災害後に知っておきたいメンタルケアまとめ体と心にかかる負担を軽減するために

» 2011年03月14日 00時00分 公開

 今回の東北地方太平洋沖地震で被災された方に、心よりお見舞いを申し上げます。エンジニアの皆さんにおいては、復旧作業やサービスの安定稼働に向けて、尽力されている方が多くいらっしゃることと思います。

 このような非常事態において、私たちのメンタル面にはさまざまな変化が生じます。本記事では、臨床心理士による専門的アドバイスを基に、自然災害によって起こるメンタル面の変化と、その対処方法をまとめました。参考にしていただければ幸いです。

災害は、メンタル面へさまざまな負担をかける

 私たち人間の力をはるかに超えた災害――被災に合った直後はもちろんのこと、被災してからしばらく経った後、また被災者たちへの支援や応援を行う人たちにも、さまざまな負担が生じます。

(1)心的外傷後体験

 1995年の阪神・淡路大震災のとき、広く世に知られたのが、心的外傷後障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)です。生命の危機に遭遇した後には、下記のような反応が起こります。

  • 身体的な反応(ふるえ、めまい、敏感・硬直反応など)
  • 心理的反応(パニック、無反応など)

 これらの症状は、重大な危機に直面した人に起こる当然の反応です。「気力の問題だ」「自分が弱いせいだ」などと、精神論で無理やり抑え込むことは避けてください。このような症状が見られたら、1人で抱え込まずに専門家によるサポートを受けることが大切です。

(2)喪失への体験

 災害は、私たちの大切なもの、そしてときにかけがえのない人さえも奪っていきます。言葉にしがたい喪失の体験です。

 喪失には、「衝撃」→「否認」→「怒り」→「抑うつ」→「受容」というプロセスがあるとされています。知識として、このプロセスを知っておくことは1つの対処になるでしょう。しかし、実際の災害においては、「衝撃」が重なる場合や自責の感情が強くなる場合もあるため、「必ず上記の順序に従って変化する」というわけでは決してないことも、ポイントとして押さえておいてください。

(3)日常生活の停滞や混乱

 災害は、周囲の環境に大きな変化を引き起こします。水道や電気などのライフラインは無論こと、いつもあるはずの場所にあるべきものがなくなる――これが震災です。日常生活の停滞や混乱が大きな心的負担となって、物事にこだわったり(不要と思われるものを手放さない、着替えを拒むなど)、実際に起こりえないことを心配したりする場合があります。

(4)2次災害

 2次災害とは、復旧作業チームや危機対応チームのスタッフといった援助者の動揺や、心身の疲弊のことです。日常とは異なる役割を担い、緊迫した状態で業務を遂行するため、本人が自覚する以上のストレスを受けていることが少なくありません。これらの2次災害を避けるためには、下記のことに留意してください。

  • 意識的に自分の状態をチェックする
  • チーム体制をしっかり組み、自らの意思を持って心身の休息を取る

震災で感情が揺さぶられ、不安に感じることは当然のこと

 どうしようもなく不安になったり、感情をうまくコントロールできなかったり……「自分は一体どうしてしまったのだろう?」と、驚かれることがあるかもしれません。しかし、大きな災害を経験した後に感情が揺さぶられたり、テレビなどで災害の映像を見て不安やショックを覚えるのは、ごく自然で正常なことです。

 さまざまなストレス反応が現れるのは、災害が発生した直後ばかりではありません。数時間後、あるいは数日後〜数カ月後に症状が現れる場合もあります。

 家族や仲間など信頼する人からのサポートがあれば、ストレス反応はより早く消失します。しかし、心の痛みが強すぎて、カウンセラーなどの専門家の援助が必要となってくる場合もあるでしょう。

 専門家の援助が必要ということは、決して「その人が弱い」ということではありません。それは、「人間が1人で解決するにはあまりにも厳しい出来事だった」ということを意味しているだけなのです。

 以下、「心の変化」「体の変化」への対処法をまとめました。できることから実践し、周囲の人々にもアドバイスしてあげてください。

心の変化への対処法

  1. 心が不安定になるような刺激(衝撃的な映像など)を避け、気持ちが落ち着く環境作りを心掛ける
  2. 感情を抑えつけずに認めていく。「ああ、私は怒りを覚える!」「いまはとても悲しい!」
  3. 1人で抱えず、信頼できる人や共通の思いを持っている人に思いを話す
  4. 専門家に相談して、遠慮せずに適切なケアを受ける

体の変化への対処法

  1. ゆっくり休息を取り、栄養補給をする
  2. 深呼吸して(4秒かけて息を吸い、6秒かけて息を吐く)、体の中に空気を取り入れて血流を良くする。息を吐くときは“嫌なものが体内から出ていく”イメージ、息を吸うときは“新鮮な空気が心身を浄化してくれる”イメージを持つと効果的
  3. 症状が日常生活に支障をきたす場合は、遠慮せずに医療の診察を受ける

 ライフラインなどの環境が整ったら、次は自分自身をいたわる時期です。できるだけ、自分に優しくしてあげてください。

トラウマ(心的外傷)となるような出来事が起きた後の注意点

 精神的にショックな出来事を体験したときは、行動にさまざまな変化が起こります。以下は、「ストレス反応が長引かないようにするポイント」です。

  • 親しい人から距離を置かない
  • 自分を応援してくれる人に、できる範囲で出来事について話す
  • 家族や友人と過ごす時間を取る
  • 余暇の時間を取る
  • 穏やかで心落ち着く場を確保する
  • 一度に1つのことだけをする
  • 無理に「大丈夫なふり」をしない
  • 普段から慣れた仕事をする
  • 極力、大きな変化は起こさない
  • 気になる症状がある場合は、遠慮せずに専門家に相談する

 長期化する災害の余波に備え、くれぐれも無理や無茶はしないように心掛けてください。しっかり休みを取り、しっかりやるべきことをする。それが、この困難を乗り越える基礎体力となるのです。

参考資料:

  • WSD Personnel Employee Assistance Program “Tips for managers”
  • Magellan Health Services “CISM Handouts”

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