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» 2012年05月30日 00時00分 公開

スクラムマスター――あえて不都合な事実に目を向ける“チームの医者”開発チームを改善するためのスクラムTips(7)(2/2 ページ)

[かわぐちやすのぶ(@kawaguti),@IT]
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チームの変化を促す、チェンジエージェント

チームの変化を促す、チェンジエージェント

 障害を取り除く活動において、スクラムマスターは「チームの変化を促すチェンジエージェント」として振る舞います。

チームのマインドをチェンジする

 上手に変化を起こすために重要なことは、「チーム自身で変わろうと思ってもらうこと」です。

 どんなに素晴らしい改善でも、押し付けられれば、抵抗したくなるのが人情というもの。まずは、障害をチームの真ん中に置き、みんなでその問題について認識することが重要です。

 何が問題なのか? 放っておくと何がまずいのか? その障害がなかったら、どのように良い状態になっているか? 考えられる解決策は? リスクは? 不安な部分は? 必要なリソースはどのくらい?

 考えるべきことはたくさんあります。これらのことを、チームで分析し、アイデア出ししながら、解決へと進めていきます。

 チームが課題を認識するために、外部の知識は結構役に立ちます。チーム内だけでぐるぐる考えるのではなく、セミナーや勉強会、ブログや本を通じて、新しい知識やヒントを得れば、改善すべきポイントや現実的な改善策を見つけやすくなるでしょう。参加する時間すら取れないときは、勉強会や本で新しいアイデアを得てきた人とランチしてみるのも有効です。

学びの姿勢を引き出す

 スクラムのチームは少人数です。各メンバーが自分の得意分野での学びを怠ってしまうと、他の人が代わりにやってくれる可能性はあまり高くないと考えるべきです。スクラムマスターは、自分が学ぶことはもちろん、チームの各メンバーの学びへの姿勢も、引き出していくとよいでしょう。

 新しい技術・方法を取り入れる場合、事前に十分に試す必要があります。試すための時間や必要なリソースを確保するために、プロダクトオーナーとスクラムマスターが相談するケースもよくあります。

チームの技術向上のリソースを確保する

 改善のための努力を優先すべき、と考えられる場合は、 スプリント計画の終了までにプロダクトオーナーに説明し、優先度の修正を合意する必要があります。技術的な向上を提案することは、チームとしての責務です。スクラムマスターはこの点も促していくべきです。

改善を議論し、自分たちで試すことで、チームは成長していく

フォールバックを考える

 改善を実際に取り入れるときに、以前までうまくいっていたやり方が壊れてしまう可能性があります。ソースコードやデータベースと同じように、前のバージョンに戻す「フォールバック」もスクラムマスターは考えておく必要があります。

 目的と効果、結果として考えうる状況を吟味し、チームとして共有しておきます。スクラムマスターは常にその点を確認し、必要に応じて、説明や議論を促すことが求められます。チーム内での議論を通じて、チーム・メンバーはさまざまなことを学習できます。


一度に複数の解決策を行わない

 同時に複数個所に修正を入れてしまうと、「この修正は、結果として改善したのか否か」という効果測定が難しくなります。そのため、スクラムマスターは「今はこの課題に取り組む」と、“課題の選択”をチームに促しましょう。改善はチームの成長の機会です。プロジェクトを進めながら、数少ないリソースを割くのだから、最も効果が高くなるよう、采配しましょう。

 このように、チームに解決すべき課題の選択を促すことは、チームの成長にとって大きな影響を与えます。

スクラムを「組む」

 スクラムは、アジャイルチームを始めるためのスターターキットとしてよく利用されています。そのためスクラムは、どんなタイプのプロジェクトでも始めやすいよう、必要最低限に絞ったフレームワークになっています。毎週のミーティングを設定し、タスクリストを書き出し、リーダーに「あなたはプロダクトオーナーをやってください、私はスクラムマスターをやります」と言っておけば、なんとなくスクラムに従ったような形にはなるでしょう。

 しかし、思い出してください。チームの目的は形を整えることではなく、成果を出すことです。大事なのは、「チームの情報のすべてをチームの真ん中に置くこと」です。問題も気付きも、不満も成功も進捗もすべて、チーム全員が把握できるようにします。そして、常に適切なタイミングで状況をチェックし、チームとして適応できるようにしておく必要があります。

 ラグビーのスクラムの写真を見てください。スクラムのチームは、円陣を組んだチームそのものです。足下にはボールを置き、ボールに全員が注目して動きます。チームでスクラムを「組む」という感覚をぜひ考えてみてください(スクラムを「組む」という表現は大阪のスクラムマスター、田口昌宏さんから教えてもらいました)。

スクラムマスター自身も成長していく

 スクラムマスターはチームを改善する触媒、チェンジエージェントの役割を担っています。伝道師であるところのスクラムマスター自身も、悩みながら成長していかなければなりません。

 残念ながら、よいやり方を魔法のようにコピーする方法はないので、1つ1つ失敗しながら、対応を学んでいくしかありません。もし近くに、悩みを共有できる相談相手がいないときは、コミュニティへの参加もぜひ検討してみてください。

 幸いにして、日本でもいくつかのスクラムコミュニティがあります。

  • 「スクラム道」:スクラムをやっている人同士の議論と交流の場を提供している:スクラムをやっている人同士の議論と交流の場を提供している
  • 「すくすくスクラム」:初心者から幅広く話し合える場を提供している:初心者から幅広く話し合える場を提供している

 情報は常に真ん中に置いて共有する。それはスクラムチームの1歩外に出ても、変わらず重要なことなのです。

筆者プロフィール

かわぐちやすのぶ

アギレルゴコンサルティング

スクラムのトレーニングや、認定トレーニングのオーガナイザーを務める。2011年7月より現職。


金融向けプロダクト企業にて、14年間勤務。社内向けの新規ツールや、新企画のパイロットプロジェクトを中心に、少人数でユーザー調査から製品開発、運用まで行うプロセスを探求。企業向けの新規プロジェクトのコンサルティングも手掛けた。


イノベーションスプリント2011 実行委員長、スクラムギャザリンング東京2011 実行委員、デベロッパーズサミット2011アドバイザー、AgileUCD研究会 共同発起人。



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