる。といっても自分では買うお金もなく自宅は2Dのままなのだが……。液晶テレビも一巡して、LEDバックライトとか3Dとか新味を出さねば需要を喚起できない、ということなのだろう。少し前まで3Dテレビなどというと、いっては悪いがキワモノのイメージがあったのだが、3D映画のヒットのおかげもあってか、すっかり一般化、定着化してしまったようだ。

コンピュータも飛び出す3D化の時代へ

 3D化の急速な進展で少し不気味に思っていることがある。フラットパネルの3D化が進めば、コンピュータなどのGUIも遅かれ早かれ「飛び出す」3D化して新たな時代に入るのではないか、ということである。「飛び出す」とわざわざ注釈を書いたのは、いままでコンピュータ業界で普通に「3D」といえば、2Dの画面に3Dモデルから生成した「3次元物体の投影像」を貼り付けるやり方を指していたからだ。

 コンピュータでいう普通の3Dグラフィクスは、正確にいえば3Dモデルから平面への射影であって「飛び出して」見えるわけではない。これが、複数視点からの画像を人の左右の目に別々に送り込めるフラットパネルの普及によって、必然的に「飛び出し」に対応することになると思う。技術的には複数視点からの画像を生成するだけなので、いままでのいわゆる「3Dグラフィックス」の延長で同時に最低2画面作るだけで済む。パネルはテレビ用に大量生産され、普及してしまえばそれまでである。GUIの「飛び出す」3D化を阻む技術的な障壁は何もないのだ。

 それにしても「飛び出して見える3D」をサポートする場合には、ただ「3D」でなく、いままでとはネーミングを変えないと混乱するのではないかと思う。蛇足だが、本当に3D空間に3D画像を生成する技術も開発途上にあるから、それが一般化したあかつきには、「平面上に3次元の投影」「平面上に、複数視点に対応した複数の3次元の投影を持ち、立体視できるもの」「3次元空間に3次元を投影したもの」の3カテゴリが並立することになりそうだ。それを混乱せずに指し示す用語が必要になるに違いない。

 で、今回考えてみたいのは、2番目のカテゴリだ。同一平面上に複数の視点に対応した複数の画像を生成し、それぞれを人間の左右の目に別々に送り込むことで「飛び出して見える」3Dのカテゴリである。そしてその機能をGUIとして使うことだ。

3D化した際のGUIの変化

 とはいえ、「飛び出す」効果ばかりを強調しすぎるのもあまりよくないように考えている。普通の日常生活では、「飛び出す」ようなものをあまり見ないからだ。普通の生活シーンでは、それぞれのシーンで手元か、遠いかの差はあるが、ある一定の距離前後の似たような距離感の物体を相手にしていることが多いので、急に突き出して飛んでくるようなものを見るとビックリして疲れてしまうだろう。

 普段、左右の目の立体視というのは、物をつかんだり、避けたりするための重要な情報を与えてくれているのだから、ユーザー・インターフェイスとして上手く使えば非常に効果的なことは明らかである。視力のよい人には分からないかもしれないが、小さなマウス・カーソルなどをときどき見失うことがある筆者には、マウス・カーソルが「ほんのわずかに」浮き上がって見えるだけでも視認性は格段に向上しそうだ。まぁ、このところのタッチパネルを使ったインターフェイスの急速な普及からは、「指を使うからマウス・カーソルなど不要」という意見もありそうだが。

 いまのところ、いろいろな試みがあるようだが、現在のGUIを更新してしまうような決定打は現れていないように思える。また、3Dパネルはテレビなどの家電品から先に普及しているので、コンピュータ世界のGUIより、家電品や携帯電話のGUIとして登場するものの方がコンピュータより「進んでいる」という可能性も高い。どうせ境はないのだし気にすることもないのだろうか。

3D化で印刷物による説明書が困る?

 それにしても1つ思うのは、ユーザー・インターフェイスの「使用説明」の方法である。昔、キャラクタ・ユーザー・インターフェイス(CUI)のころは、文章で使い方を説明するのが必要だったし、また可能だった。家電などもせいぜい「このボタンを押したらこうなる」というころは、説明書で十分だった。ところが、GUIになってから、文章では説明しにくくなった。GUIを文章で説明すると、とても冗長な文章になる上に、読んでいるうちに何だか分からなくなってしまう。それでGUIを説明しなければならない入門者用の文書では、さわりの部分に画面のコピー画像を多数貼り付けるようになった。画像を見れば分かる、ということである。

 ところが「飛び出す」ようになると、このコピー画像での説明も怪しくなってくる。印刷物ではなかなか奥行きや、立体の回転などが表しにくいからだ。印刷物での説明はほぼお手上げに近くなるのではないか。インターネット上で動きのある3D画像で説明するくらいしかよい手段がないのではないだろう。まぁ、実際には「使ってみる」のが一番の使用説明、ということで説明を聞かなくても使える、というのかもしれないが、いつでも説明は求められるものなのである。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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