金教授 韓国企業と日本企業における特徴の違いは、バンクーバー五輪のキム・ヨナ選手、浅田真央選手のフィギュアスケートに例えることができます。
トリプルアクセルを「モノ作り」に例えて考えてみましょう。キム選手は「トリプルアクセルは飛べない」と早いうちに断念し、さっさと「モノ作り」をあきらめました。そしてカナダに移住し、オリンピックの審査委員の好みや審査癖を徹底研究するなど、見せ方と売り方、すなわち「マーケティング」にこだわったのです。
一方、浅田選手は、最後までトリプルアクセル=「モノ作り」にこだわったといえるのではないでしょうか。ここで比較して紹介しましたが、韓国企業の強みと日本企業の強みについては、優劣や勝敗がつけられるものだとは考えていません。大切なのは、時代や市場のニーズなどにどう対応していくかです。
韓国企業 | 日本企業 | |
---|---|---|
経営者 | オーナー型 ※トップダウンによるスピード経営とリスクテイキング |
サラリーマン型 ※優れたバランス感覚とリスク回避力 |
経営スタイル | マーケティング志向 | モノ作り志向 |
技術開発 | 技術マネジメント (購入技術と自社開発の組み合わせ) |
技術イノベーション (技術改善) |
海外戦略 | 現地化(韓国モデルの修正) | 日本化(日本モデルの輸出) |
人事戦略 | ・エリート人材育成や徹底した成果主義(高額報酬と解雇)のため、業績達成に対する責任感が強い ・50代前半で実質的に定年なので、人件費におけるコスト競争力が高い |
・熟練人材を育成するため、組織能力が高い ・経営責任が組織的に追及されるため、チームワーク力が高い ・定年が引き上げ傾向にあるため、愛社精神が強い |
韓国企業と日本企業の特徴・強み(金教授が作成した表を使用) |
小平 韓国企業と日本企業の特徴・強みを、分かりやすくご紹介いただきありがとうございます。グローバル化する世界の中で、ニッポン人エンジニアはこれからどのようなスタンスで挑んでいくべきだとお考えですか。
金教授 いま「グローバル」というキーワードが出ましたが、ここで整理しておきましょう。まず、「世界」の大半は「地域」です。「グローバル」というどこか別の場所があるわけではなく、それぞれのローカル=地域にいることの延長がグローバル、ということだと思います。地域を知らない人は、グローバルなど分かるはずがないとわたしは思っています。ですから、まずは「世界は地域である」ことをきちんと踏まえたうえで、世界を捉えるべきでしょう。
ITエンジニアとして働いている人々に、忘れないでほしいことがあります。それは、利益の源泉はITシステムの中にあるのではなく、「ITの外側」にあるということです。かつては、ITスキルを身に付けてシステムを構築し、IT分野の問題を解決していればよかったかもしれません。
しかし、これからは世界的な問題、地域の問題、社会・経済の問題などをITという技術を使って解決するという「問題解決力」が求められると思います。そのためには、業界や会社の中にすっぽりとはまってしまうのではなく、「国内/海外」「A業界/B業界」「C企業/D企業」「IT人材/非IT人材」などの“境界線”に立つ志向と行動が大切になるでしょう。
韓国企業や新興国企業と付き合う際、日本人に求められるものは「フラットな視点」ではないでしょうか。上から目線でもなく、へりくだるのでもなく、フラットな視点を持つ。なかなか難しいですが、これからますます必要になるでしょう。過去の先入観にとらわれない世界観や時代認識を持っていくことが、大切だと思います。
10年前(2001年)は、11月のゴールドマン・サックスのBRICsレポート、9月のアメリカでのテロ、12月の中国WTO加盟と、現在の世界情勢全般に関わる大きな“転換点”の年であったと、2011年初の対談を通じて振り返ることができました。
この10年で、ITやグローバルビジネスは幅広く展開してきました。変化はこれからますます大きくなるでしょう。過去を振り返りながらも「次の10年」における市場環境や自らの強みを見据えることが、企業と個人どちらにとっても必要だ、とあらためて思いました。
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。
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