次に、TRILLでデータセンター間を二重化して構成する場合を考えてみよう。
TRILLの場合もSPBと同様、データプレーンとコントロールプレーンは分離されており、MACアドレスがあふれる心配はない。
ただしTRILLでは、データプレーンのフレームは独自のTRILLヘッダが挿入され、イーサネットフレームタイプも独自のものが割り当てられる。このイーサネットフレームタイプがくせ者で、キャリアのサービスによっては、これを見て網を通過させるかどうかを判断している。つまり、イーサネットフレームタイプを書き換える機能がないと、安心してWANを越えられない可能性があり、万全を期すならばダークファイバーを用意する必要があるだろう。
コントロールプレーンは、TRILLの場合も、IS-ISを利用してショーテストパスを構成していく。ただし、すべてのスイッチノードからツリーを構成するのではなく、スパンニングツリーと同様に、ある1つのノードを「Root Rbridge」と呼ばれるRootとして定め、構成していく。つまり基本的に、網全体でツリーは1つとなる(複数にすることも可能)。
Known Unicastの扱いはSPBと違い、ツリーに従ってパスを構成し、転送されるわけではない。ルーティングのように、ノードごとにホップバイホップで、各ノードで求めるショーテストパスに従って転送される。
さらにいうとTRILLヘッダは、ルーティングの際のL2ヘッダと同様に、ホップごとに交換される。したがって、ネットワーク全体で決定済みの対称的なパスを選択するSPBと違い、ループ検知の仕組みを入れる必要があり、TRILLヘッダにはTTLのフィールドが備えられている。しかしホップバイホップでパスを求めているため、SPBと異なり、マルチパスの自由度は格段に上がっている。ちなみにSPBではマルチパスは16までである。
Unknown Unicastは、TRILLでは先ほどのRoot RBridgeからのツリーに従って転送される。つまり、Known UnicastとUnknown Unicastでは、同じノードを行き先とした場合でも、経路が違ってくるのである。
また、Unknown Unicastを減らすために、ESADIという仕組みを取り入れて、ノードのMACアドレスの学習情報を交換している。これらは、既存のイーサネットには必要なかった動作や仕組みである。
このように、SPBやTRILLをエンドツーエンドで利用できる場面であれば、マルチパスで冗長性を持ったブリッジネットワークが、WANを越えていけることが理解いただけたと思う。
マルチパス対応 | キャリア網を利用可能か | 網内でのMACアドレス数 | |
---|---|---|---|
STP | なし | STPを透過をしない場合もあり | 多 |
MST | なし | STPを透過をしない場合もあり | 多 |
LAG | あり | ブラックホールに注意 | 多 |
きょう体またぎのLAG | あり | ブラックホールに注意 | 多 |
VPLS | あり | MPLS TAGが網を透過するか確認が必要 MTUに注意 |
少ない |
TRILL | あり | TRILL Header が網を透過するか確認が必要 MTUに注意 |
少ない |
SPB | あり | MTUに注意 | 少ない |
表1データセンターを接続する各技術の比較 |
しかし現実には、マルチパスのネットワークと、既存のSTPを利用したネットワークとを接続していくことが必要になる場面が多いと思われる。その際に注意しなければならないのが、マルチパスの利点を生かしたまま、既存のネットワークと接続可能かどうかという点だ。結局、既存のSTPを利用したデータセンターネットワークとマルチパス対応したネットワークの接続点に、きょう体をまたいでのリンクアグリゲーションが動作する機器を設置することも重要になってくる。
SPBは、仮想化に対応したイーサネット技術として登場してきたはずなのだが、レイヤ2マルチパスを容易に実現できることから、データセンターの分散化、つまり「データセンターインターコネクト」にも適用できる技術であることが理解いただけたと思う。
しかしそもそも、現在のデータセンターの分散化を支えているのは仮想化技術である。サーバ仮想化が容易に実現可能になったおかげで、容易にデータセンターを分散化できるようになったわけだ。つまり、仮想化に対応したデータセンターインターコネクトを容易に実現できるという点でも、SPBは仮想化やクラウドにとって非常に重要な技術なのである。
次回は、データセンターを結ぶ、冗長性のあるレイヤ2ネットワークを構築した時のVLANのプロビジョニングや仮想サーバとの連携を踏まえ、SPBとTRILLの運用を比較検討してみたい。
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