さて、そんなお先真っ暗の状況の中で、前出の 曺氏の幸先のよい話を聞く限り、商売にならないAndroidのアプリビジネスの世界に一石を投じてくれそうなのが、auスマートパスというわけだ。
実際、KDDIは、このスマートフォン向けコンテンツビジネス(auスマートパスの他にクラウドなども提供)に並々ならぬ力を入れている。2月には運用総額50億円の「KDDI Open Innovation Fund」を発表し、
「本ファンドを通じて国内外の有望なベンチャー企業への投資を行うとともに、協業によるサービス開発支援やクラウドなどのプラットフォーム提供、プロモーション協力によって、良質なアプリケーションやサービスの開発を促進し、ベンチャー企業の発展を支援していきます」
などと、頼もしいことをいっている。
また、あるアプリ開発企業の幹部によると、KDDIからは「auスマートパスの加入者数が集まっていない初期段階でも、アプリ提供者へは一定額の保証をするため、400万人が加入していることを前提とした予算を赤字を覚悟で確保している」と告げられたという。いや〜、KDDIさん、力が入ってます。
仮に今後、auスマートパスの加入者数が順調に伸びてこのモデルが確立された場合、「月額390円×加入者数−KDDIのテラ銭」を参加開発者間でレベニューシェアすることになる。人気アプリの開発者には、毎月一定額の収益が黙っていても転がり込んでくるわけだ。
ちなみに、 曺氏によると「レベニューシェアの算出は、アプリのダウンロード数だけでなく、アプリの起動回数も考慮される」という。ということは、無料のアプリであっても、ソーシャル系のように日に何度も起動するアプリであれば、しっかりと収益を上げることができる、ということだろう(無料アプリはレベニューシェアの対象外というご指摘をいただき、上記を削除しました)。
ただ、auスマートパスにアプリを供給するにはKDDIの審査があるそうで、来る者拒まずという状況ではない。実際、auスマートパスで提供されるアプリの数は、今後も500タイトル以内に抑えるようなので、ある意味狭き門ということだ。App StoreやGoogle Playが来る者拒まずで「アプリ登録数ン十万本!」などとうたっているのとはまったく正反対の逆張り作戦で、ユーザーを囲い込もうという戦略だ。
それに、「ダウンロード数や起動回数などを見ながら、タイトルの入れ替えはある」(アプリ開発企業の幹部)という。もしかしたら、かつてのiモード初期のころのように、「公式サイトになれたら勝ち」的な状況が形成され、「auスマートパスに入る」ことがAndroidアプリ開発者の成否を左右することになるかもしれない。
これは筆者の想像だが、今後、auスマートパスが順調に離陸すれば、NTTドコモも確実に「定額制の取り放題」戦略を取ってくるとにらんでいる。
現在のドコモのスマートフォンコンテンツ戦略は、売り切りダウンロード型を軌道に乗せることができずに四苦八苦した挙げ句、iモードの契約をそのままスマートフォンに引き継いで利用できる「dメニュー」を開始している。iモードのコンテンツプロバイダーが、iモードと同じサービスをスマートフォン向けのdメニューに移植すれば、継続的に収益を上げることができる。一種のiモード公式サイト救済策であり、極めて内向き、後ろ向きなコンテンツ戦略だ。だがドコモとしても、スマートフォン向けコンテンツで「攻め」に転じなければならないときが必ずやってくるだろう。
月極定額制というアプリ販売の常識をぶち破ったauスマートパスがAndroidのアプリビジネスに新風を吹き込むことになるか、KDDIのお手並み拝見といったところだ。
山崎潤一郎
音楽制作業に従事しインディレーベルを主宰する傍ら、IT系のライター稼業もこなす蟹座のO型。iPhoneアプリでメロトロンを再現した「Manetron」、ハモンドオルガンを再現した「Pocket Organ C3B3」の開発者でもある。音楽趣味はプログレ。近著に、『心を癒すクラシックの名曲』(ソフトバンク新書)、『iPhone/Androidアプリで週末起業』(中経出版)がある。
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